〈福岡の麺料理〉

皆さん、啜ってますか? ラーメンライターの上村です。今回の主役は福岡県・那珂川市にある人気店「御忍び麺処 nakamuLab.(ナカムラボ)」。「え! こんなところに?」という立地で、見た目は普通の一軒家。そして完全予約制という点も2018年の開業以来話題を集めている店ですので、すでに体感された方、ウワサを聞いたことのある方も多いかもしれません。ラーメン界全体で見てもとにかくユニークな存在。そんな「ナカムラボ」を改めて紹介しようと思った理由は、同店がラーメンの新たな可能性を指し示した功績、店主の中村さんがネクストステージに入ったことを、声を大にしてお伝えしたかったから。何より、改めて食べてみても、やっぱりうまいですね。常に予約が入りっぱなしというのも頷けます。

九州一のラーメンライターがレポート

上村敏行
1976年鹿児島市生まれ。J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3,000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務める。ラーメンライターとしての活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介された。「九州の豚骨ラーメンこそ最強!」を掲げる「RAMEN WONK KYUSHU(ラーメンワンク九州)」主宰。

どうみても普通の家。靴を脱いで「おじゃまします」

まず「一軒家で営業する完全予約制ラーメン店」と聞くと、高価なラーメンや、ラーメンのコースなどを連想するかもしれませんが、「ナカムラボ」で出しているのはあくまで一般的な値段のラーメンです。メニューは「鶏白湯soba」「和風醤油soba」「担々麺」の3本柱。豚骨ラーメンはありません。

事前に電話かInstagramで予約さえしていれば、いつものラーメン店のように利用できます。ただし予約がびっしりと詰まっているため時間厳守で。車がないと不便な場所にあり、福岡中心部から1時間ほどかかるので、時間に余裕をもって出かけてください。そのほか、住宅街につき近隣住民へのマナーや駐車場についてなどが予約時にアナウンスされます。

予約時間がきたら、入口のピンポーン♪を押して入店。店主は中で待っているので、扉が開くのを待たずに入って大丈夫です。玄関で靴を脱いで「おじゃましま〜す」。そう。「ナカムラボ」に入店する時って、ついつい「おじゃまします」と口に出てしまうんでよね。周辺の住宅にも馴染んだ、いわゆる普通の家ですから、友達の家に遊びに来たような懐かしい雰囲気があります。一方で、ラーメン店としては非日常空間につき、背筋が伸びるような程よい緊張感も。その独特な空気感が漂っているのが「ナカムラボ」なんですね。

この場所に人を呼べれば、どこでも勝負できる

店の中も外観のイメージと同じく普通の家。8席ほどの畳の座敷がメインになっています。そして、おウチのキッチンのような厨房で一人、ラーメンに向き合っているのが店主の中村聡志さん。筆者自身、中村さんとは長い付き合いですが、こんな変わった店をやっている人なので、まぁ変わっていますよ。そして、スケールがでっかく、決してブレない芯をもつ男。愛想がいいとは言いませんが、皆をワクワクさせ、惹きつける魅力をもった方です。

中村聡志さんは1986年福岡出身。若かりし時はキックボクシングにのめり込み、これまた大好きだったラーメンの世界へ転身。博多ラーメンの源流とされる「うま馬」で腕を磨いてきました。

「僕が他のラーメン職人さんと違うのは、キャリアの早い段階で世界各地を見てきたからかもしれません。『うま馬』時代に、アメリカ、シンガポール、フィリピンなどで店舗立ち上げにも携わり、ラーメンのもつワールドワイドなポテンシャルを肌で感じてきました。その影響が大きく、“世界で通用するラーメンビジネスを立ち上げる”という明確なビジョンをもって独立。世界への第一歩がナカムラボなんです」(中村さん)

中村さんは前職では豚骨ラーメンを作ってきましたが、どこにも属さない鶏ラーメンで勝負すると決めました。一から味作りを行うためラボ的役割で借りた物件が現在の店舗に。

「ここは地元の友達のおじいちゃんちなんですよ。当初は、泊まり込みで試作を繰り返すラボラトリーとして借りたのですが、他に出店したい物件も特になかったので、そのまま店舗にしてみようかと。この辺鄙な場所に人を呼べれば、ゆくゆくは世界各地どこでも勝負できるのではないかと思ったんです。まわりから大反対されましたけどね」(中村さん)

席数、駐車場も限られた一軒家。お客様にしっかりと向き合いたい、そしてゆったりとラーメンを楽しんでほしい、との思いから、完全予約制というシステムをとりました。ラーメンのうまさはもちろんのこと、誰かに教えたくなる穴場感が評判を呼び、瞬く間に超人気店へ。

ちなみに同店は、コロナ禍でもほとんど客足が衰えなかった一店。逆に「新しいラーメンの様式」として、想定外の注目を集めることにもなりました。