【じっくり食べたいハンバーガー】第30回「HENRY’S BURGER(ヘンリーズバーガー)自由が丘」
「食べログ ハンバーガー 百名店 2022」が5月12日に発表されました。初選出が29店と、ガラッと顔ぶれの変わった今回の100店ですが、一方で、2017年以来毎回選出され続ける常連店もあります。「ヘンリーズ バーガー 代官山」もそのひとつ。そのヘンリーズの新店が昨年12月、東京・自由が丘にオープンしています。
久しぶりに自由が丘を歩きましたが、やっぱりいいですね。街のサイズ感が絶妙で、そしてそこを行き交う人々の姿がすごくよく似合う街に思います。やはり自由が丘は人出があってこそ。コロナ以来、空き店舗も目立ちますが、人はそこそこ戻ってきました。そんな自由が丘のことを「平日でも休日のような時間が流れる街」と評したのは、ヘンリーズバーガーの統括マネージャー、大竹さんです。
ヘンリーズバーガーは秋葉原に2号店を出していましたが、新型コロナの影響により、一昨年の6月に閉店。1年半のブランクを経て、新たに出店したのがここ自由が丘です。「1号店がある代官山の街の雰囲気に近い場所に出したかった」と大竹さん。確かに、秋葉原より東急沿線の方がヘンリーズバーガーには合っているかも知れません。
店内はカウンターのみ7席。そこまでは代官山の本店と大差ありませんが、自由が丘店はビル3階のテラスが利用できます。それもちょっとしたガーデンテラスのようになっていて、明るくさわやかな自由が丘の雰囲気にぴったり。前回の「ウェーブス」の記事にも書きましたが、背の低い建物が並ぶ街は明るくて広くて、気持ちがいいですね。
ヘンリーズバーガーのメニューは至ってシンプル。パティ1枚から4枚まで、枚数が異なる4つのバーガーがあるのみ。A5ランクの黒毛和牛100%パティを味わうためにある、単純にして明快なメニュー構成です。その4品すべてがチーズバーガー。トッピングは追加チーズと追加パティのみ。ベーコン、エッグ、アボカドなどは最初からありません。
まずはパティ1枚の「ハンバーガー シングル」からいってみましょう。ポップでカラフルなボックスに入って出てきます。が、中身は本格。市ヶ谷の「炭火焼肉 なかはら」で一頭買いしたA5ランク黒毛和牛の肉を超粗挽きにしてパティにしています。メインの部位はスネ肉。「ブラッカウズ」の回でも書いた通り、スネは赤身中心で肉の味が濃く、挽肉に適しています。その他複数の部位を合わせて7〜8mm程度の粗挽きにし、1個100gのボール状に成形。それを鉄板にのせて上からギューッとスマッシュ!
この調理法を「smash burger」と言います。ギュッと圧力をかけることで挽肉同士が結着し、中心部はしっとりジューシーに、外に広がった縁の部分はギザギザのカリカリに焼き上がります。「ミッケラー カンダ」によって昨今注目されるようになったスマッシュバーガーですが、ヘンリーズではそれ以前からスマッシュ式でグリルしていました。アメリカ生まれのオーナー中原健太郎さんが、どうやら現地で調理の様子を見ていたようなんですね。そんな中原さんの在米時の呼び名は「ヘンリー」。店の名前の由来です。
かぶりつけば、まず際立つのはバンズの歯切れのよさ。サックリと気持ちよく噛み切れます。バンズのみだとパサッとややドライですが、パティと合わさった箇所を食べると、生地に油がしっとり染みて絶妙のハーモニー。コゲ味の「プン」と利いたパティが抜群の存在感を発揮しています。
「牛肉は焦げ目を付けないと肉の味が出ない。香りが出ない」と大竹さん。つまり、スマッシュ式によるヘンリーズの調理法は「いかにおいしく焦げ目を付けるか」に力点が置かれているワケですね。ソースがやや多く感じられましたが、レリッシュの酸味がさわやかで、言うなれば、黒毛和牛の“ガチ”な味わいを“ポップ”にデコレートしているようにも思えました。
以上が「シングル」の感想です。問題はここから……。
「ヘンリーズはダブルから」という定説があります。黒毛和牛パティを味わうなら「シングルよりダブル」という意味ですが、それに倣い「ダブル」を食べてみたところ……やっぱりダブルでしょ! ヘンリーズらしさが確かによく表れています。プンプンと匂い立つビーフのフレーバー。「牛」の味がこんなにもするバーガーもそうはありません。オリジナルソースはケチャップ&マヨネーズベースのオーロラ的ソースで、スイートレリッシュの酸味と各種スパイスの辛味がよく利いています。チーズはメルトしたチェダーが2枚。
ところでメニュー表に「チーズあり? or なし?」と書いてあったのをご記憶でしょうか。注文時に口頭でも必ず聞かれるのですが、そこを聞き流さずに立ち止まって考えてみてください。「このバーガー、チーズなしで食べたらどうなるんだろう?」と。これが次なる問題です。
こちらが「ダブル」のチーズなし。チーズ2枚がなくなり、ソースのかかる位置が変わりました。食べてみた結果……私はチーズなしの方が高評価ですね。とろけるチーズのねっとり感がなくなって、よりストレートに「牛」が入ってきます。そのコリコリとした粗挽き食感。プンプンとしたスマッシュのコゲ味。そこへ割り込むスイートレリッシュのさわやかさ。そして、ここでもバンズの食べやすさが光ります。
バンズは高田馬場の「馬場FLAT」作。半年がかりで共同開発した国産小麦100%のヘンリーズオリジナルバンズです。特徴は歯切れのよさ。それに尽きます。パティをダブルにしてもサクッと噛み切れてとにかく食べやすい! おかげで全神経を「牛」に集中できるという、まさに値千金の食べ口! 断面を見ると気泡の多いライトな生地であることがわかります。このバンズがある限り、パティ2枚でも3枚でもストレスなく食べられるでしょう。では、4枚はどうか?
こちらがパティ4枚×チーズ4枚の「クワッド」。クラブと呼ばれる第3のバンズを間に挟んだ2階建てのバーガーです。大手チェーンでも期間限定や夜限定などで4枚重ねのバーガーが食べられますが、それらとこのクワッドとの違いは「最後まで飽きずに食べ続けられる」点にあります――あくまで私個人の感想です。ポイントはパティの食感。スマッシュでできたコゲのカリカリと粗挽き肉のつぶつぶ・コロコロとした食感が絶えず感じられて、途中でダレることなく、興奮のうちに食べ終えることができます。こうなると野菜はあってないようなもの。肉とソースとチーズの力だけで食べ切れるバーガーです。
あとは「ソースなし」「野菜なし」なんてパターンも試せますが、今回はここまでにしておきましょう。ヘンリーズバーガーのコンセプトは極めてシンプル。黒毛和牛のパティをいかにおいしく食べるかという、その一点に集約されるバーガー店です。何を足せば or 引けばこのバーガーはさらにおいしくなるか――全神経をその一点に注いで、皆さんもぜひあれこれお試しください。そして注文の際にはこの言葉をお忘れなく……「ヘンリーズはダブルから」。
※価格はすべて税込