ハンバーガーをこよなく愛し、そのおいしさを探求し続ける、ハンバーガー探求家の松原好秀さん。そんな、ハンバーガー界唯一の存在である松原さんに、一食の主食として満足できる、じっくり食べられるハンバーガーを紹介してもらうこの連載。第15回は、デンマーク発のブルワリー直営ハンバーガーショップ「ミッケラー カンダ」の魅力をじっくり教えてもらいます!
【じっくり食べたいハンバーガー】第15回「ミッケラー カンダ」
秋、10月はビールの季節! ドイツでは「オクトーバーフェスト」という世界最大のビールの祭典が毎年開かれますが、さすがに今年は中止のようです。そのドイツのお隣、デンマークに「ミッケラー」というビールメーカーがあります。今月はそのミッケラー直営のハンバーガーショップをご紹介しましょう。場所は東京・神田!
ミッケラーは2006年にデンマークのコペンハーゲンで誕生。自前の醸造所(ブルワリー)を持たず、ほかのブルワリーの設備を借りてビールを造る「ファントムブルワリー」という、ちょっと変わった形態で知られています。ゆえにその活動はワールドワイド。世界各地のブルワリーと組んで精力的にビール造りを行っています。
日本のファンをさらに増やすべく2017年に直営のビアバー「ミッケラー トウキョウ」を渋谷にオープン。そして今年2020年6月にオープンした国内2店目の直営店が、この「ミッケラー カンダ(Mikkeller Kanda)」です。
JR神田駅北口を出てすぐの好立地。雨の濡れそぼつ日に行ったせいか、何とも哀愁漂う飲み屋街の一角にあります。この路地裏でミッケラー カンダは向こう3年の期間限定営業。その理由は、店が入る建物の取り壊しが決まっているから――。
それを承知で借りた物件は店舗でなく、長らく民家兼作業場のような場所だった木造3階建てで、かなり古い建物ですが、デザイナーを入れてちょっと不思議な魅力の空間にリノベーションしています。
1階が昼から営業のハンバーガーショップ。2階と3階は16時から営業のバーで、16時以降は、1階で注文したバーガーを上階で食べることもできます。昇り降りの際は名物の「急階段」にご注意を。
こちら(写真上)が2階のバーです。ミッケラーの銘柄を中心に、国内外のクラフトビールが全部で12本、タップに繋がっています。この日はミッケラーが9本。「MIKKELLER」とあるのはベルギーで醸造したもの、「MIKKELLER SD」は米国サンディエゴで醸造したもの。あと、1階にもう1本繋がっていて、全部で13銘柄。樽が空き次第、どんどん入れ替わっていきます。缶ビール・ボトルビールもあり。
ではいよいよ、ハンバーガーの話。「CHEESEBURGER」「TRIPLE」「VEGGIE」「SLIDERS」の4品と、週替わり1品というシンプルなメニュー構成です。まずは「CHEESEBURGER」からいってみましょう。これが“まずは”であると同時に“究極の”チーズバーガー!
パティは「短角牛」を使っています。この日の肉は「千葉県産 しあわせ絆牛」のネックと「岩手県 田村牧場産 短角牛」のスネの組み合わせ。北海道・八雲牧場産の短角牛の場合もありますが、両牧場とも「100%自給飼料による生産」というところは変わりありません。これを店内でミンチに。サイズは90g強。成形せず、ボール状に丸めたものをグリドルで焼くのですが、その焼き方がポイントです。
ミッケラー カンダでは「smash burger」などと呼ばれる、コテで上からギューッ! と潰す(smash)方法でパティを焼いています。パティの厚みは1cm以下。縁がギザギザに割れますが、この方法だと早く焼けます。油断していると「あれ? もうできたの?」ぐらいの素早さです。
素晴らしいのは、手に持ちやすく、かぶりつきやすい、その手ごろな厚みとサイズ感。チーズ1枚に自家製ピクルス、刻んだレッドオニオン、バンズの裏にバターとマスタード、マヨネーズ。ただそれだけのバーガーですが、もうそれだけで十分。潰したパティは、外は強く焼け、中は挽肉同士がくっついて、しっとりウェットに焼き上がります。そこへチーズがねっとり絡み、バンズはやわらかく軽く、口に「スッ」と入って来る感じがたまりません。
プラス300円でサラダとポテト付きに。ミックスサラダはクミンシードとフレッシュミントが利いたスパイシーな味付け。ポテトは北海道産の無農薬のじゃがいもを使用。丸ごとオーブンで焼いた後、粗くクラッシュしてフライに。添えられたアイオリソースが辛くて美味! これはついつい飲んでしまう味。「誘い込まれている感」満点も、しかし抗えず。ビールが進むこと!
ポテト大活躍のメニューが「SHIHO’S FRIES」。牛挽肉、カレーソース、チーズ、サラダをのせて、上からバーナーでゴーッ! とひと炙り。カレーも挽肉も芳ばしく焦げて、これもビールの友。タコライスのライスをポテトに置き換えた感じでしょうか。一人で食べ切る手もアリです。
もう一品、「VEGGIE」は豆と野菜のコロッケです。ベジバーガーと言うより、「コロッケ」として独特の魅力を放っています。パティを作るより手間がかかるそうで、結構な労作です。
敢えて品数少なめにして、要所要所を手間ひまかけて作っているクラフトバーガーとクラフトビールのお店です。そのムリをしていない「日常のバーガー」の感じが、昨今のグルメバーガーとは一線を画していて、すごく魅力的。これぐらいがちょうどいいんですよね~。世界で唯一のMikkeller直営のハンバーガーショップです。テイクアウトもこの秋からスタート!
※価格はすべて税込