両輪の片方を担う章博さんの四川料理的手腕

中華そば以外のメニューは息子の章博さんが腕を振るう

古き良き歴史と伝統を継承しているのが前述の中華そばであるなら、その他に食券機を賑わすメニューは息子の章博さんによる革新の旗印である。この場所で再スタートを切ったすずめが“懐かしいだけの店じゃない”ことは、彼の生み出す麺料理を食べればわかるはずだ。

今回は数あるメニューの中で最もおすすめしたい一杯を見てほしい

息子さんは学生時代から四川料理の店で働くなどしており、複数の中国人シェフから様々な調理の技法を教わったという。その知識をいかんなく発揮して、四川で食べられている様々な辛い麺(燃麺)をメニューに加えているのである。ここで丼に入れているのは、醤油ダレ、米酢、黒酢、豆板醤、花椒、黒胡椒、ラー油。醤油ダレには、すずめの中華そばの元ダレを流用しているため、本質的な軸はブレてはいない。

麺もすずめで愛されてきたお馴染みの麺

四川風の麺料理といえども、使用する麺は中華そばで使っているものとまったく同じ。「本場四川で食べられているものに近付けるにはうどんみたいな麺のほうが合うんですけどね」と言いながらも、しっかりとすずめの遺伝子が組み込んであるわけだ。

四川風まぜ麺が完成に近付く

さらに、中華そばに使うスープを少量加えたら、麺を盛って、具材をのせていく。見た目はなかなかな四川料理に近付いていくものの、麺もタレもスープも中華そばの味構成が屋台骨として生きているのがポイントと言えるだろう。

すずめの革新的一撃! 紅辛まぜそば

「紅辛まぜそば」800円

「まさか、すずめにこんなメニューがあるなんて!」。そう思った方も多いのではなかろうか。この紅辛まぜそばにのっているのは、ジャージャン、もやし、青ネギ、ヤーツァイ、ゴマダレ、ピーナッツ、揚げ玉ねぎ、揚げ唐辛子。個人のラーメン店が余力で作るようなクオリティーではなく、むしろ「四川料理専門店で出てくる麺料理」と表現したほうがしっくりくるくらいの手のかかりようなのである。そして私は、これが個人的に大好きなのだ。

しっかりと混ぜ合わせてからいただくのが流儀

こうした汁なしのまぜ麺は、丼の下の部分にタレやスープが層になってたまっているために、麺としっかり混ぜてから食べるのが作法。できれば、底の部分を持ち上げるようにして、上下に立体的に混ぜていくといい。ナッツなどの細かい具材も多く入っているために、しっかり麺と具材が馴染んでくるまで根気よく混ぜていこう。

うまさと辛さと痺れと酸味がクロスオーバーする掛け算の美味

一気にすすれば、得も言われぬ快感が体を駆け巡る。一見すると、“赤いから辛そう”と思いがちなのだが、むしろこの料理の本質は、その酸味にあると思っている。中国の黒酢に京都の米酢を合わせて使っているため、むせるような酸味ではなく、タレやスープの基本的なうまみにじっとりと馴染むのである。まずは酸味とうまみの足し算があり、そこに交差するように辛さと痺れが乗算されていくとでも表現すればいいだろうか。なかなか日本の料理に当てはめられないタイプの味なのだが、とにかく私は「快感を覚える」のである。

こんな麺料理が広島で食べられることにまず感動! しかも「すずめ」で!

「四川料理は透き通ったスープを使うことが多いんですけど、うちはすずめの中華そばのスープを使います。なのでコクのあるあっさりしたスープに、四川のパンチを加えるように考えながら調整しています。」と語る章博さん。四川料理で学んだことを、すずめ流にカスタマイズして新しい着地点を模索した結果が、現在のメニューなのだという。

伝統と革新を両翼にして「すずめ」の羽ばたく未来

令和の時代! すずめの二人三脚は新たなステージへ

ご主人はこう語ってくれた。

「世の中は日々変わっているからついていかにゃいけんのです。昔ながらの“そば一本”というのは古い話です。未来を見ていかんと……」

すずめの店名を耳にした際に「懐かしい」という人がたまにいる。しかし、それは違うと思っている。懐かしいのは「すずめの中華そばの味」であって、「すずめという店」ではないのである。懐かしいものと新しいものを両翼にして、店は常に進化しているのだ。すずめは今現在も、未来に向かって羽ばたいている。

※価格は税込です。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

撮影:貴島稔之
文:加藤ひさつぐ