調理風景から思い出す広島ラーメンの原風景

厨房ではご主人の山本誠二さんと息子の章博さんが2人で並ぶ

すずめは元々、初代のご夫婦が2人で始めた店である。その後、時は流れて長男と娘婿(現店主の山本誠二さん)が店を切り盛りするようになった。その後、一度の閉店を経て現在に繋がるわけだが、今はその山本さんが息子さんと二人三脚で店を回している。「すずめは常に二身一体でやっとるんです。2人で一人前です」と語るご主人に重なるのは息子さんの雄姿。感慨深い。これが広島ラーメンの原風景なのだ。

130gの中細麺を使うのは昔のまま

中華そばの注文が入ったら、ご主人の出番。麺は当時から変わらず、地元広島の原田製麺のものを使用。60年以上愛されている味なので、守るところはしっかり守るという思いを持っているのだという。

醤油ベースの元ダレにはラードの甘みを加える

青色の丼は以前の店舗から使用している特注の有田焼。そこに醤油味の元ダレを入れる。「このタレは旧店舗のころから息子が仕込みをやっているんよ。もう十数年も仕込みをやっているからね」と語るご主人。厨房を一見すると、歴史ある中華そばはご主人が一人で作っているようにも見えるが、実はこの部分も共同作業なのである。

この場所で5年経ってようやくスープが馴染んできた

すずめの命のスープがここにある

豚骨と鶏ガラ、そして大量の野菜を煮込んだスープがすずめの生命線。ここでご主人から驚くべき発言が飛び出した。「この場所に移転して5年経って、ようやくスープが馴染んできたんよ。鍋じゃったり、コンロの火の具合じゃったりが違うでしょう。オープンしてすぐくらいに、有名なグルメ本の調査員が来たんだけど、今来たら評価が違うと思うよ。昔のスープになってきたから」

完成間近! おいしいへのカウントダウンが始まった

チャーシュー、もやし、青ネギは広島ラーメンの定番。もうすでにこのビジュアルで口内はスタンバイ状態に入っている。左脳でどんなにうんちくを語っても、一口食べたときの感激が勝ることは明白なのだ。

「すずめ」健在の証明

「中華そば」700円

名だたる広島の名店が追いかけた昔ながらの広島ラーメン。限りなくその源流に近いのが、このすずめの中華そばだ。一般的にラーメンブームと呼ばれる以前から、地場で愛されてきた日常の味。多くの野菜から抽出した栄養があり、豚骨や鶏ガラのうまみに、キリッとした醤油の豊潤さ。総合芸術としてバランスが取れた一杯は、今もなおこの場所で変わらぬ味を楽しむことができる。

「どうですか、おいしいでしょう?」。そう語りかけてくれるご主人は、もしかしたら誰よりもすずめの中華そばのファンなのかもしれない。この日は驚きのエピソードを聞かせてくれた。「うちのラーメンは伸びてもおいしいんです。私も女房も年を取ってからは、伸びたのが好きになりましたね。よく営業後に、ゆでた麺1玉を2杯分のスープに入れて持って帰るんですよ。それで伸びたものを温め直して食べたらおいしいんです」。これは驚いた。しかもお客さんの中には、出来上がったラーメンを持って帰って、次の日に伸びきったものを食べるという猛者もいるそうだ。好みは人それぞれとはいえ、すずめの奥は深い。