〈広島の麺料理〉

広島で昔ながらの中華そばとして語り継がれる名店「すずめ」。一度は惜しまれながら閉店したものの、場所を変えて営業を再開。そして現在は、新たなタイプのメニューを加えて進化を続けている。今回は、広島で数々のグルメ番組を手がけてきたディレクターがイチオシの店として紹介。老舗の挑戦を徹底解明する!

教えてくれたのは

加藤ひさつぐ
1975年広島市生まれ。コンプ・アニ代表。長年、地元広島のテレビ・ラジオ各局で番組制作に携わるフリーディレクター。主にグルメ系の情報番組の制作を担当し、これまで約5,000食以上の料理の取材を行なってきた。特技は箸上げ。広島市中心部に生まれ育ったため、日々市街地エリアでの外食リサーチをおこなっている。著書に『広島汁なし担担麺』(発行:メディアジョン)があり、広島汁なし担担麺の全国的な広がりに貢献している。voicy中国新聞公式チャンネルパーソナリティ。

「広島ラーメン」という名の市民の誇り

これが広島のソウルフードなのである

広島市内には「広島ラーメン」という言葉がある。いわゆる「中華そば」と呼ばれたりもする醤油豚骨スープのラーメンのことを指す。これは終戦直後の闇市の時代、屋台などでラーメンを売り始めた歴史に端を発するものだ。すなわち街が作られる重機の音と、人々がラーメンをすする音は、共に響き合い、広島グルメの歴史を積み上げていったと言っても過言ではないのだ。

まだやってるよ! 歴史を語る上で欠かせない老舗「すずめ」

路面電車で舟入幸町の電停で降りて向かおう

路面電車「広島電鉄」(通称:ひろでん)に乗って、舟入幸町の電停で下車。ここから西方面に向かうとすぐに店舗にたどり着ける。広島ラーメンで「すずめ」と言えば知らない人はいないと言ってもいいほど有名な店なのだが、実は2015年に一度閉店したニュースが大々的に報じられたために、未だに“すずめは閉店した”と思っている人々も多い。さらに、以前の店があった場所にタクシーで連れて行かれてしまう事例も多いので注意していただきたい。


広島ラーメンの代表格。ここが現在の「すずめ」

惜しまれながら一度は閉店したすずめだったが、翌年の2016年2月、現在の場所にひっそりと再オープンした。復活当初は創業時の「寿々女」という漢字表記ののれんを掲げていたが、その後しばらくしてお馴染みの平仮名表記に落ち着くことになった。そんなバタバタした経緯があったためか、なかなかこの場所に“あの「すずめ」がある!”ということは広島市民にいまいち浸透しないでいる。

すずめの文字が書かれたのれんをくぐる瞬間は、「おいしい」が約束された瞬間でもある

いったいどれだけの人がこれまでにすずめのラーメンを食べてきたのか。県外のファンも数知れないすずめのラーメンが、こののれんの向こうに待っている。口の中はもう思い出の味の記憶を反芻している。ここまで来たら引き返せない、すずめに「すすめ!」だ。


この空間で懐かしのラーメンに出合えるのだ

扉を開けると右側にカウンター席が連なり、左側には座敷のテーブル席が3卓。そのすべてにコロナ対策のパーテーションが設置してあるのだが、これはすべてご主人の手作り。すずめを受け継ぐ前のサラリーマン時代に空調の図面を描いていた経験があるそうで、天井の空調ダクトまで自身で作っているのだそうだ。料理人には器用な人が多いのだが、さすがに多才と言わざるを得ない。

密を避けて食券機は一組ずつがルール

席に着く前に、まずは食券機とのご対面。ここでおそらく、以前のすずめを知っている古参ファンならギョッとするに違いない。2015年よりも前のすずめは「中華そば一本勝負」だったが、いまは何やら「紅辛そば」や「汁なし担々麺」など四川寄りの麺料理のラインアップが増えているのだ。詳しくは後述することにして、ひとまず懐かしの中華そばのボタンを押してみよう。食券が出るとともに、思い出の時代にタイムリープするはずだ。