汁があってもいい! 梵天丸の選択肢
これだけ汁なし担々麺を熱く語っておきながら、汁あり担々麺もおすすめしたい。この店は汁ありも放っておけないくらいにおいしいのだ。秋本オーナーに聞くと「お客さんの6割が汁なし担々麺。3割が汁ありで、1割がラーメンって感じですね」とのこと。結構な割合で汁ありも出ているのだ。
東京などでは「汁あり担々麺専門店が汁なしも出している」というパターンは多く見られるが、広島では「汁なし担々麺の専門店が汁ありも出している」というパターンが多い。
汁なし担々麺で培った独自の調味オペレーションから生まれた「汁あり」というのもまた面白く、提供している店は決して多くはないが、広島の汁なし担々麺専門店で汁ありを食べるという選択肢も趣がある。
辛さに応じてラー油を作り変えるほど、ラー油へのこだわりを見せる梵天丸の汁あり担々麺は「梵天麺」。キリッと辛くて、味覚に鋭く斬り込んでくる。スープのベースはとんこつスープ。そこに自家製の辛さの素を加えるのだが、その内容は秘密だという。
「料理は最初に甘さから感じるのがいいんです。うちの梵天麺はまさにそうで、口に入れた時には甘さを感じると思います。そのあとで辛さを感じるように調整しています」と秋本さん。
ファミリーにも大人数にも支持される懐の深さ
汁なし担々麺専門店と言われたら「辛いのが苦手なら無理」とか「家族では行きにくい」と思ってしまいがちなのだが、この店は昔から家族連れも多く見られるのが特徴。女性を中心とした元気で明るい接客や清潔感のある店内ももちろん、メニューの幅広さが店の魅力に大きく貢献していると感じる。中でも焼ギョーザはぜひ注文してほしい。
素材はすべて国内産から厳選する手作り生ギョーザで知られる「味の匠」による手作りのギョーザを使用。調理は100%ピュアオリーブオイルをふんだんに塗って、カラッと焼き上げる。焼き目がしっかりとついたギョーザは、よそ行きの衣装をまとっているようでもあり、思わず見とれてしまう。
焼ギョーザはご飯と一緒にいただくとその相性は抜群。ギョーザは糖度の高いニンニクを使っているため、においが抑えられている上に甘みもあるので、タレをつけないでそのままいただくことができる。そして梵天丸でご飯を食べる時に欠かせないのが、無料でついてくる自家製ザーサイなのである。
この店でご飯を注文すると、自家製ザーサイがついてくるのだが、これが超がつくほどにうまい。私はザーサイは得意ではないのだが、細かく刻んである梵天丸のザーサイだけは別格。いくらでも食べてしまう。
秋本オーナーの一番のおすすめは、ご飯にザーサイをのせて、卓上のラー油と花椒をかける食べ方。花椒は青山椒を店ですすっているので香りが素晴らしく、この組み合わせは極上。
テイクアウトにも注力! 未来を見据えて風を読む名店
新型コロナウイルスの猛威は、広島の飲食店にも大きなダメージを与えた。そして、その波は未だ収まってはいない。そんな逆風の中で、梵天丸はいち早く動いていた。店内のテーブル席の多くをカウンター化したり、厨房内の機械化を進めることで接触を減らして効率を上げたり。そしてテイクアウトメニューへの注力と、専用カウンターの新設である。
テイクアウトカウンターの下には専用の冷蔵庫も設け効率化を図る徹底ぶりで、店内の麺メニューの多くがテイクアウトに対応している。ゆで麺と生麺を選べるなどの心配りも功を奏してか、ほとんどのお客さんがリピーターとして電話予約をして受け取りに来るという。私はオーナーの秋本さんがコロナ禍の初期の頃からこうした動きにシフトしているのを知っていたため、今となっては先見の明があったものだと感心してしまう。
梵天丸というのは、かの伊達政宗の幼名であり、その梵天丸は11歳で元服し、政宗と名乗ったとされている。広島で汁なし担々麺の専門店としてオープンして10年が過ぎた「赤麺 梵天丸」は、いままさに新たなステージに向かっているような気がしてならない。
※価格はすべて税込です。