1万杯以上のラーメンを啜ってきた上村さんが通う、とっておきの店とは?

〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー! 食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。

点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はラーメンライターの上村敏行さんに、福岡のバリうま!なラーメン屋を教わった。

教えてくれた人

ラーメンライター 上村敏行

1976年鹿児島市生まれ。株式会社J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務める。ラーメンライターとしての活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介された。「九州の豚骨ラーメンこそ最強!」を掲げる「RAMEN WONK KYUSHU(ラーメンワンク九州)」主宰。https://rwk-j9.com

博多っ子が愛する“一”(いち)の老舗「一楽ラーメン 松島店」

「一楽ラーメン 松島店」も屋号に“一”(いち)の付く店のひとつ

福岡ラーメンの繁盛店には「屋号に“一”(いち)の付く店が多い」という法則がまことしやかにささやかれている。例えば「博多一風堂」「一蘭」「博多一幸舎」「博多一双」「石田一龍」などなど。確かに、全国にも名を轟かせる横綱格ばかりだ。
今回、ラーメンライターの上村さんが紹介してくれたのは、そんな福岡“一”(いち)の名店の中でも、穴場的存在である老舗「一楽ラーメン 松島店」。 2021年11月現在、食べログの点数は3.24であるが「絶対に食べるべきバリうま!ラーメン」だと上村さんは声を大にする。果たしてその実力とは?

いにしえのTHE・博多豚骨を啜れる

「一楽ラーメン」は1970(昭和45)年に創業し、現在松島、名島、箱崎ふ頭、志免、糟屋の福岡5店舗がある。流行り廃りのない王道の博多ラーメンに根強いファンが多い。

 

上村さん

私が駆け出しのライターであった2002年ごろ。家が近かったということもあって「九産大前店」(現在は閉店)、「名島店」に通い詰めていました。それから20年近く経ち、1万杯以上のラーメンを食べてきた今啜ってもやっぱりバリうま! ラーメンが多様化する中で、原点回帰をうながすような博多豚骨。何より自分自身、若かりし頃を思い出し、しみじみとなります。

また、上村さんが付け加えてくれた話によると、閉店したかつての「九産大前店」、実は、大人気漫画「NARUTO-ナルト-」に度々登場する同名のラーメン店「一楽」のモデルだという。これは作者の岸本斉史先生が九州産業大学芸術学部に通っていた頃、「一楽」の大ファンだったことに由来。第16巻では「一楽」が表紙を飾っている。今は閉店してしまった、その「九産大前店」の写真を上村さんに見せてもらった。

閉店してしまった「一楽ラーメン 九産大前店」
 

上村さん

この写真は2009年に撮ったもの。「NARUTO-ナルト-」では屋台風にアレンジして描かれています。「九産大前店」は閉店していますが、同じラーメンが「松島店」ほか現在の「一楽ラーメン」でも楽しめますよ。

博多ラーメン界の重鎮が迎えてくれる「松島店」

「そしてこれが現在の『一楽ラーメン 松島店』と、年齢を重ねた私(笑)」と上村さん

「一楽ラーメン 松島店」は、創業者が今なお元気に迎えてくれる、ファンにとって特別な店。福岡空港から車で15分ほど。駐車場も広く入りやすい。

「一楽ラーメン」創始者である中村輝光さん

店主の中村輝光さんは1943(昭和18)年生まれ。弱冠20代後半で「一楽ラーメン」を独学で開業した。78歳の現在も厨房に立ち、スープ室にもこもって仕込みを行なっている。
「若い頃はカメラ関係の仕事をしとったっちゃけど、ラーメンが好きやったけん、自分で究めちゃる!と一念発起したと。とにかく食べ歩いて自分なりに豚骨ば炊いてみた。最初はリンゴやらバナナやら加えて煮込んどったけど、結局シンプルに豚骨だけで取った方がうまかね。ウチのラーメンは余分な脂ば加えんけん、濃厚やけどギトギトせんやろうが」と中村さん。

店の奥にあるスープ室を特別に見せてもらった。巨大な釜で豪快に豚骨を炊き込んでいる
 

上村さん

スープは大量の豚骨を高火力でボロボロになるまで炊き込み、丁寧に濾しているため、濃厚かつ舌ざわりがとてもまろやか。大きな柄杓を使っての作業を中村さん自ら行っています(これ結構重いですよ)。驚くべきは、中村さん曰く「スープの出来が、柄杓ですくっただけで分かる」とのこと。つまり、同じ量のスープをすくってもその比重で、溶け込んだ骨の量の違いが分かると言うんです。ラーメン歴半世紀の職人だからこそ、道具も指先のような感覚。舌を巻きますね。

使い込まれた羽釜。熱伝導が良く、底が丸みを帯びているため骨が焦げ付きにくい