【森脇慶子のココに注目 テイクアウト編】「芝惣菜所」

江戸時代、東海道の整備により江戸への入り口として栄えた芝の町。当時は芝浜と呼ばれ、海に面した風光明媚な場所だったこの地に、今年の8月12日オープンしたデリカテッセンが、ここ「芝惣菜所」だ。店を始めたのは、あのイタリア料理の名店「樋渡(ひわたし)」の原耕平シェフ。きっかけはコロナ禍による緊急事態宣言だった。その思いをこう語る。

「コロナ禍でレストランの営業が制限され、僕たちも大変だけれど、もっと辛いのは生産者の方々。野菜や家畜は、コロナ禍だからと言って途中で生産を止めるわけにはいきません。家畜はどんどん育つし、農作物は収獲しなくてはならない。そんな行き場を失った生産物をどうにかしたいーー。そんな思いから、テイクアウト専門のショップができたらなぁと考えていたんです」

そこに、渡りに船とばかりに空き物件の話が舞い込んだ。芝「太華」が移転することをご主人の海原さんから聞き、ならばその場所をテイクアウトの本拠地にしようと考えたわけだ。

「去年、街中がゴーストタウンのようになったとき、ワンオペでテイクアウトをしていたのですが、お客様にタッパーを持参していただいて、店の料理をすべてお持ち帰りできるようにしていたんです」と、原シェフ。

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出典:mm_foodsさん

今回も同様に、タッパーもしくはジップロック持参は必須。プラスチックのゴミを少しでも減らしたいとの思いゆえだ。地元の人が器を持って買いに来る。未だ下町の風情か残るこの界隈には、そんなスタイルが不思議によく似合う。

「本日のフリッタータ」648円

出来るだけ分かりやすいものをと揃えたテイクアウトメニューの数々は、いずれもいたって気取りがない。この日の店内奥のショーケースには、「鶏とパプリカのカチャトーラ」や「本日のペンネ」「本日のフリッタータ」といったイタリアンな味と並んで「岩手県久慈市田村牧場短角牛の肉どうふ」のような和の一品あり、ニンニクやローズマリー、赤ワインでマリネしてセモリナ粉で揚げた「鶏のイタリアン唐揚げ」ありとバラエティも豊富。

「鶏のイタリアン唐揚げ」594円(100g)

この肩の力の抜け加減がまた一興。かえって魅力的に見えるから不思議だ。とはいえ、それも一つ一つの味がしっかり決まっていればこその話だろう。なかでも原シェフ肝いりの定番メニューは「お米のサラダ」だ。

「お米のサラダ」648円(100g)

「新潟の友人が作っている魚沼のコシヒカリで、『樋渡』のリゾットにも使っている米です。小粒なんですが、甘い香りと旨味があり、年間を通して新米のみずみずしさをキープしている優れものなんです」

これを少し硬めに炊き、赤ワインビネガー、アンチョビ、ケッパー、オリーブオイル等で調味。具にはカツオにトマト、オリーブ、パプリカ、レタスが入り、見た目もカラフル。洋風ちらし寿司といった趣だ。

「芝惣菜所オリジナルカレーパン」432円

お惣菜のほか、「パーラー江古田」の酵母を使ったカンパーニュにフォカッチャ、生地にカレー粉とミートソースを練り込んだオリジナルのカレーパン等々パンからスイーツにチーズまで、ここ一軒でちょっとしたフルコースも楽しめそう。

「鶏とパプリカ カチャトーラ」756円

また、食材も、新潟県村上の養鶏場「オークリッチ」の放し飼い卵で作るプリン、岩手県「おさんぽジャージー三谷牧場」の金のチーズやペコリーノ、そして地域循環型型養豚を目指す神奈川県南足柄「農場こぶた畑」の豚肉等々、原シェフのこだわりが詰まっている。

店内には立ち飲みのできるイートインスペースもあり、コーヒーとスイーツで一息つくもよし。テイクアウトのついでに、お惣菜とクラフトビール(もちろんワインでも)で軽く一杯という楽しみも用意されている。

※価格はすべて税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※新型コロナウイルス感染拡大を受けて、一部地域で飲食店に営業自粛・時間短縮要請がでています。各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いします。

※本記事は取材日(2021年9月20日)時点の情報をもとに作成しています。

撮影・文:森脇慶子