〈食べログ3.5以下のうまい店〉

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!

食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。

点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

そこで、グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。第一線で活躍を続けるフードライター森脇 慶子さんが名前を挙げたのは、あの山形牛の伝道師の店。手がける姉妹店のなかで唯一3.5以下という、「焼肉ステーキ あつし」の魅力を一挙公開!

教えてくれる人

森脇 慶子

「dancyu」や女性誌、グルメサイトなどで広く活躍するフードライター。感動の一皿との出合いを求めて、取材はもちろんプライベートでも食べ歩きを欠かさない。特に食指が動く料理はスープ。著書に「東京最高のレストラン(共著)」(ぴあ)、「行列レストランのまかないレシピ」(ぴあ)ほか。

まずは牛肉の色に注目してほしい「焼肉ステーキ あつし」 【点数3.20】

「西麻布は焼肉やステーキのお店が多い、いわば牛の街です」と話す森脇さん。名店がひしめく激戦区のなかでも、知る人ぞ知る隠れ家として紹介してくれたのが、東京・西麻布「焼肉ステーキ あつし」だ。食通であれば、店名を聞いてピーンときた方もいるだろう。ここは「加藤牛肉店」の3代目店主、山形牛の伝道師として知られる加藤 敦さんの店である。

※点数は2021年9月時点のものです。

加藤さんが扱う山形牛は、一般的な牛肉より光沢があり、赤い。これは肥育された環境、とりわけ水の性質が影響していると森脇さんは話す。「人間と同じように、牛の体も大部分が水でできています。おいしい牛を育てるにはエサも重要だけれど、それ以上に水が大切。いつも加藤さんが口癖のように言っていることです」

「こだわりの山形牛赤身3種食べ比べ」(2人前)

鮮やかな赤身の色は、鉄分が豊富な水で育てられた証。山形牛のなかでも内陸部、山側で育てられたものだ。この赤身の色は、日本食肉格付協会のビーフ・カラー・スタンダード(B. C. S.)という7段階評価でも最良と位置づけられている。

「加藤さんはお肉屋さんだけど、牛舎まで出向いて、牛が育つ環境から自分の目で確かめています。エサまで生産者さんと共同開発しているので、すごく安心。でも、その配合だけは企業秘密。誰が問い詰めても絶対に口を割りません(笑)」と、森脇さん。

結局の所は水だけでなく飼料も重要だ。肉の味を左右するのは牛を取り巻くすべての環境。わずかなストレスだけでも味が落ちるなど、肉の断面を見るだけでは判断できないことも多いため、加藤さんは生産者の元まで足を運び続けているそうだ。

オープンから7年以上を経ても「知る人ぞ知る店」の理由とは?

「加藤牛肉店 銀座」【点数3.72】や「加藤牛肉店シブツウ」【点数3.60】など、ここ以外の加藤さんの店は食べログでも高得点。まったく同じ、理想的な山形牛を使用していながら、なぜ西麻布の店舗だけ認知度が低いのか。その答えは一度足を運べば、すぐに分かるはずだ。

店があるのは細い路地裏からさらに奥まったビルの階段の裏側

意図的に隠されているかのような入り口。ふらりと立ち寄る一見の客は、そういないだろう。常連客は加藤牛肉店をよく知る食通が中心であり、メディアへの露出も控えめ。2014年オープンの人気店ながら、食べログの口コミは24件とごく僅かだ。

掘りごたつの完全個室。赤い扉は裏口である

座席は半個室が中心であり、プライバシーに配慮した個室も完備。お忍びで利用する著名人が多いため、今回のような記事を歓迎しない常連客もいるだろう。最上級の牛肉を扱いながら7,700円からコース料理が楽しめるとあって、入り口は見つけにくいがハードルは高くないのだ。

鉄板焼きのカウンター席。ステーキコースを堪能するのに最適