〈サク呑み酒場〉

今夜どう? 軽〜く、一杯。もう一杯。

イマドキの酒場事情がオモシロイ。居酒屋を現代解釈したネオ居酒屋にはじまり、進化系カフェに日本酒バー。どこも気の利いたツマミに、こだわりのドリンクが揃うのが共通点だ。ふらっと寄れるアフター5のパラダイスを、食べログマガジン編集部が厳選してお届け!

現代的な“嗅覚”でたどり着く、イマドキの素敵な酒場の見つけ方

本来、大衆酒場とは“ふらっ”と立ち寄って気軽に楽しむ場所である。そこに、「お酒は好きだが、がぶ飲みはしない」という、“サクッ”と楽しむ要素が加われば、誰でも楽しめる〈サク呑み酒場〉となる。

「FUJI COMMUNICATION」は地下鉄有楽町線江戸川橋駅から徒歩5分。同じく東西線から徒歩6分。飲食店の数も少ない住宅立地の中のビルの2階にあり、看板は少し控えめなため、外からはどんな店なのかわからない。だから、たまたま見つけて、「なかなか、よさそうな店だなぁ」とふらっと入る、そんな昔ながらの大衆酒場の出会いとは、少しばかり趣きも異なってくる。

店舗は2階で看板も英語表記のため台湾料理の店と気づかれにくい。

同店の場合、台湾の食に興味のある人たちが、SNSで「台湾」「餃子」「水餃子」といったキーワードを打ち込んで検索し、評判を目にしてわざわざやってくる。もちろん、近所の人の利用も多いが、それでも同店を見つけた後にネットで評判を確認してから店に足を踏み入れる。このように昔といまで出会い方の違いはあれど、イマドキの若者も、イマドキのやり方で、嗅覚を働かせ素敵な酒場を見つける熱意は変わらない。

元カフェだった店舗を一部改装し、洒落た店に仕立て上げる。

台湾のレアスパイス「マーガオ」で水餃子の魅力を、さらにアップ

さて、同店が売りにしている“台湾ストリートフード”だが、訪台経験者ならまだしも、台湾未経験の人にとってはなじみの薄いメニューばかりだから、「いったい何を頼めばよいのか?」とちょっとばかり迷ってしまう。同店のフードのメニュー表は大きく、「餃子」「小皿料理」「一品料理」「飯&麺」の4つにカテゴリー分けられており、それぞれから興味のあるものを頼めば、まず間違いない。

中でも絶対に外せないのが、看板商品の水餃子。メニュー名は台湾式に「水餃」と書かれ、これで「シュイジャオ」と読む。水餃子は、「豚肉水餃」「ニラ&発酵白菜水餃」「マーガオ水餃」「海老水餃」の4種を揃える。1番人気は「マーガオ水餃」で、スタンダードな「豚肉水餃」に「マーガオ(馬告)」というレアなスパイスをふりかけたもの。このスパイスは日本どころか台湾でも珍しく、乾燥品を台湾から直に仕入れている。胡椒のようなほんのりした刺激と、レモングラスのような爽快な香り。水餃子のおいしさをよりいっそう引き立てる、名脇役だ。

日本はおろか台湾でも珍しい、高級レアスパイスの「マーガオ」で独自の味を創出する。

おいしさのベースとなる水餃子は、同店を共同経営する近藤喬哉さんと齋藤翼さんが台湾に足を運んで食べ歩きをし、何度も試作を重ねて完成させた自慢の一品。皮は小麦粉(強力粉95%、薄力粉5%)、塩、水で作り、1枚あたり9g。モチモチして食べごたえがありながらも、歯切れがよいのが特徴。「マーガオ水餃」のあんは、豚挽き肉、白菜、セロリを用い、ニンニクやニラは一切加えない。豚挽き肉は、穴が16mmと8mmの2種のプレートを用いて挽いたものを混ぜ合わせており、穴の大きさからも分かるように、かなりパンチのきいた食感だ。あんをこねる際に加えるスープは、野菜と鶏で取ったスープ、水、塩、台湾醤油を合わせた無添加のもので、体にも優しい。

「マーガオ水餃」680円。マーガオは、最初はあんに練り込んでいたが、より香りをダイレクトに楽しめるよう、上からかけるスタイルに変更。

餃子は他に「ハイブリッド餃子」と謳った、「豚肉餃子」も用意。これは「焼き餃子も食べたい!」という客向けにメニューに組み入れたもので、茹でて仕上げた水餃子を、さらにパリッと焼き上げる。“茹でる” “焼く”という異なる調理法をかけ合わせた、まさに“ハイブリッド”な餃子だ。

主役の水餃子の脇を固める「大鶏排」と「魯肉飯」も外せない

料理の核となる水餃子の注文が決まったら、脇を固めるメニューとしてぜひとも押さえておきたいのが「台湾夜市風 大鶏唐揚」。これは鶏ムネ肉1枚を開いて大きく仕上げ、1日マリネして揚げたもの。台湾で「大鶏排(ダージーパイ)」と呼ばれる、でっかいチキンカツだ。マリネ液は、台湾醤油、おろしたニンニクと生姜、紹興酒、オイスターソース、五香粉、卵黄などで作り、鶏肉にじっくり旨味を染み込ませる。衣がまた特徴的で、小麦粉や片栗粉は用いず、100%タピオカ粉のみを使用。180℃の油で3~4分揚げ、皿に五香粉、花椒をちらして、その上に盛りつける。サクサク香ばしい食感と旨味の染みたおいしさは、何ともクセになる。

「台湾夜市風 大鶏唐揚」800円。大きく開いた鶏ムネ肉1枚を使用。衣もタピオカ粉100%で、サクサクした香ばしさが堪らない。

締めのメニューとして外せないのが「魯肉飯(ルーローハン)」。いまや、代表的台湾料理として知名度も高く、一度、食べてみたいと思っている人も多いのでは? 同店では、豚バラ肉を下茹でして食べやすい大きさに切り、大量の紹興酒、台湾醤油、五香粉、椎茸、フライドエシャロットとともに、途中、休ませながら半日煮込み、注文ごとにご飯に盛りつける。この煮汁に漬け込んだウズラの玉子や、青菜、大根の漬け物ものっていて、最後にガバッとかき込みたいご飯メニューだ。だが、甘辛い煮汁の染みたご飯のおいしさは格別で、締めのつもりが、ついもう1杯飲みたくなる。そんな、何とも罪作りな締めのメニューである。

「魯肉飯 大」750円。ルーローハンは日本でも知名度が高まっており、一度は体験したい台湾料理である。

台湾ビール、自然派ワイン、オリジナルサワーとドリンクも充実

料理で台湾気分を味わうのなら、ドリンクでも台湾気分を味わいたい。同店ではいわゆるサーバーから注ぐ生ビールは扱っておらず、ビールはすべて缶か瓶のものを提供。瓶はすべて大手国産メーカーのもので、逆に缶は台湾のもの。台湾のローカルフードとよく合う「台湾ビール」、軽い飲み口でフレーバーのきいた「パイナップルビール」「マンゴービール」を取り揃えている。提供方法もひと味違い、冷蔵庫から客が自分で取り出すスタイルを採用している。実際、台湾ではこうした売り方の店が多く、本場さながらの雰囲気を楽しむことができる。

缶や瓶のドリンクは本場・台湾風に、客自らが冷蔵庫から取り出すスタイルを採用している。

また、ワインは自然派ワインが売り物で、基本的に赤・白とも常時10種ほどを揃える。ワインリストはなく、客の好みを聞きながら、それに合うものを提案していく。「いま食べているものに合うものを出して」とか、「今日はカジュアルな利用だから一番安いのでいいよ」とか、そんな様々な客の希望に沿いながら、最適な1本を選んでくれる。

自然派ワインも売り物。客の好みを聞き、何本か客席に運んで最適な1本をおすすめする。

「お酒は強くないが、酒場の雰囲気は大好き」。そんな客におすすめなのが、「キャラメルポップコーン サワー」。これはバーボンとソーダ水にキャラメルフレーバー、ひとつまみの塩をプラスした甘いサワーで、ひと口飲むと、「えっ、何これ?」と体験したことのない味に驚かされる。そして、気づけばじわじわやみつきになってくる。キャラメル味を視覚でも楽しませるために、猪口にキャラメルポップコーンを盛ったものを氷の上にポンとのせる演出も楽しく、つい写真を撮ってSNSにアップしたくなる。もちろん、相性抜群のつまみとしてうれしい、粋なひと工夫だ。

「キャラメルポップコーン サワー」680円。インパクトのある見た目から、思わず写真を撮ってSNSにアップしたくなる、とっておきの1杯。

「FUJI COMMUNICATION」の店名は、共同経営する近藤喬哉さんと齋藤翼さんの名前にそれぞれ「藤」の字がつくことから名づけたもの。開業にあたっては、SNS慣れした台湾好きの若者客をターゲットに想定していたが、意外や意外、かつて初めての海外旅行でグアムやサイパンを体験した、子育ての終わったバブル世代の主婦客の利用が予想外に多いという。そして、その情報の入手元はSNSで見かけた同店の評判だ。同店にはSNSという現代ならではのツールを介した、世代を超えたコミュニケーションによって台湾好きが集まる。わくわくの詰まった、イマドキの“サク呑み酒場”である。

写真左から、近藤喬哉さん、齋藤翼さん。高校時代、同じ野球部に所属。卒業後、それぞれ飲食の道に足を踏み入れ、今春、共同経営の形で同店を開業した。
【本日のお会計】

■食事
・マーガオ水餃                  680円
・台湾夜市風 大鶏唐揚           800円
・魯肉飯 大                     750円

■ドリンク
・台湾ビール                    680円
・キャラメルポップコーン サワー 680円
 
合計 3,590円

※価格はすべて税別

 

取材・文:印束義則(grooo)

撮影:松村宇洋