巷には「予約困難」な焼肉店がたくさん存在している。口コミやメディアへの掲載など、予約困難となる要因はさまざまだ。本連載では肉バカ・小池克臣さんに早めに押さえておくべき「予約困難予備軍」の焼肉店を焼き方のポイントとともに教えてもらう。

本連載のナビゲーター、肉バカの小池克臣さん

予約困難必至! 穴場的なおまかせ焼肉へ小池さんがナビゲート

今回小池さんが紹介するのは、西新宿にある「若葉」。わざわざ通いたくなる、知る人ぞ知る焼肉店に迫る。

一見、和食店や小料理屋のような上品な外観。なぜか2つ入口があり、中も見えないため、通りすがりの来客は少ないそう。派手な色の看板が目印

「若葉」が隠れ家的な理由は、その場所にもある。開発が進む新宿エリアのビル群が広がる西新宿駅から、徒歩5分強、十二社通りにひっそりと佇んでいる。その昔は、あえて店が目立たないようにしていたとあり、写真撮影NGかつSNSアップ禁止だった。常連さんに和んでほしいとのコンセプトで、知る人ぞ知る店だったのだが、時代の流れの変化もあり今では解禁となり、今回は小池さんの紹介で撮影潜入できた。

カウンター8席と、奥に10人は入れるお座敷席がある
 

小池さん

この店に来たきっかけは、以前焼肉好きの友人が見つけて、誘われて来店しました。一見それとわからない外観で、入るのもワクワク。カウンターで大将や女将さんと会話を楽しむのもいいし、奥には寛げるお座敷もあります。当時は個人的な撮影もNGで、食べログアップもギリギリ。僕たちは4人とも一眼レフを持ってきて撮るような会だったので、ナニモノが来たのか?と異質だったと記憶しています(笑)。撮影も解禁となり、やっと紹介することができる、隠しておいた居心地のよい店です。

1973年開業の老舗! ホルモン×お酒を楽しむアットホーム焼肉

こちらは創業53年という老舗焼肉店。店主の上四元 敏明(かみしもと としあき)さんが西新宿に開業、のちに奥様と一緒に営んできた。移転などもあり、現在の店は3カ所目。肉の仕入れは、店主が培ってきた信頼できる独自ルートが強み。30~50年の長い付き合いもあるそう。とにかくおいしいものが好きな夫婦が、産地を絞らずに全国からおいしいものだけを厳選して、提供している。焼肉のタレ、スープ、ドレッシング、デザートに至るまですべて手作りという、オリジナルにこだわりを突き通す。

女将。明るいオーラを放つ、東京のお母さん的存在の女将さん会いに来る客も多い。かつて大将がホルモンを食べていた常連客に赤ワインをすすめたところ「焼肉屋のおやじにワインの味がわかるわけない」と暴言を吐かれたのに奮起し、ソムリエの資格を取ったという経歴もユニーク。他に調理師、製菓衛生士、SakeDiploma、泡盛マイスターの資格も持つ
 

小池さん

大将&女将の人柄に引かれ、コミュニケーションを取るのが楽しみの一つというアットホームなお店。ソムリエ女将のセレクトしたお酒は、種類も豊富で、ワインをはじめ、ウィスキーフレーバーの泡盛などマニアックなお酒も焼肉とともに楽しめます。焼肉好きはもちろん、酒好きにも刺さると思います。

小池さんおすすめのメニューとは?

焼肉はすべておまかせコース(7,000円。支払いは現金)のみで、6品くらいの焼き物が楽しめる。

もみだれによる仕込みから小池さんの期待値が高い「ハラミ」
ロースターは、創業当初から大切に使っているもの。他の肉で網が育って入れば端の強火で火入れするが、まだの場合はセンターでカリッとなるまで焼いてから、端の強火で火入れ。パチパチと音がしたらひっくり返す合図だ
すかさず「ご飯ください」とお願いし、つけダレに浸して、いざオンザライス! 白米は近隣で一番の高級品をセレクトしているとか
 

小池さん

厚みもちょうどよく、お箸でちぎれるほど歯切れのよいお肉です。昔ながらの“ご飯を食べるための焼肉”な、たれの味付けが最高。もみだれは、しっかりしていますが優しい味わいのみそベース。つけだれは醤油ベースでバランスがいい。すべて手作りで、素材の魅力を引き出す味わいになっています。

次に出てきたのは、ぷりっとした上ミノ。刺身としてもいけるくらい鮮度の高い素材を使用する。いいグレードの肉を入手するために「仕入れをケチらない」のがお店の信条。

「上ミノ」
最初から、ロースター端の強火で焼いていく。丸まって、じゅくじゅくとサイドの汁気が飛んできたら、ひっくり返すタイミング。目を離さないよう注意して
 

小池さん

この上ミノは肉厚でサクサク、シャクシャクとしっかり嚙むときに音が聞こえるんです。すごい!と思わず声を漏らすほど。肉のクオリティがよくないとできないことです。つけだれのバランスもよく、すべてが計算されている。いや~、おいしい!

こちらのシグニチャー的メニューであるキングホルモンも、はずせない。店主が考案した「キングホルモンと機嫌のいい茄子」は、しまちょうとにっこりスマイルの茄子のマリアージュが新鮮。ここでしか食べられない、唯一無二の焼肉メニューが楽しめる。赤ワインを合わせると、さらに味の奥行きが広がる。

「キングホルモンと機嫌のいい茄子」
ゴキゲンな茄子を先に焼いて、真ん中でひっくり返す。しまちょうは、端で皮から焼く。皮8:脂2くらいで焼くイメージがベスト
脂を焼いてから、塗りつけるように茄子の上にしっかりとつけていく。茄子が全部の脂を吸い切ったら完成
 

小池さん

このホルモン&茄子のスタイルは、大将考案のオリジナル。茄子がお肉の濃厚な甘い脂を吸って、熱々でおいしいんです。手のひらでも溶けるほどの上質な脂のしまちょうが、みそだれに絡んでたまりません。ご飯のお供になるし、飲みたい派は、赤ワインとペアリングして食べるのもおすすめです。

ラストスパートの〆から、手づくりスイーツまで心が躍る

お腹に余裕があれば、お肉の追加オーダーも可能。牛骨からとったスープも追加可能だが、注文できるチャンスは1日に一度だけ。全席で同一の種類のスープしか提供しないスタイルなので、このチャンスを見逃さないで。

「“めしどろぼ”のスープ」

「“めしどろぼ”のスープ」は、ご飯のおともとして瓶で提供している牛すじのしぐれ煮「めしどろぼ」をスープに転化したもの。ある時だけの提供で、売り切れ必至の名作だ。

牛骨スープ、ガラで出汁を取りじっくりと煮込んだ和牛の牛すじスープの中には、きのこやニラなど、具沢山。小池さんは、和牛の牛すじでニンマリ笑顔に。

製菓衛生師の資格も取得した女将は、手作りスイーツも本格的! この日は、ふんわりとしたシフォンケーキ
アリーナ席

女将との会話も楽しい、対面式のカウンター席。エントランス手前の席が、“アリーナ”と呼ばれる。

“おいしい焼肉を食べて、明日も頑張ろう!”と元気になれる料理を手掛けるコンセプト通り、飾りはないけれど、真のおいしさと、料理への愛情や人情味溢れる温もりを感じられる焼肉店は、なかなかない。「港区のコースみたく多すぎず、足りなかったら追加でき、テンポよく出るメニューや居心地もいい」と小池さんが推す、貴重な一軒。穴場的な存在から予約困難になる前に、足を運んでみては?

エントランスの看板は、常連であるいとうあさこさん直筆

※価格は税込

教えてくれた人

小池克臣

横浜の魚屋の長男として生まれるも、家業を継がずに、外で、家で、肉を焼く日々を送る。焼肉を中心にステーキやすき焼きといった牛肉料理全般を愛し、ほぼ毎晩、牛三昧。さらには和牛そのものの生産過程や加工、熟成まで踏み込んで研究を続ける肉の求道者。著書に『肉バカ。No Meat, No Life.を実践する男が語る和牛の至福』(集英社刊)。公式ブログ「No Meat, No Life.」。

文:濱口眞夕子(SEASTARS Inc.) 撮影:長尾真志