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【噂の新店】「BIRYANI MASTER」

東京・神田司町の路地に、スパイスの芳香が立ち込める新たな拠点が産声を上げた。2026年5月7日にオープンした「BIRYANI MASTER(ビリヤニマスター)」だ。ここは2021年のオープン以来、常に満席が続く「ビリヤニ大澤」の店主・大澤孝将氏が手掛ける姉妹店である。


カレーおじさん\(^o^)/
ビリヤニ大澤の姉妹店ができたと知り、行ってきました。オーセンティックなビリヤニは細部に至るまでこだわりが感じられ、米のおいしさが主役となっていてさすがのレベルの高さでした。
本店の「ビリヤニ大澤」といえば1週間前に開放される予約枠がすぐに埋まる人気店で、ランチ・ディナー共に炊き立てを提供するため一斉スタート。食材や調味料に一切の妥協を許さない“究極のビリヤニ”を追求しているため、1皿3,000円を超える。しかし、その価値を認めるファンで予約枠は争奪戦だ。

そんなハイエンドな知見を持つ大澤氏が新店で掲げたコンセプトは「日常にビリヤニを」というシンプルなものだった。
「ビリヤニをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いと、僕自身ビリヤニのレシピをもっといろいろ試してみたいという思いがありました。日本人にもランチの選択肢として、牛丼やハンバーガーを食べるような気軽さで、本格的なビリヤニを選んでほしいんです」と大澤氏は語る。そのため、新店では予約不要、モバイルオーダーを導入し、価格は1,300円からとぐっと身近な存在へと落とし込んだ。

店長を任されたのは、「ビリヤニ大澤」で修業した三上正太郎氏だ。大澤氏が「彼が作るビリヤニはめちゃくちゃうまい。そうでなければ任せません」と全幅の信頼を寄せる三上氏が、現場の舵を取る。

カレーおじさん\(^o^)/
僕は仕事柄、予約がなかなかしにくいのですが、こちらは本店と違い予約無しで行けるというのがありがたいです。本店より廉価でもあり、気軽に行けるのも良いです。

店内に一歩足を踏み入れると、そこには私たちがイメージする「伝統的なインド料理店」の風景はない。目に飛び込んでくるのは、コンクリート打ちっぱなしの壁、清潔感のあるステンレスの什器、人工大理石のカウンターと白く塗られた椅子、そして赤茶色とレモンイエローの壁面やメニュープレートだ。

内装のテーマは「モダン・インディア」。IT都市として急速に発展し、洗練されていく現代インドの空気感を表現している。人工大理石のカウンターや、看板のサインなど、細部までこだわり抜かれた空間は、気負わずに食事を楽しめるカジュアルさと、高揚感をもたらす。
おいしさを化学で解剖。「還元反応」による香りが爆発する「ビリヤニ」

「ビリヤニマスター」が提供するビリヤニは、単なる“カレー混ぜご飯”とは一線を画す。大澤氏が定義するビリヤニの核は、何よりも「圧倒的な香り」、そして「ごちそう感」にある。元々インドでビリヤニは宮廷料理として生まれ、そこから大衆に広まっていった料理。「香り高いごちそう」というのはビリヤニのバックグラウンドであり、ビリヤニを定義づける外せない要素だ。
この香りを生み出す鍵は、密閉加熱によって炊き上げる「還元反応」にある。「鍋の中を水蒸気で満たし、酸素を断つことで香りが爆発的に増幅するんです。これはチャーハンのような酸化反応の調理とは根本的に原理が異なります」と大澤氏は解説する。

米は、インド産のバスマティライスのトップブランドである「ラルキラ」を使用。塩を入れた湯で米を茹で上げる「湯とり法」を採用することで、余分なでんぷん質を取り除き、パラリと軽やかな食感を実現している。この手法は、インド南部のハイデラバード式と呼ばれる伝統的なものだ。

調理をするうえでは、油を通じて具材の香りを米全体に行き渡らせる一体感を重視。さらに、盛り付け時にあえて「まだら」を残すことで、一口ごとに味の表情を変え、最後まで新鮮な驚きを持って食べ進めることができるよう工夫を凝らす。
肉汁で米を炊く名物「チキンビリヤニ」

「BIRYANI MASTER」のメニューは定番の2種と日替わり1種の計3種類。いずれも「ビリヤニ大澤」の哲学を継承しながら、ランチとしての「わかりやすいおいしさ」を追求した自信作だ。
大澤氏が「肉汁で米を炊くスタイル」と表現するのが「チキンビリヤニ」。 鶏モモ肉を10種類のスパイスとニンニク、生姜で一晩マリネし、調理の1時間前にヨーグルトを加えてなじませ、肉のやわらかさと重層的なうまみを引き出している。

鍋底に肉を敷き、その上に茹でた米を重ね、サフランミルクとギーを加えて蓋をして、約10分間かけて炊き上げる。できあがったビリヤニを前にすると、皿から立ち上るバスマティライスとスパイスの芳醇な香りに笑みがこぼれてしまう。ビリヤニを口に運ぶと、爆発するかのように鮮烈なスパイスの香りが鼻腔に充満し、咀嚼する度にさまざまなスパイスと鶏のうまみが波打つように味わいを変化させていく。一口、また一口とスプーンを運ぶ手が速まり、かみしめる幸福が全身を駆け抜ける。

何口かビリヤニを味わったら、副菜で味変を楽しみたい。青唐辛子やヨーグルト、赤タマネギで作り上げたライタ、スライスオニオン、パクチー、レモン、そしてタマリンドとナッツなどで作られた酸味のあるソース「ミルチ・カ・サーラン」を好みでビリヤニと合わせていく。

「日本のインド料理は砂糖が多くて酸味が少ない傾向にありますが、本来油を多用するインド料理には酸味のキレが不可欠なんです」と大澤氏は説く。ヨーグルト、タマリンド、レモン。これら3つの異なる酸味が、重層的なスパイスの海に心地よいリズムを生み出し、最後まで飽きさせない。さらに辛さが欲しい人は青唐辛子ベースのアチャールを添えるのもいいだろう。
香りと味のレイヤードを味わう、マトン&日替わりビリヤニも

「ビリヤニ大澤」でも不動の人気を誇る「マトンビリヤニ」は、新店ではそのごちそう感を維持しつつ、ランチに適した力強い味わいに仕上げている。フライパンでギーを熱し、ベイリーフ、シナモン、クミン、クローブ、カルダモンなどのホールスパイスにパウダースパイスを加え、香りを油に最大限移すテンパリングを施す。

そこにトマトやヨーグルト、ニンニクペーストやショウガペーストを合わせた特製ソースを加え、寸胴で約4時間煮込んだマトンショルダーを入れて炊き上げる。マトンビリヤニは水分量が少なく焦げやすいため、鍋全体をアルミホイルで覆い、蒸気を閉じ込めることで還元反応を促進し繊細な火入れを行う。

4時間じっくり煮込まれたマトンは、ツヤツヤと輝き、口に含むとホロリとほどけ、羊由来のうまみを吸ったバスマティライスとともに力強い味わいを舌の上に残していく。匙を進めていくほどにスパイスのシャワーが降り注ぎ、口の中が味の多重奏状態になる。

カレーおじさん\(^o^)/
米のフワッと感、パラッと感があくまで主役。それを邪魔せず引き立てるマトン。ライタやサーランもつくワンプレートで、ビリヤニ初心者には誤解が生まれない正統派として入門編に最適です。ビリヤニを数多く食べている方なら他とは違う細部のクオリティの高さにも気づけるでしょうから、万人におすすめできます。

リピーターを飽きさせない「日替わりビリヤニ」は、主に魚介類を中心とした構成だ。この日は、アルゼンチン産の赤エビを贅沢に使用したバンガロール(ベンガルール)スタイルのビリヤニ。

フライパンでマスタードシード、ガラムマサラ、コリアンダーなどをテンパリングし、赤エビを加えてうまみを油に抽出。トマトとヨーグルトのソースでコクを出し、半茹でのバスマティライスを合わせて炊き上げている。ライスを口に含むと、還元反応がもたらす効果なのか、何時間もかけて出汁をとったかのような強烈なエビとスパイスの味わいがこみあげてきて驚く。何層にも重なり合った香りと味わいのハーモニーを鑑賞することこそ、ビリヤニの真髄だと気づかされる一皿だ。
本店でビリヤニのお供として定着した「コカ・コーラ」だが、こちらではセルフサービスの飲み放題で、ゼロも用意されている。「ビリヤニにはスパイスを使ったコーラが最高に合う。これは南アジアや中東でも共通の文化です。スパイスの刺激をコーラの甘みと炭酸が流し去る瞬間こそが、至福の時なんですよ」(大澤氏)
コスト度外視で導入されたこのサービスは、食事の満足度を劇的に高めてくれる。
ビリヤニが日本の「定番」になる日を夢見て
オープン初日は開店1時間半前から行列ができ、ランチ営業だけで50食を売り上げた「ビリヤニマスター」。すでに注目店となっているが、大澤氏はビリヤニを一時のブームにするのではなく、日常食としての定着を目指している。

「2回目、3回目と通ってもらえる店にしたいですね。週に1回、あるいは月に1回、『今日はビリヤニにしよう』という会話が、牛丼やカレーと同じように交わされる。それが僕たちの目指す食の発展です」

これまで「マニアの食べ物」というイメージが強かったビリヤニを、圧倒的な熱量と緻密に考え抜かれた合理的な調理法で、高得点のうまさを生み出し日常へと繋げる「ビリヤニマスター」。神田のオフィス街で働く人々が、午後の活力のためにビリヤニを頬張り、キンキンに冷えたコーラで喉を潤す。そんな新しい日常の風景が、ここから始まろうとしている。
※価格は税込。



