【噂の新店】安室

生まれ育った東京からルーツである沖縄に移住し、「沖縄でおいしいイタリアンならここ」と言われるまでになった「IBISCO」を閉め、セカンドステージは地元、東京へカムバック。風情ある人形町で「安室劇場」が始まりました。

縁ある東京と沖縄を行き来して夢を叶える!

オーナーシェフの安室 優さん

食の中心地人形町にまた一つ、イタリアの郷土料理を楽しませてくれる店がオープンしました。両親が沖縄出身という店主の安室 優さん。産声をあげたのは沖縄ですが、すでに両親は東京に居を構えていたので育ったのは江戸川区。だから自身のアイデンティティは沖縄と東京にあると話します。両親が共働きだったことで、気づけば自分の食事は自分で作っていた安室さんは高校時代、アルバイト先の店長に言われた「好きなことをやって稼げたら幸せ」との言葉に、将来の夢は料理人になり沖縄でオーベルジュを開業することと定めます。卒業後、「リゾートトラスト」「カルミネ」「ビアンカーネ(閉店)」などで修業を重ね、2015年、沖縄に「IBISCO」をオープン。コンセプトに掲げた“イタリアを体感する店”は人気を博しました。

オープンキッチンのカウンターは6席

創業10年を機に店名を苗字の「安室」に変え、地元である東京へ移転を決意。歴史的に出発の地である日本橋。ここから始めて広がっていくという意味を込め、日本橋人形町に店を構えました。全国から足を運んでもらえる店になりたいと意気込みを語ります。

「IBISCO」を彷彿とさせる個室

「IBISCO」で飾っていたアートやイタリアの地図などを引き継ぎ、再現した個室。ベネチアンガラスの照明やオブジェもイタリアのもので、「ここはイタリア?」と錯覚します。

器も必見! 総合芸術と言わしめる料理に陶酔

グランドメニューとは別に黒板には本日のおすすめメニューが書かれています

特徴的なのはオーダーの方法。おまかせコース(11,000円〜)、アラカルト(3品以上のオーダーがマスト)、そしてコースとアラカルトを“いいとこ取り”したニュープリフィックススタイルの2種類があります。ニュープリフィックススタイルとはアラカルトで選んだ料理を店側で取り分けてコース仕立てにすることだそう。初来店はおまかせコースで安室さんの料理を知り、2回目以降はニュープリフィックススタイルで“私だけのコース”を作るのがおすすめです。

「生ハムとメロン」

今回は前菜3品、パスタ2品、メイン1品、デザート、コーヒーからなるおまかせコースをご紹介します。生ハムに力を入れているという安室さん、1品目は「生ハムと季節のフルーツ」と決めています。生ハムはアフリカ豚熱の発生でイタリアやスペインからの輸入が停止している今、最も注目されているアメリカ産を使用。イタリアの製法を再現しているだけあって、しっとりとやわらかく口溶けがいい!

「Sghr スガハラ」のガラスプレートに緑が映えて美しい!

2品目はローマの郷土料理、豚の頬肉やタンや耳をゼリー寄せにした「コッパ・di・マイアーレ」です。サルサヴェルデのさっぱりとした味わいと、コリコリとやわらかさを持ち合わせた食感が口中を楽しませます。

イタリア・ヴェネト州パドヴァ産のホワイトアスパラ
「ホワイトアスパラ バッサーノ風」

続いてヴェネト州の伝統的料理「ホワイトアスパラ バッサーノ風」です。「バッサーノ風」とは粗くつぶした半熟卵に白ワインビネガー、オリーブオイル、塩、胡椒を混ぜたソースのこと。ホワイトアスパラガスの穂先と根元と味わいの違いを堪能して!

「自家製パン」

「ソースが残ったらパンで拭ってください」と供してくれた自家製のパンがおいしすぎました。使っているのは全粒粉と強力粉と言いますが、このモッチモチの食感は何か“魔法の粉”が入っているに違いありません。

「イタリア産冬トリュフ」

「トリュフを削るとお客様が笑顔になるのがいいなと思い、それからトリュフについて勉強しました。黒トリュフは一年を通していつでもありますが、季節ごとに個性が違います。ただかければ良いわけでなく、そのトリュフの個性に合った“正しい”トリュフ料理を知ってもらえたら、という思いがあります」と言うように、卵の風味が強いタヤリンとバターたっぷりのソースにナッツ香や熟成香があるイタリアの冬トリュフは最高の相性です。

熊本県阿蘇産のあか牛

「沖縄では良い食材を仕入れるのが本当に難しかった。オープン当初はフレッシュのモッツァレラチーズすら手に入らずネットで買っていたので、料理の金額より送料の方が高いくらい(笑)。そんな大変な時代に特別に骨付きで仕入れさせていただいた熊本県阿蘇産のあか牛は東京でも変わらず使います」と安室さん。人数によってはL-ボーンでも提供可能というからうれしい限り。

「熊本産あか牛 サーロイン」

焼き上げた塊肉をカットした安室さんが納得の表情を見せただけあって、何とも美しい焼き色です。ナイフを入れると弾き返してくるほどの弾力なのに、口にするととってもやわらかい。肉のポテンシャルも申し分ないのですが、焼きの技術の高さを物語っています。付け合わせはシンプルにルッコラのみ。オリジナルデザインで作製したマヨルカ焼のプレートに“おいしい骨太イタリアン”を描きます。

スペシャリテ「人形町のリゾット」で愛される店に!

「人形町のリゾット」

「実はスペシャリテがなかったんです。どの料理にも思い入れがあって選びきれずにここまできてしまったのですが、東京ではスペシャリテを作ろうと決めて、何かヒントになればと『鳥料理 玉ひで』に行ってみたんです。そこで感じたのはちゃんとした食材をちゃんと手当てしてちゃんと調理することが265年も愛される味であり、スペシャリテとはそういうものだということでした」

鶏肉は千葉県産「美桜鶏」

「カルナローリ米」を使ったチーズリゾットの上にはプリッとした鶏肉をフワトロ卵でとじた親子丼の頭。伝統的な日本の味にプラスされたチーズのコクとほのかな酸味が新感覚! 「玉ひで」の親子丼をオマージュしたスペシャリテ「人形町のリゾット」には安室さんのアイデンティティが詰まっています。

「ティラミス」

デザートは「ティラミス」。おいしくするコツはおいしいエスプレッソを淹れることだそう。エスプレッソを利かせた甘さ控えめでしっかりとしたテクスチャーは“正しい”イタリア料理を直に感じさせてくれます。

ニュープリフィックススタイルが叶える、世界に一つだけの“私好み”

「コンタディ カスタルディ」(グラス1,800円)

グラスの泡は「コンタディ カスタルディ」のフランチャコルタのみ。フランチャコルタ三大生産者と言われるヴィットリオ・モレッティ氏が所有するプレミアムな「ベッラヴィスタ」をより日常的に楽しむために、華やかで軽めに仕上げた「コンタディ カスタルディ」は、毎日来店したくなるくらいバラエティ豊かな安室さんの料理にぴったりです。グラスワインは常時、白と赤を3種類ずつ用意していますが、「たくさん開いちゃっている時」に遭遇してみたい!

座右の銘は「好きこそ物の上手なれ」

沖縄も東京も大好きだと言う安室さん。「よく沖縄から東京へ進出と言われますが、育ったのが東京なので地元に帰ってきたという気持ちなんです。顔も体毛も濃くて沖縄にいても外国人と言われたほどなので、自分のアイデンティティをいつも意識していました。だからここで作る料理を通して大好きな日本の良さ、東京の良さを発信できたらいいなと思っています」と話します。

後輩の書道家、井手彩也香氏作

「レストランの語源は『回復する、健康な状態に戻す』です。その日の気分や体調はさまざまだと思いますが、来店されたすべてのお客様が元気で明るい気分になって帰途についていただきたいという思いを込めて料理しています」と安室さん。通うたびにより“私好み”になるニュープリフィックスコースが、そんな安室さんの思いを叶えてくれることでしょう。

※価格は税込、サービス料別。

文・高橋綾子 写真・木村雅章