伝説のTV番組「料理の鉄人」のブレーンを務め、現在も食にまつわるプロジェクトをいくつも手がけている川井潤さんによる本連載。今回の“発明”はおなじみのカレーにまつわるアレです。

【発明レストラン】

~勝手に「料理ノーベル賞」~vol.4「とあるカレー」を作った店に賞を送りたい

ある人がメニューを思いつく。オリジナルに開発された味がその店だけの特別メニューになっていく。ある時それが真似されて普及し世間で当たり前のメニューになる。そんな料理を最初に考えついた料理人を好きになるし、作った料理店をリスペクトする。

 

そんな愛すべき料理人や料理店を紹介させていただいている。

カツカレーに?いいえ、もっとディープな発明に

大正時代、浅草にあった屋台洋食屋「浅草河金」。客からカツにカレーを掛けて食べたいと言われ、作ったのが「河金丼」という名のメニュー。これこそがカツカレーの最初と言うのは有名な話だ。1918年(大正7年)のことである。
だからカツカレーの本当の発明者、起案者はその客、ということになる。

河金の店名は初代のお名前が「河野金太郎」であるところから来た。

カツカレーの最初と言う証拠は辿ることができないが、おそらくここがカツカレーのルーツだろう。

カツカレーの歴史をたどると…

時を経て、ジャイアンツ千葉茂選手からの「カレーライスにカツレツをのせて」というオーダーで、「銀座スイス」がカツカレーを出すようになったのは1948年(昭和23年)だ。

銀座スイス外観 出典:お店から
銀座スイスのWカツカレー 出典:ぴーたんたんさん

大阪では難波の「元祖とんかつカレー カツヤ」が元祖と言われることもあるが、創業は昭和30年代。とはいえ、この店はカツカレー専用ルーを開発していて面白い。

カツカレーにアレを組み合わせた天才

話は戻り、カツカレーのルーツと言えそうな河金は元々屋台で提供するため立ち食い方式。立ってどんぶりで食べるので、本来別皿のはずのカツもキャベツもルーもどんぶりご飯の上に一緒に盛られる。結果としてカレールーがキャベツのシャキシャキ感と相まって美味しさを醸し出すという奇跡を生み出したのだ。

 

シャキシャキキャベツとカレーの組合せを考えつくなんて、天才。

 

と僕は思う。

 

味は浅草出店当初の頃と変わらないと色んな取材記事には書いてあるが、今現在の入谷にある「河金」の店の方に話しを聞くと苦笑いされていた。はて、どうなんだろう。それにしても壁一面のメニューも壮観。

河金の外観
河金の店内メニュー
河金の店内
名物河金丼

河金丼のカレールーの中に入る具は豚肉と玉ねぎのみ。隠し味にソースや砂糖などが入るそう。カツは厚さも程良い厚さで主張しすぎることもなく、良いバランス。肉は赤身系か。脂身はほとんどなく食べやすい。

 

そんなわけで、今回の「料理ノーベル賞」はこの「河金」を食べログから表彰して欲しい。それもカツカレーを誕生させたことに対してではなく、そこにキャベツを入れた発想、そのシャキシャキ食感キャベツとカレーとゴハンとの組み合わせを発明したことに対して。

 

 

カツカレーだと本来発明したのはお客さんみたいだし……。でもこのキャベツ入りカレーのその後の影響は計り知れない。一部具体例をご紹介しよう。

世紀の発明、キャベツカレーはここにも

 

1.キッチン南海

神保町、早稲田、下北沢のカツカレーにはキャベツが入るが南池袋、東池袋店には入らないので要注意。ここでは神保町店を紹介する。

店頭に「元祖カツカレーの店」と書かれた象が鎮座している。んー、この店は1960年(昭和35年)に飯田橋で創業して、神保町に移転して来たのは1963年(昭和38年)のこと。カツカレー元祖戦争は、ややこしい。なので、この話は除外して……。

 

昼時の行列はかなりのモノだが回転率は高いのでそれほど待つことも苦にならない。オーダーも並んでいる間に聞きに来てくれるので入店後のストレスはない。

 

人気はやはり「カツカレー(750円)」。そこにデフォルトでついてくるキャベツ。
ポイントはこのキャベツ。さらにもう少し欲しい時はオプションでキャベツ(+50円)を追加もできる。この日はそれと生卵(50円)を追加オーダー。


カレールーの見た目は黒い。とんかつの薄さがちょうどカレーに合う。舌にビリビリっと来る辛さがあるわけではないが、スパイスもちゃんと効いて、美味しい。そしてその添えられたキャベツがシャキシャキ食感を作り出して美味さを増す。
シャキシャキキャベツともちもちライスとサクサクのカツ、そしてサラサラしながら若干トロッとしたカレールー。全ての食感がこの美味しさを醸し出している。

 

生玉子を潰して、少しマイルドにさせて味変を楽しむ。テーブルの上の福神漬けも良いアクセント。

 

2.カレーの市民 アルバ

金沢カレーはキャベツをのせるのが当たり前。有名どころのゴーゴーカレーカレーのチャンピオンもそうであるが、秋葉原にある金沢というか加賀発祥のカレー屋さんの「カレーの市民アルバ」も同様。

カレーの市民アルバ外観

アルバカレーは1971年(昭和46)年)、石川県小松市が発祥の地。小松市では「金沢カレー」とは厳密には言いがたいからか、看板にも「加賀カレー」と表示している。
ただし、内容は金沢カレーと同じで、ステンレスの器にご飯とカレー、さらにキャベツの千切りが添えられ、先割れスプーンで食べるというスタイル。実を言えばカレーのチャンピオンの創業者のもとで修行をしていた関係もありこの独自のカレーを作り出していったそう。

今回は基本の「アルバカレー(税込600円)」、そこに「海老フライ1尾(1尾で130円)」をトッピング、サイドメニューに「らっきょう(70円)」=メニュー表には8~10粒と書いてあるが、実際には20粒出てきて食べきれなかった。2~3人で一つ頼めば良いかも。そして生卵(60円)をオプションでオーダー。計860円(税込)。

 

ホームページによると、カレールーはふんだんな量の玉ねぎと野菜、牛肉を6時間以上煮込むとか。確かに溶けてしまっていてほぼ素材は原形を残していない。トロみがあって子供の頃食べたカレールーを彷彿とさせるが、味わいがある。ただしスパイシーさは弱いので、辛いタイプが好きな人はテーブルに用意された「カイエンペッパー」を適量かけて辛さを増していくことをオススメする。もちろん僕はそうした。
そして、今回注目のキャベツが、耳元でシャキシャキ言う音が食欲を増してくれる。
やはり、上手に使われている。

 

ちなみに
店名の「アルバ」はスペイン語で「夜明け」、「日の出」の意味。

 

3. マーブル

サラリーマンが多くを占める有楽町ビルの地下1階にある「マーブル」でもキャベツカレーが食べられる。この店も、昼に限らず割といつも行列している。
ただ、キッチン南海同様、回転は早いので、待てなくはない。
鉄板メニューは「インドカレー(850円)」と言う名の、家庭カレーのようなトロリとしたルー。
そこにゆで卵(50円)をオプションでトッピングしてみた。

 

2分で着皿。
青々としたシャキシャキのキャベツが特徴のインドカレー。
最初のひと口はなんてことないのだけど、食べている途中から美味い美味いと感じるようになる。辛さも凄く辛いわけではないけど、ちゃんと辛さを感じる。なんなんだろ、この不思議な感じ。

 

豚肉には山形県 平田牧場の三元豚を使っていて、量もたっぷり。この肉を赤ワインに漬けてコクを出しているのだそう。

 

キャベツの千切りにはりんご酢が和えられているらしく、カレーと食べると味がまろやかになる。案外細かいところまで手が込んである。福神漬けもたっぷり添えられていて、嬉しい。

 

チキンカレーとビーフカレーにはキャベツが付かないので、食べたい時はオプション50円で。カレーと混ぜたくない人もいるらしく、キャベツは別皿で頼む人もいる。僕は断然一緒にシャキシャキ食べるのが好きだけど。

 

この店にもテーブルにはカイエンペッパーが置いてあり、辛さを増す時利用する。

ホントになぜだか、ここの店のルーは美味しい。

番外編:司亭


ここには「満腹警察24時」というお弁当がある。放送作家であり、くまモンの生みの親である小山薫堂氏が考えた弁当で、当初は警察からの注文がこの店に多いということで「いつも遅くまでご苦労様」の意味を込めて、ボリュームあるモノをと思って作ったとか。

実は開発当初の12年前(2006年頃)、一度だけ薫堂氏の事務所で食べさせてもらったことがあったのだが、今回もう一度この取材を兼ねて食べてみようと訪ねた。
まずある日の15時過ぎに伺うも店のお母さんからもう閉店だと断られた。店は16時までは開いてるはずだけど……。

 

翌日14時頃再度訪問。向こうも顔を覚えてくれていて、

(母) 「あー。昨日断った人!」とひと言

 

(僕)「満腹警察24時は?」とオーダーすると

 

(母)「もう止めちゃったのよ、人気が出過ぎて、対応できなくて。目玉焼きをひとつひとつ焼くのが大変で」

 

(僕)「ええええええぇ?」

 

母)「いきなり5つ、とか頼まれても無理なのよ~、昨日も朝から予約だけで200個もあって、朝10時に来た人も夕方来た人も断っちゃった~、あはは」

 

(僕)「いや、ひとつだけでいいんです……」

 

(母)「あっ、そうか。薫堂さんのお友達だしね、じゃあ、特別に作ってあげるかな」

 

 

奥でお弁当を実際に作っているお父さんもうなずいてオッケーしてくれた。

 

ということで作ってもらって再現された「満腹警察24時弁当」がコレ。

気合を入れていただきました。目玉焼きの乗っかった幻の「満腹警察24時弁当」。
カレーの上にハムエッグ、カレーの下にシャキシャキキャベツの千切り。この組み合わせがたまらない。カレーは辛くはなく、粉感たっぷりのトロッとしたまさに家庭のカレールー。ジャガイモもゴロゴロ、玉ねぎもたくさん入り、豚のバラ肉もたくさん使われている。これで税込550円と言う破格値。

 

トッピングは、記憶違いでとんかつだとばかり思っていた僕にお母さんが「それだったらもう少し楽だったわね。目玉焼きはひとつひとつ焼いて大変なのよー」と。よっぽど目玉焼きは面倒臭いみたい。

 

アイドリングタイムになる、14時くらいだったら、もしかしたら、このお弁当作りも母さんが受けてくれることもあるかも。無理だったらごめんなさい。

 

こうして、広がっていった「キャベツカレー」。

再度お願いするが、是非、最初に出すきっかけになった「浅草河金」の血を引く、入谷の「河金」に食べログから「料理ノーベル賞」をあげて欲しい、なっと。


再度お願いするが、是非、最初に出すきっかけになった「浅草河金」の血を引く、入谷の「河金」に食べログから「料理ノーベル賞」をあげて欲しい、なっと。