視覚も味覚もとりこにする握り

1貫目はコハダ。キリッと酢締めしたコハダで「揚げフカヒレ」の油を切り、握りへの扉を開きます。コハダを食べればその職人の技量がわかると言われるのは、塩の量や振り方、酢で締める時間や塩梅を決めるのはデータでなく職人の勘によるから。戸田さんの技術と舌のセンスが確信できる一貫です。

取材当日は青森県大畑漁港の100kgの本鮪。夏から初秋は国産の天然鮪が手に入りづらい時期ですが、最上級の鮪がしっかり入ってくることからも戸田さんの実力のほどがうかがえます。大きく切りつけて重ねるのは「すぎた」譲り。赤身なのにとろりんとした口どけにしばし陶酔できます。

千葉県で獲れた「メガイアワビ」は軽く蒸して、飾り包丁を入れて握ります。実は鮑は火加減も味つけにも細心の注意が必要な難しい食材。このやわらかさとほどよい歯応えのバランスといい、後から滲み出る貝独特のうまみといい、鮑に目を細めてしまいます。

江戸前寿司の代表格の一つである穴子。ふっくらとした身、甘さ控えめの煮つめ、酢飯が一体となって喉を通ると穴子は溶けてなくなり、後に残るのは穴子の香りとうまみ。戸田さんの穴子のうまさたるや! 小骨一つ感じない丁寧な仕事ぶりも感動もの!

うまい握りはうまい酢飯があってこそ! 戸田さんの酢飯はお米マイスターが厳選した香りが強くて大粒の古米を、羽釜で表面はパリッとした輪郭を持ちながら芯まで火が入るように炊き、熟成した米酢に赤酢を少しだけブレンドした酢を合わせています。酢をあまり主張させずにパラリと解ける酢飯はどんなタネともマッチして対等に主役を張っていることを実感させます。
一番は楽しんでもらうこと!

うまいつまみとうまい握りにつきものなのが酒。「半合ずつ召し上がっても重なることがないよう種類を豊富に揃えています」と、日本酒好きなら思わず「おぉ!」と叫んでしまうものが並びます。寿司と言えばどうしても日本酒に行きがちですが、こちらではワインもおすすめ。「うまみが強く繊細な味わいの戸田さんの握りにはやわらかさのあるワインが合います」と熟練のソムリエがシャンパーニュとブルゴーニュを中心に国産ものを加えてセレクトしています。

最高の食材を仕入れることも、クオリティの高いつまみや握りも、日本酒もワインも、居心地の良い空間作りも、すべては客に楽しんでもらうため。修業先で体得したものに海外で蓄積した独自のセンスが加わった「鮨 陸」。食事が終わり帰路につくとお腹も心も幸福感でいっぱいになります。すでに予約困難店になりつつありますが、是が非でも訪れたい店です。
※価格は税込



