中村 真利氏のおすすめ4

「食べ歩きはいつも女将である家内と」と話す中村氏のお気に入りは、慣れ親しんだ神楽坂から2軒、生まれ育った下町近くの老舗洋食店、川口の寿司店の4軒。中村氏が惚れ込む理由とは?

ディナーのおすすめ①神楽坂 恵さき(えさき)

「家内の両親の誕生日に使わせてもらったこともあります」とディナーの1軒目に挙げてくれたのは、飯田橋駅寄りの神楽坂通りを南に少しそれた「神楽坂 恵さき」。カウンターと小上がり合わせて14席、関西で修業を積んだ店主による上品なおでんで知られるが、炭火焼きや刺身などの一品料理が充実しているのも特徴だ。

横綱グルメ
出典:横綱グルメさん

「大将が必ず店に立たれているので安心感があります。大将は素材や料理に対して妥協せず、手を抜かず、ある意味とても厳しい人。料理人として互いに刺激し合える存在でもあります」と中村氏。聞けば「神楽坂 鉄板焼 中むら」が軌道に乗る以前から、陰日向になり応援してくれたのが「恵さき」の店主という。

猫奴隷
出典:猫奴隷さん

おでんは、とろろ昆布が添えられた大根、牛すじ、鰯のつみれなどの定番や試作の末にたどりついた半熟玉子、夏は冷製トマトやもろこし薩摩揚げなども登場。日本酒などを合わせつつ、通年訪れたくなる店である。

「ここはおでん屋さんというよりは割烹屋さん。アラカルトが豊富なので、いろいろ頼んでいただきたい一軒です」(中村氏)

すだちとかぼす
出典:すだちとかぼすさん

メニューに「うなぎ蒲焼き 関西風」「黒毛和牛サーロイン」「太刀魚塩焼」が並ぶなど、店主は炭の扱いにも長けている。ちなみに中村氏が、麻布台の店の炉窯で使う紀州備長炭を入手できずに困っていたとき、一級品の仕入先につないでくれたのも「恵さき」の大将なのだそう。

なんでも言い合える間柄の中村氏がコース料理を作っては?と提案しても、「俺たちみたいな板前は、一品料理で同時にいろいろなことができなゃダメなんだよ」と、どこまでもアラカルトを貫く。「長く生き残るべき、しっかりした知識と技術をもっている職人の店です」(中村氏)

・おでん各種、一品料理 予算:~10,000

ディナーのおすすめ②鮨 猪股

ディナーの2軒目は、埼玉は川口からその名をとどろかせる寿司の名店「鮨 猪股」。「The Tabelog Award」常連店で、東京・大阪はもとよりはるばる海外から訪れる客も多い。「僕が生まれ育った足立区は川口市も近く、どんなところか知っているだけに、この場所でこれだけ成功するとは本当にすごいこと」と中村氏も絶賛する。

tomo4rin
出典:tomo4rinさん

川口駅から徒歩10分、こんな所に寿司店が?と思うような集合住宅の1階に「鮨 猪俣」はある。席はカウンター9席、メニューはおまかせ握りのコースのみ。つまみはなく、握り一本勝負の店である。「奥様と大将がいつも温かく迎えてくださり雰囲気がとても良いのです。とにかくコースの組み立てが秀逸で、食後感がクリア。お代わり可能な日は何貫でもいけるほどです」と中村氏。

代々木乃助ククル
出典:代々木乃助ククルさん

「素材から本当に妥協なく、仕入れのために全国を旅する人」と中村氏が話すように、定期的に全国の漁港をめぐり、漁師や仲卸とのつながりを大切に、うまいと納得する味を求め続ける店主。「生魚の独特なにおいは微塵もなく、魚の温度帯、季節や個体に合わせた仕込みなど、すべてが薦められる店。大将に身を預けて楽しんでいただきたいですね」(中村氏)

牛丼大森
出典:牛丼大森さん

大きく厚いネタを支えるのは、理想の米を探し続ける店主が出会った甘みとうまみのある米。甘みとのバランスを考えたほどよい酸味の赤シャリが、寝かせた魚や力強いマグロの味を受け止める。

中村氏は「お腹いっぱい食べても調子がよく、翌日も気分爽快でいられる料理」を提供することを何より大切にする料理人だが、「鮨 猪股」の握りもまさにそこに重なる。

・おまかせコース、日本酒 予算:40,000円台

ランチのおすすめ①レストラン香味屋(かみや)

「下町にあるちょっとぜいたくな洋食屋さんです」と、ランチ1軒目に挙げてくれたのは、入谷駅から徒歩5分、1925(大正14)年創業の洋食店「レストラン香味屋」だ。「おふくろの実家が『香味屋』さんのすぐ近くの下谷で、お墓参りのときにも行きますし、2月に1度は行っています」と中村氏。

ジゲンACE
出典:ジゲンACEさん

花柳界でにぎわっていた根岸に輸入雑貨店として創業し、芸者衆のリクエストで軽食を出すようになり、後に本格的な洋食レストランに。商売を営む客が通常のランチタイムから外れた時間に訪れることが多かった名残で、ランチ、ディナーの区別なくどの時間に訪れても通常メニューが味わえる。

中目のやっこさん
出典:中目のやっこさんさん

「昔ながらのデミグラスソースで作るビーフシチューやベシャメルソースを使ったメニューなど、若い頃に帝国ホテルで作っていたような料理が多く、とても懐かしい味。食後に体が重くならない料理も多いですね」と中村氏。

Walnut
出典:Walnutさん

「どこに行っても、いつもすごい量をたのみます」と話す中村氏が必ずオーダーするのは、オニオングラタンスープ。奥様ともどもハヤシライスもお気に入りで、ビーフシチュー、海老マカロニグラタン、カニコロッケなど、アラカルトで多彩なメニューを楽しんでいるという。

・オニオングラタンスープ、ハヤシライス 予算:~5,000

ランチのおすすめ②石臼挽き手打 蕎楽亭(きょうらくてい)

「神楽坂の代名詞ともいえるお店」と教えてくれたのは、「食べログ そば EAST 百名店」の常連で、開店前から行列ができる店「石臼挽き手打 蕎楽亭」だ。

杉ちゃんmastar
出典:杉ちゃんmastarさん

神楽坂の住民の方々から聞いたという中村氏の話によると、店がある見番横丁は、かつては人通りが少なく飲食店がなかなか定着しなかったというが、1998年「蕎楽亭」のオープン以降、一気に雰囲気が変わったそうだ。

「通勤で毎日店の前を通っていたのですが、元気が湧くというかいい『気』が流れている気がするんです。それってやっぱり、こだわりをもっていい食材を使っているからでしょうね」と中村氏。

kuma(^-^)
出典:kuma(^-^)さん

そば店ではあるが味噌きゅうりや牛すじの煮込、にしんの山椒漬けなどのおつまみが充実。店主の出身地・会津の郷土料理「こづゆ」や馬刺しなども味わえる。「おそばはもちろん、天ぷらや一品料理も豊富で何を食べてもおいしいですよ」(中村氏)

きみじまぴんく
出典:きみじまぴんくさん

中村氏が〆に味わうそばは、会津から取り寄せた玄そばを石臼びきでていねいに製粉、そば本来の味や香りを楽しむことができる。温冷のそばに加えて、二色そば(ざると田舎そば)、めおともり(そばとうどん)、むぎめおと(そばとひやむぎ)などの名物メニューが通年楽しめるのもうれしい。

・そば、天ぷら、一品料理 3,0005,000

※価格はすべて税込です。

取材・文:池田実香(フリート)