〈これが推し麺!〉

ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。

今回訪れたのは、連載「森脇慶子のココに注目」でお馴染みのフードライター・森脇慶子さんがおすすめする「かけそば」。ごまかしの利かないシンプルなメニューゆえ、素材一つひとつにこだわり抜いたことでオンリーワンな味わいとなり、味にうるさいツウの心をうならせる絶品メニューとなっている。

教えてくれる人

森脇 慶子

「dancyu」や女性誌、グルメサイトなどで広く活躍するフードライター。感動の一皿との出合いを求めて、取材はもちろんプライベートでも食べ歩きを欠かさない。特に食指が動く料理はスープ。著書に「東京最高のレストラン(共著)」(ぴあ)、「行列レストランのまかないレシピ」(ぴあ)ほか。

シンプルゆえに味わい深い、かけそばに注目

店主の平山さんの思いが込められている「かけそば」1,000円。一見シンプルに見えるメニューだが、丁寧に取られただしと自家製麺のハーモニーは一度食べたら忘れられない

だんだんと寒くなってくると、身も心も温めてくれるようなものが食べたくなってくるもの。冬が近づけば近づくほど、日本そばがおいしくなるが……そんな中で森脇さんが最近ハマッているというのが「浅草 ひら山」のそば。それも最もシンプルな「かけそば」である。

シンプルがゆえにごまかしが利かない、まさにそば職人の腕がダイレクトに伝わるメニューだが、「浅草 ひら山」の「かけそば」はそうしたシンプルさの中にどこか深みのある絶品となっている。

 

 

森脇さん

香り豊かでふくよかなだしと打ち立てそば、この2つがあれば十分です!

浅草とかっぱ橋の間に見つけた、隠れ家のようなお店

東京メトロ銀座線・田原町駅から徒歩2分ほど。隣駅には観光名所として名高い浅草、駅から少し歩けばかっぱ橋というところに「浅草 ひら山」はある。駅からは近いが、浅草とかっぱ橋という観光地に挟まれた小路にあるため、どこか隠れ家的な雰囲気もある。

店主の平山 周さん。長年、日本料理やそば屋での修業を積んで「自分好みのそばを作りたい」という思いから2021年にお店をオープン

「物件の雰囲気が気に入った」という理由で浅草に店を構えて早2年。観光客も多く、日本料理に食べ慣れた味にうるさい人たちが多く住んでいる街ながら、持ち前の素材に対するポリシーと強い思いから作られるそばを中心とした料理の数々で、地元の人たちの心をつかみ、今では幅広い世代に愛されている。

店内はカウンター席を含め、15人ほどが入れるサイズ。「厨房からお客様が見えるので、食べ具合に合わせて料理を提供するようにしています」という狙いもあるという

根強い人気を誇る、選び抜いた食材で作り上げる天ぷら

「浅草 ひら山」の名物と言えば、もちろんそばだが、そばとともに根強い人気を誇るのが天ぷら。透き通ったごま油100%で揚げられる天ぷらの数々はサクサクとした歯ごたえと、素材のうまみがふんだんに生かされたものばかり。常連客の中にはこの天ぷらをつまみに日本酒をたしなみ、シメとしてせいろそばをオーダーするというツウな方もいるという。

もちろん、森脇さんも平山さんが作る天ぷらのファンの一人。そこで今回は人気が高い3品を“そば前”として用意してもらった。

 

森脇さん

単品で天ぷらをいくつかオーダーして、天ぷらそばに仕立てて食べるのもオツです!

美しいごま油で香ばしく揚げられる天ぷら。そばとともに食べるお客さんも多いのだとか

まず用意してもらったのが、江戸前の天ぷらの定番とも言える穴子。サクサクとした衣の食感とフワフワとした穴子の身の歯ごたえはまさに絶品で、アツアツの天ぷらを一口食しただけでも幸せな気分に浸れることだろう。

「穴子の天ぷら」1,500円はフワフワとした食感が魅力。これをアテにして日本酒をたしなむ方も多いのだとか

続いて平山さんが用意してくれたのはレンコン。レンコンの天ぷらというと通常はレンコンを薄く切ってカリッと揚げることが多いが、「浅草 ひら山」のレンコンの天ぷらは通常のものと比べるとかなり分厚い。

これだとかみ切れないのでは?と不安になるかもしれないが……このレンコンは石川県産の「加賀れんこん」と呼ばれる銘柄。もっちりとした食感が特徴のため、その味わいを生かすために平山さんは敢えて厚めに切って提供している。

加賀れんこんを使用した「レンコンの天ぷら」(900円)。まるでサツマイモのようなもっちりとした食感が魅力

最後に登場したのは季節限定のもの。各季節でそれぞれ旬のものを天ぷらとして提供しているが、取材した11月の限定ものは栗を使用した天ぷら。栗を天ぷらにすること自体が珍しいが、産地もその時その時で一番いい栗を厳選して使用する。大ぶりの栗を揚げる前に炊いているが、敢えて渋皮を残しているのがポイント。

「渋皮があることで、パリッとした食感と栗特有のホクホクとした食感、両方が楽しめるんです」という、平山さんのセンスが光る一品だ。

「栗の天ぷら」(900円)。大ぶりのサイズだが、ホクホクとした食感と渋皮のパリッとした食感がクセに。12月半ばまでの限定メニューとなる