だしの風味を最大限に引き出す立役者は海苔

天ぷらを堪能した後、いよいよメインのそばの出番に。そば粉はその季節に合わせ、最も適したものを使用するという徹底ぶりで、取材当日は福井県産のそば粉を使用。このそば粉十割で作った自家製粉の手打ちそばを大きな鍋でサッとゆでることで風味のいいそばが出来上がる。

そばに使用するそば粉はその日によって異なる。店舗2階でそばの殻を剥くなどの工程を経てから、1階にある石臼で自家製粉の手打ちそばに仕上げる
大きな鍋で泳がせるようにゆで、サッと取り出す。そばのいい香りが店内に漂ってくる

そばに合わせるだしは干しシイタケと本枯節、真昆布でとったもの。「そばにマッチするように」と平山さんが心がけて作っただしの生命線はそのバランス。干しシイタケと鰹節、そして昆布のバランスをいかに崩さずに仕上げるか。そしてそばの太さ、器の大きさを勘案してベストな味わいにするにはどうすべきかをすべて計算した上で仕上げている。

常連客からの根強い支持を得ている隠れた人気メニュー「花巻」1,600円。海苔の香りを楽しみつつ、途中からわさびをのせて食べて味変するのも◎

平山さんの思いが込められたかけそばには「余計なトッピングは不要」と推薦人の森脇さんも語っているが、その中で彼女が「加えてもおいしい」としたのが海苔だった。

この海苔とは平山さんが「そばに合う海苔」として探し求めたもので、かっぱ橋の名店「ぬま田海苔」の鹿島初摘みのばら干し海苔というもの。通常の板海苔とは違い、固まりになっているためそのまま食べるとやや硬い食感だが、これにそばのだしがかかると通常のものよりも海苔の香りがより一層引き立つ。この海苔をふんだんに楽しめるメニューが「花巻」である。

「森脇さんはじめ、常連さんからも根強い人気を誇ります」と平山さんが語るように、丁寧に取られただしを引き立たせる存在と言えるだろう。

これがぬま田海苔の鹿島初摘みばら干し海苔。ごわごわとした見た目だが、だしがかかると海苔のいい香りが全体に広がってくる
 

森脇さん

ばら干し海苔のシャキシャキとした食感と後に残る濃厚なうまみがよく合います。

シンプルながら奥深い、日本そばの世界

東京メトロ銀座線「田原町駅」から徒歩2分。地元の方たちが足しげく通う一方で、すぐ後ろの道にはかっぱ橋商店街があるため、週末には外国人観光客もやってくるという

森脇さんが「浅草 ひら山」のイチ押しとして紹介する「かけそば」と「花巻」という2種類のそば。一見するとどちらもシンプルなものだが、その奥は実に深く、平山さんの料理人としての熟練された技術と味への飽くなき探究心がそばのうまみを引き立てる。

お店で提供される箸の包み紙には縁起物の亀のイラストが。こうした細部にも平山さんのポリシーが感じられる

シンプルながら、どこか奥深い。そうしたそばを食べに浅草に足を運んでみるのもいいだろう。

※価格はすべて税込、ディナーのみサービス料(10%)別

取材・文:福嶌弘(フリート)

撮影:和田咲子、白田千翔(フリート)