教えてくれる人

小寺慶子

肉を糧に生きる肉食系ライターとして、さまざまなレストラン誌やカルチャー誌などに執筆。強靭な胃袋と持ち前の食いしん坊根性を武器に国内外の食べ歩きに励む。趣味は一人焼肉と肉旅(ミートリップ)、酒場で食べ物回文を考えること。「イカも好き、鱚もかい?」

これまでなかった“新しい鶏焼肉”を体感できると評判のコースに期待が高まる!

東京の多くの街は絶えず変化しており、そのときどきで“注目エリア”も移り変わるものだが、大衆的でどこか懐かしいムードを残しながら発展してきた麻布十番がつねに鮮度を保ち続けている大きな理由は、多彩で魅力的な飲食店の存在にもある。韓国大使館が近いことから、かつては焼肉店の密集地として知られた麻布十番に10月にオープンし、今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いを見せているのが、鶏焼肉をコースで楽しませる「一鳥目 とり松」だ。

“鳥”居坂下そばの外苑東通り沿いというロケーションにも縁めいたものを感じさせる。ひかえめな看板に気づき、足を止める通行人も

外苑東通りを挟んだ鳥居坂下の向かいというロケーション。“鳥”とつく店名や外観から、いまどきのお洒落な焼鳥店を想像するが、じつはここが西麻布で人気を集める「焼肉 うし松」が手がける鶏焼肉の新店と聞けば俄然、興味をそそられる人も多いだろう。「うまい焼肉とは何か」を追求する中で、日本が誇る地鶏文化に着目。日本の養鶏が盛んな地域で地元の人々に親しまれてきた“鶏焼肉”をブラッシュアップし、趣向を凝らした一品料理を織り交ぜたコースは、ヘルシーながら牛に負けずとも劣らないインパクトがあると評判だ。

客席はパーテーションで仕切られており、ゆったりと落ち着いた雰囲気。無煙ロースターで煙とも無縁

最近は東京でも串に打たない鶏焼肉にフォーカスした店が続々とオープンし、ブームの兆しを見せているが「うし松」で培った焼肉のノウハウを生かし、これまでになかったプレゼンテーションで鶏焼肉を楽しませるのが「とり松」の強み。店で扱う地鶏は飼育環境や飼料、個体によっても風味が大きく異なるため、その特性を見極めたうえで厳選した鶏肉を使用。部位の個性に合わせて味付けを変える鶏焼肉を中心に、センスと遊び心が光る一品料理まで、単なる鶏焼肉を“鳥越”したコースもリピート必至の充実ぶりだ。

2名用の個室も完備している。お忍び感のあるミニマルな空間はデートにも

鶏焼肉のさらなる飛躍を求めて、おいしさと楽しさを追求

長い間、外食シーンでの焼肉は客が最終調理を担う食べ物とされてきた。いかに肉がおいしくても客の焼き具合によっては台無しになってしまうというデメリットも、ある種の「エンタメ性の高さ」につながっていたのだが、やはりいい肉はベストな状態で食べたいというのが食いしん坊の真理。「とり松」では、提供、最終仕上げまで店が行うことによって、最高の鶏焼肉を楽しませることをテーマの一つとしている。

「アンダーズ 東京」で料理のキャリアをスタート。「うし松」で体得したノウハウを生かした「とり松」のコースも大好評

都内のホテルで料理人としてのキャリアをスタートし「うし松」では料理長として和牛のポテンシャルを最大限に引き出すために日夜、焼肉研究に没頭した佐藤拓弥さん。今回「とり松」の総料理長に抜擢された意気込みをたずねると「鶏も牛と同様に品種、月齢、個体によって状態が異なります。マニュアルをつくるのではなく、臨機応変に自分の仕事も変えていくという意識を持って、鶏焼肉の発展に取り組みたい」という答えが。仕事の合間は食べ歩きに勤しみ、そのなかで出会った「南青山 七鳥目」の店主・川名直樹さんの仕事に感銘を受けたことも、今の佐藤さんにとって大きな糧になっていると話す。

「うし松」でもおなじみの肉のプレゼン。さばきたての鶏肉を美しく盛り付けて客席にて“肉魅せ”。色味やツヤが鮮度の良さを物語る

「もともと焼鳥が大好きだったのですが、七鳥目の川名さんの焼鳥と向き合う姿にすごく心を打たれました。とり松でコースの締めにお出ししている親子丼やそぼろ丼も川名さん直伝のレシピをもとに考案したもの。とり松のオープンにあたり、川名さんにいただいた多くのアドバイスを生かしながら串に打たない鶏焼肉をいかにおいしく進化させ続けるか、それを考えることにやりがいを感じています」