教えてくれる人

小寺慶子

肉を糧に生きる肉食系ライターとして、さまざまなレストラン誌やカルチャー誌などに執筆。強靭な胃袋と持ち前の食いしん坊根性を武器に国内外の食べ歩きに励む。趣味はひとり焼肉と肉旅(ミートリップ)、酒場で食べ物回文を考えること。「イカも好き、鱚もかい?」

ロシア、ウズベキスタン、ショージアの3国の料理は郷土色と異国情緒たっぷり!

カジュアルな店内にはテーブルのほか、カウンター席も。マトリョーシカなどの人形がさりげなく飾られた空間が異国の雰囲気を醸し出す

山手線沿線の中でもドラスティックな変化を遂げている目黒。大手外資系企業や芸能事務所、老舗ホテルなどがあることから、駅周辺以外にも飲食店が密集。権之助坂を下った山手通り沿いや元目黒競馬場にかけても人気店が多く、どこも連日賑わいを見せている。また昭和の面影を残す“飲食集合ビル“で宝探しのような気分で酒場めぐりを楽しむことができるのもこの街の魅力の一つ。そして、7月にオープンした「Anna’s Kitchen」もまた、多様で多彩な目黒の食文化を盛り上げるであろう店として注目を集めている。

昼間は定食を求めるリピーターで大にぎわい。開店から閉店まで通し営業なので、遅めのランチ、早い時間の飲み会にも重宝しそう

日本人にはなじみが薄い!? 実際食べればその味わいに夢中になる!

現在、日本でロシア、ジョージア料理を提供している専門店は100店舗もないと言われる。その中で「職人気質のシェフが作る料理が素晴らしい」と評判の老舗が、吉祥寺の「カフェロシア」だ。ロシア料理の定義は曖昧で、日本では中央アジアやジョージア、ウズベキスタンの料理も“ロシア料理”と一括されることが多い。日本でレストランを開きたいという思いのもとに「カフェロシア」で8年働いたルシコヴ・ヴラディスラヴさんは「まるでヨーロッパのような美しい街並み」と称されるハバロフスクを擁するロシアの極東部に生まれた。店名の「アンナ」はルシコヴさんの娘の名前で、そこには家族と過ごすような温かい時間を、心和む料理とともに楽しんでほしいという思いが込められている。

ピロシキ(野菜・肉)各1個350円

ロシアのことわざで「最初のブリヌィはだんごになる」というものがある。ブリヌィは現地では日常的に食卓に並ぶクレープのような薄焼きの食べ物のことで、日本語のことわざに置き換えると「習うより慣れろ」という意味になる。この言葉が表すように、まずは食べて体験してみることが新しい発見につながることも。ウクライナやロシア、ベラルーシで常食されるピロシキは、日本人にはおなじみの惣菜パンの一つ。オーブンで焼いたり、油で揚げたりと地域によって調理法は異なるが「Anna’s Kitchen」では、ソ連時代の伝統的なレシピに基づき、オーブンで焼き上げ、ふわっとした生地に仕上げている。そして、ジョージア料理といえば、数年前に某牛丼チェーン店がシュクメルリという鶏肉のガーリック煮込みを期間限定で提供して話題を呼んだが、スパイスをまぶした丸鶏を皮ごと香ばしく焼き上げたタバカも名物。さまざまな料理を少量ずつ味わえる前菜の盛り合わせからスタートし、焼きたてのピロシキを頬張り、ワインを飲みながらビーフストロガノフを味わうなど、豊富なアラカルトメニューから自分好みのコースを組み立てるのも食いしん坊の心をときめかせる。また、ランチ時は「ボルシチセット」1,600円やウズベキスタン風うどんの「ラグマンセット」1,300円なども登場し、それを目当てに通う常連客も多い。

ピロシキは生地から手作り。肉ピロシキは牛と豚のひき肉を使い、野菜ピロシキはキャベツやニンジン、玉ねぎなどたっぷりの具材が。塩や胡椒、にんにくで味付けをした旨みが濃いピロシキにさっそくワインが欲しくなる!

店主の修業先である「カフェロシア」でも人気の高い一皿。ジョージアではスプラという大勢で料理や酒を楽しむ宴会がたびたび行われ、タバカはそのスタメン料理。「Anna’s Kitchen」では、自家製のアジカというピリ辛ソースで1日マリネした鶏肉を高温のオープンでパリッと焼き上げて提供している。

「タバカ」1,400円。いろいろな鶏肉の部位を楽しむことができる。肉にしっかりと下味がついており、パサつきがちな胸肉もふっくらジューシー