お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第27回は特別編として、東京にいながら食べられる、世界の知られざるスイーツの専門店を紹介します。Part1の今回は、ポルトガル・ポーランド・ベラルーシのお菓子に特化したお店をフィーチャー。何かと遠出しにくいこのご時世、知っておくと体の中からハッピーになれるかも!

【猫井登のスイーツ探訪・特別編】ちょっとニッチな世界の知られざるスイーツ〜ポルトガル・ポーランド・ベラルーシ編〜

日本で洋菓子というと、フランス菓子を筆頭に、イタリア菓子やドイツ菓子などが紹介されることが多い。しかし、ヨーロッパにはほかにも多くの国々が存在し、それぞれが特徴的なスイーツを有している。今回は、日本でそういったお菓子を提供するお店を紹介していこう。

【ポルトガル菓子】予約必須のエッグタルトにプリンも。客足の絶えない超人気店「ドース イスピーガ」

ポルトガルは、ユーラシア大陸最西端の国である。ヨーロッパで最初に海路で、中国、日本など東アジアと接触を持った国でもある。首都はリスボン。ポルトガル菓子の特徴は、とにかく卵黄を多用すること。これは、その昔、修道女を志願する者は鶏と卵を持参するしきたりがあったことに由来する。修道院では、卵白はワインの清澄剤や洗濯糊として使い、余った卵黄をお菓子作りに用いた。

そんなポルトガル菓子専門店といえばここ。神田の古本屋街のほど近く、スポーツ用品店が目立つ大通りから入った路地にある小さな店舗だが、開店と同時にひっきりなしに人が訪れ、昼過ぎには完売御礼となってしまう。今、大人気のお店だ。

店主の高村さんは栃木県のご出身。勤務先の日光の物産店でポルトガル観光客と触れ合ったことがきっかけとなり、ポルトガルへ。ポルトガルや四谷のポルトガルレストランなどで修業。三輪自転車での移動販売からスタートされ、2017年7月にこちらのお店をオープンされた。店名の「DOCE ESPIGA」はポルトガル語で、DOCE=甘い、ESPIGA=トウモロコシの穂、という意味。そして、自転車での移動販売時代からの人気商品で、今や予約しないと買えないほどの大人気商品となってしまったのが、「パステル デ ナタ」!

「パステル デ ナタ」1個250円

「パステル デ ナタ」とは、パステル(複数形パスティシュ)=粉を練ったもの、ナタ=クリーム。パイ状の生地に、ゆるめのカスタードクリームを入れて焼いたもので、アジア圏では通称「エッグタルト」と呼ばれることが多いスイーツ。ポルトガルでは、北から南までどのカフェにもあるポピュラーな伝統菓子だが、元々は、リスボン西部ベレンにあるジェロニモス修道院発祥ともいわれる。

しっかりと焼かれた香ばしい生地は、サクッ、パリッ。クリームは濃厚ながらも、柑橘系の爽やかさが感じられ、しつこさは残らない。食べ終わると、つい、もう一つと手を伸ばしたくなる。

「パォンデロー」630円

このお店を訪れたら、是非試してほしいのが「パォンデロー」。その昔、南蛮船により日本に伝えられ、カステラの原型となったといわれるお菓子。厳密にいうと、パォンデローには、いくつかバリエーションがある。大元のものは「パォンデロー・ミニョット」と呼ばれるもので、生地を焼くときに中心部に小さな茶碗を逆さにしておき、シフォンケーキのように中空にして焼くので生地全体に火が入っている。

これに対して、「パォンデロー・デ・オーヴァール」や「パォンデロー・デ・アルフェイゼラオン」と呼ばれるものは、中空にせずに焼き、中心部が半熟状態だ。切ると、中心部からは黄金色の生地が流れ出てくる。半熟部分がクリームのようだと人気がある。

こちらのお店のものは、写真のとおり後者のカテゴリーに入る。火の入った周りの生地はしっとり&ねっとりしており、甘さは控えめ。中心部の流動性の高い部分は、卵黄の味わいが強めに感じられるが、くどさはない。

プリン好きの方に是非味わってほしいのが、こちらのお店の「プリン」! 見た目は日本のカスタードプリンと大差がないように見えるが、食感はかなりしっかりめ。ねっとりとして、重みがある。表面はしっかりと焼かれ、ほろ苦いキャラメルと濃厚な卵黄生地が一体となった味わいが楽しめる。

「たまごプリン」1/4サイズ 490円

時期にもよるが、店内のカウンターではイートインも楽しめる(店内飲食の場合は表示価格プラス2%となる)ので、気になったスイーツを試してみるのもいい。

※価格はすべて税込