粒が立つ端正なシャリと、柑橘や胡麻でアクセントを加えた“辰流”握り

黒い調理服も珍しいですね。フレンチやイタリアンのシェフといった佇まい!

だいたい料理を3~4品出した後は、握りが4カンという構成。酢は米酢と赤酢のブレンドで、シャリは岡山県の朝日米。色々吟味した中から「ウチの酢にマッチする」と厳選したそうです。炊いた時に米粒が立つのもポイント。軟らかすぎないよう、ややしっかりめに炊いた硬派なシャリも「辰」の握りの特徴です。

 

猫田さん

あ。硬派って「硬い」ってことではないです。ふんわりしすぎず、ハードでもなく。甘さも抑えた、程よい酸味の酢飯です。

端正に包丁入れをし、柚子と胡麻を仕上げに

今日のコハダは佐賀県より。醤油は土佐の生醤油にみりんや酒、鰹をブレンドしたオリジナルで、尖りすぎないマイルドな塩味。辻さん、握りには必ずアクセントを加えるのが信条でして、コハダにも柚子と胡麻を仕上げにちりばめます。

確かに米粒がそろっています。素人だとバラバラになってしまうんですよね……

醤油を強くしすぎず、柑橘や薬味で風味をプラスしているので、握りが続いても飽きがこない。同じコハダでも他店と違った味わいを楽しめるのが魅力です。

 

猫田さん

前に来た時はイカに5色の胡麻を散らしていました。見た目の華やかさも大切ですよね!

続いて白甘鯛の昆布〆。関西では「ぐじ」と呼ばれる高級魚です。鯛とは違った魚種で、鮮度が落ちやすいため価格が高騰しがち。しかも「白」の甘鯛は特に甘みと旨みが強く、最も高級とされています。

こちらにはスダチで香りをプラス。昆布の塩味と柑橘の酸味は非常に相性が良いそうです。口に含むと、お寿司の表現としておかしいですがフルーティー! 飾り切りで活かった身のプリプリ感も素晴らしい。

触っただけで脂が染み出しそうなほど、見事な大トロ

うわ~お。見事なマグロ様ですね。トロの金塊と表現したくなるくらい。なんと大間の天然本マグロでして、良いトロが手に入ったそう。ラッキー!

数日熟成させ、旨みを閉じこめたトロです。上にのっているのは、ワサビではなく和がらし。珍しいですが「他とはちょっと違ったことが好き」な辻さん。めっちゃくちゃ脂がのったマグロなので、味を締める和がらしを選んだのだとか。

確かに、ツーンではなくピリッとしたからしの刺激で、食べた後の口中がさっぱり! 洋ではなく和がらしなので、酢飯にもよくなじみます。

今しか飲めない日本酒をラインアップ

日本酒は1合930円~。東北から九州まで各地の名酒をそろえています

次は金目鯛の塩焼き。もちろんお酒に合わせないわけはありません。日本酒にもこだわっていて、酒屋で珍しいものや面白いものを見つけて仕入れるそう。

高千代酒造の超限定流通「高龍 無濾過 朱」に、米鶴酒造の「米鶴 秋あがり」、伴野酒造の「澤の花 秋あがり」など、この日もレアなラベルがズラリと。

しっかり身のある伝助穴子は一回蒸してから炙り、皮をパリッと、中はホクホクに焼き上げています。穴子とは思えない濃厚な旨み。柚子の香りも利かせており、秋あがりのまろやかな日本酒によく合います。

 

猫田さん

「秋あがり」はひやおろしとは違い、春先に醸造し、秋まで寝かせてまろやかになったお酒のことだそうです。新酒のような鋭さがなく、貯蔵させることで旨みが増しているので日本酒入門にもオススメ。ただし秋限定ですが……。

和・洋・中の技が集結! 鰻とクリームチーズを、アレで包んで……⁉

穴子の身の厚さに驚きました。「最低でもこれぐらいの大きさで」とサイズ指定して仕入れるそう

ものすごく脂がのった魚を焼いて、何かに包んでいる……と思ったら、鰻でした!身厚の鯖ではなかったんですね。

しかも敷いているのは春巻の皮。さらに下にはクリームチーズと大葉。和食の域を超え、洋と中のコラボです。

味付けは、大葉に塗った煮ツメ。確かに鰻とチーズと甘しょっぱいタレ、めちゃくちゃ好相性

春巻ですが揚げずにグリル。「中盤でお出しする料理なので、重くならないように」との配慮から焼いているそう。なぜ鰻とクリームチーズ?と聞きましたら「鰻とチーズが合う、と聞いてやってみたんです。溶けるチーズだと脂っこいので酸味のあるクリームチーズで。春巻にしたのは……スーパーで春巻の皮を見てこれだ!って思いました」。

 

猫田さん

常日頃、テレビや料理本を見たり、スーパーで食材を探したりしながらレシピを考えているそう。毎日違う料理で、人によっても調理法を変えて出すというから、膨大なレパートリーのストックが必要ですね……!

フレンチのメインディッシュのような魚料理がお出まし

身にすり流しをたっぷり付けて、飲み干すレベルで完食しました

ここフレンチレストランでしたっけと言いそうになる一皿が登場しました。バーナーで皮目を焼いた鯛が浮かべられているのは、カブのすり流し。けっこうなポーションで、食べ応えも十分です。

すり流しには出汁が合わせられ、鯛はオリーブオイルを用いて焼くのでリッチな味わい。淡泊な鯛の身にカブのほろ苦さが相まって、塩焼きとはまた違った鯛のおいしさが際立ちます。

アラカルトも凄いんです。コースの後でもオーダー必須なアレやコレ

実は「辰」さん、アラカルトもあり「もっと食べたいという方はコースに追加OKです」とのこと。ジャンボ椎茸に溶かしバターと醤油を合わせた「さむらい椎茸バターポンズ」や、ワインが欲しくなる「いぶりがっこクリームチーズ」、鰹出汁のジュレでいただく「アスパラおひたし」(夏季)など、気の利きすぎたアテが充実していて、腹パンでも注文してしまいます。

「接待に良い店ない?」「お寿司行きたいんだけど高すぎない店で」など聞かれると、たいていココを推薦しています。しかも誰もが喜んでくれるので紹介したこちらも鼻高々。「良い店知ってるんスよ」と自慢したくなる一軒です。

※価格は税込。

撮影:東谷幸一
文:猫田しげる