食の世界ではたくさんの女性が活躍していますが、圧倒的に男性が多い寿司職人の道にあえて挑戦したのが「鮨ゆう子」の店主、鈴木裕子さん。浅草のビストロを間借りした週2日のみの営業で提供する女性の感性あふれるおまかせコースがただいま人気沸騰中!
〈秘密の自腹寿司〉
高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直され始めたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。
教えてくれる人
高橋 綾子
フードパブリシスト。国内外ファッションブランドのプレスとして従事した中で肥えた“食”へのこだわりは、その後の素晴らしい人々との出会いと相まっていつしか人生そのものに。その間に培った食のデータと人脈を武器に“喜ばれるレストラン”の発掘に勤しむ日々。おいしいものしか喉を通らない不思議体質。
スペシャリテは鰹節の手巻き寿司!
今年の6月13日にオープンしたばかりなのに口コミとSNSだけであっという間に予約が埋まってしまうほどの人気店となった「鮨ゆう子」。週2日のみの間借り営業で席数が限られるというのもありますが、店主、鈴木裕子さんのほっこりするつまみと握りにリピーター続出、皆が予約を取って帰るのでほぼ新規の予約が取れなくなっているのです。
間借りしているのは浅草にある人気のビストロ、「ルディック」。したがって表には「鮨ゆう子」の看板はないばかりか、営業日の火曜と水曜は「close」となっているため予約以外の人が扉を開けることはありません。初めて訪れる際は不安になるでしょうがご心配なく。店の前に停まっている愛車の「HONDAスーパーカブ」が看板代わりです。
中へ入ると鈴木さんがちょっぴりはにかんだ笑顔で迎えてくれ、寿司店とは異なるカジュアルな雰囲気に和みます。設えがビストロ仕様なのでカウンター奥の3席分の付け台や足りない調理道具は持ち込んでいるそうです。いったいどんな風に寿司が提供されるのか、想像すると楽しくなってきます。
実家は北区上中里で60年続く「寿司治」。鈴木さんは祖父と父の握る寿司を食べて育つという環境ではありましたが、兄がいるので自分が寿司職人になるとは夢にも思わず、鰹節や出汁などを扱う食品メーカーに就職。ところが兄が別な道へ進んだため実家を継ぐことを決意し、35歳で「東京すしアカデミー」へ入学。2カ月間、基礎を学んだ後は恵比寿「鮨竹半 若槻」で修業。40歳となる今年から実家を手伝いながら2日間だけこちらで独自の寿司を握っています。
つまみには野菜を取り入れる!
7,500円(税込)のおまかせコースは「季節の温菜」からはじまり「つまみ」が3品、そのあとに「握り」が11〜12貫、最後に「お椀」という流れ。“つまみにはできるだけ野菜を取り入れる”のが鈴木さんの流儀です。この「気仙沼の鰹とクレソン」もそんな流儀を表現した皿のひとつ。旬な魚とクレソンのコンビネーションに玉葱や生姜の風味あふれるオリジナルのタレをかけるこのひと皿は、寿司屋のつまみとしては新感覚でワクワクします。
なんと優しくまろやかな出汁なのでしょう。鱧も野菜もこの出汁を含み、噛むほどに芳しい柚子の香りと昆布や鰹節のうまみが深い満足感を与えてくれる、まさに主役は出汁と言えるひと皿です。