〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

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岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

15種類以上から選べる前菜で自然派ワインがすすむ

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店は1Fフロアの奥にある。ビルの入口にある黒板が目印

「L’Angolo(ランゴロ)」は、隅田川テラスがすぐそばに見える日本橋浜町にある。店舗は1Fにあるもののオフィスビルのロビーの奥にあるため、隠れ家的な立地となっている。「少々わかりづらい場所にわざわざ来ていただくので、メニューは種類豊富に用意しています。素材も良質なものを使っていて、コストパフォーマンスもがんばっています」とオーナーソムリエの菊地修史さん。

隠れ家的な立地に雰囲気のいいカウンター席があるので、デートにもぴったり

メニューは前菜が16種類と豊富に用意されていた。一つひとつのメニューを見ると、イクラや牡蠣などの贅沢素材を一工夫して仕上げた一品やパテ・ド・カンパーニュなど手の込んだ一品がずらり。菊地さんが惚れ込んだ自然派ワインが進むメニューがそろっていて、気軽な“前菜飲み”ができる。

「お腹いっぱい食べたい」という人にはコースがおすすめ。こちらはかなりのサービスで、料理9品に90分の自然派ワイン飲み放題が付いて6,000円という驚きのコスパ。コースは2人から予約できるので、大人数だけでなくデートにも使える。

オーナーソムリエの菊地修史さん

バーテンダーとしてキャリアをスタートした菊地さんは、イタリア料理店に移ったときに自然派ワインに開眼。「いつか自然派ワインの店を出したい」と決意し、ワインのインポーターで経験を積み、2019年にランゴロをオープン。サービス精神あふれる隠れ家は評判となり、近隣の人はもちろん地方から訪れる人も多いという。

イクラと発酵バターのブルスケッタ✕オレンジワイン

イクラと発酵バターのブルスケッタ(1P/980円)

16種類ある前菜の中で一番人気なのが「イクラと発酵バターのブルスケッタ」。同じ日本橋浜町にある人気店「ブーランジェリー・ジャンゴ」のビーツを練り込んだパンの上に、こぼれるほどのイクラとマッシュルーム、発酵バターが贅沢にトッピングされている。プチプチとはじけるイクラに発酵バターのコクが重なってクセになる味わい。人気No.1なのもうなずけるおいしさだ。

楠わいなりーのデラウェア・オレンジ2021(グラス900円、ボトル5,800円)

こちらに合わせたいのは、長野のデラウェアを使った日本のオレンジワイン。「魚卵はワインと合わせるのが難しいとされていますが、実はオレンジワインと相性抜群。ブドウの皮の要素がイクラのくさみを消してくれ、バターと合わせることでデラウェアの柔らかな味も引き立てられます」と菊地さん。イクラとオレンジワインのマリアージュは絶品。ぜひ一度体験してほしい。

カマスのショートパスタ✕爽やか白ワイン

カマスと焼きナス、すだちのオレキエッテ 自家製カラスミのせ(1,600円)

ランゴロには、おつまみとして食べられる具だくさんのパスタメニューが用意されている。おすすめは「カマスと焼きナス、すだちのオレキエッテ 自家製カラスミのせ」。オレキエッテは耳たぶの形をしたショートパスタ。カマスの骨でとっただし汁のソースでいただく。カマスも焼きナスもカラスミもたっぷりのった、まるでメインディッシュのような満足度の高い一品だ。

アバッツィア・ディ・ノヴァチェッラのシルヴァネール2019(グラス1,000円、ボトル6,500円)

こちらのパスタにおすすめなのは、イタリアの最北アルト・アディジェ州の白ワイン。「パスタにカマスやカラスミが入って具だくさんなので、それを引き締めてくれるような爽やかな白ワインを合わせました」と菊地さん。いろいろな食材のおいしさが味わえる料理をシンプルに引き立ててくれていた。

牛リブのロースト✕濃旨ロゼワイン

牛リブロースのロースト 牡蠣出汁と玉子のカルボナーラソース(2,800円)

肉料理のおすすめは「牛リブロースのロースト 牡蠣出汁と玉子のカルボナーラソース」。「しっかりと噛み締めて旨さが出る赤身の部位を使っています」とシェフの菅田翔太さん。牡蠣を焼いてとった出汁とカルボナーラソースで、肉料理に魚介の旨みとクリーミーさを足しながらいただく。さらに万願寺唐辛子のピリッと感もプラスされていた。これから深まる秋に向けて、その濃厚さがますますおいしく感じられそうだ。

チェラウドのグライヤスジ・エチケッタ・ネーラ2020(グラス1,200円、ボトル7,800円)

赤身肉のローストに合わせていただいたのは、意外にも赤ワインではなくイタリアのロゼワイン。「ロゼワインですが、樽で寝かせてしっかりめに仕上げたタイプ。薄旨系の赤ワインのような感覚で、赤身肉の旨みを引き立てるようなペアリングです」と菊地さん。濃厚な肉料理をきれいにまとめてくれる組み合わせだった。

ソムリエ菊地さんの「私が恋した自然派ワイン」

カンティーナ・ジャルディーノのヴォルペローザ2020(ボトル7,800円/写真のボトルは2015年のもの)

菊地さんは、恋した自然派ワインとして、最初の出会いとなったイタリア・カンパーニャ州のロゼワインをあげてくれた。

「知り合いの飲食店オーナーに紹介してもらって飲みました。はじめはセメダインのような香りがして飲むのをやめようと思ったほど。でも『まあ、飲んでみて』と言われて口に入れたら、すごくおいしかったんです。

イチゴやさくらんぼのようなやさしい味に旨みがあって、それはもう感動しましたね。そこから自然派のロゼワインが好きになりました。あまりのおいしさに、いつか自然派ワインを出す店をオープンしようと思わせてくれた一本です」

ワクワクするような自然派ワインをラインアップ

ランゴロには、ヨーロッパを中心に日本や世界の自然派ワインが用意されている。自然派ワインは味わいだけでなく「好奇心をかきたてられるラベルやボトルのデザインも魅力」と菊地さん。自由な見た目が楽しいワインが多くなっている。ボトルワイン(3,600〜7,800円)は100種類以上、グラスワイン(650〜1,300円)10種類以上といずれも豊富にある。セラーの中から、好みのデザインのものをチョイスしてみよう。

どんなシーンでも使える大人の隠れ家

3人以上のゲストにはテーブル席も。奥には個室もある

店内は、カウンター席やテーブル席、個室とさまざまなシーンで利用できる。メニューはどれも遊び心があって、イタリアンにとどまらない料理となっている。気軽に一人二人で“前菜飲み”したいときも、デートで楽しみたいときも、大人数で盛り上がりたいときにも使い勝手がいい。最寄り駅は浜町だが、人形町からも歩いて10分ほど。日本橋周辺でゆったり自然派ワインと食事を楽しみたいときに提案すると、喜んでもらえるに違いない。

※価格はすべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章