おまかせも、お好みもOK。使い勝手の良さでオープン早々地元で話題の店「焼き鳥 津田」

看板らしい看板もなく、通り過ぎてしまいそうなざっかけない外観。串刺しの焼き鳥マークが目印だ

仕事帰りにふらりと立ち寄るサラリーマンのオアシス。そんな立ち位置が一般的だった焼き鳥屋が、近頃はとみに高級化。おまかせのコース仕立てが常套となり、中には、合間合間に一品料理を挟むなど“焼き鳥割烹”を思わせるスタンスの店も増えている。それと同時に、価格も高騰。名店と呼ばれる店ともなれば、コース1万~1万5千円台はザラ、飲んで食べたら2万円を超す店も少なくない。庶民の味方だったはずの焼き鳥も、高嶺の花になりつつある昨今、うれしい一軒がオープンした。

外観同様シンプルな店内。席数は12席。接客担当の大森大輔さんのサービスもフレンドリー

今年2月20日、不動前に人知れず店を構えた焼き鳥「津田」がそれだ。駅から徒歩2分ほどの近場ながら、駅前の繁華街とは一歩外れたロケーションゆえ、人通りは少なく、通りすがりで入る客はそう多くないはずだ。が、訪れた日は19時で既に満席。予約をしていなかった客は店先で断られていたほどだ。オープンしてまだ2カ月弱というのにこの賑わい。人気の秘密の一端を、メニューが教えてくれた。

炭は、火力の強い紀州備長炭を使用

値段がこなれているうえ、自由度が高いのだ。おまかせ7本2,400円、10本は3,500円。ストップ制のおまかせコースもあれば、お好みもOK。好きな串を好きなように食べられる。この選択肢の豊富さは大歓迎!! 思えば、昔は、コース仕立ての焼き鳥屋といえば、確か京橋の「伊勢廣」と麻布十番の「門扇」(現在は閉店)ぐらいのもので、好きな串を好きに食べるスタイルが当たり前だったはずだ。たかが焼き鳥、されど焼き鳥。この店はそのバランスがよく取れている。

津田勇士さん

焼き場に立つご主人の津田勇士(たけひと)さんは、鉄板焼きなど幾つかの飲食に携わった後、焼き鳥職人に転身。津田さんによれば「以前から、飲食で独り立ちしたいと思っていたんです。で、やるならそば屋とかラーメンなどの専門職がいい」と考えていたところに、用賀の焼き鳥店「山本屋」との出合いが引き金となった。元々焼き鳥が好きだった津田さん、ここで食べた焼き鳥に感銘! 即座に弟子入りし、3年の修業の後、学芸大学の名店でも研鑽を積み、独立。2号店のはなれを任されるまでになった実力を、今は、この店で存分に発揮している。

焼き鳥単品は1串220〜440円で、330円が中心。ふっくらと焼き上がったささみも1串330円

独立にあたり、津田さんが選んだ鶏肉は茨城県の銘柄鶏「つくば茜鶏」。フランス原産のレッドブロー種をルーツに持つ銘柄鶏で、全国でも僅か4人の生産者しか育てていない希少な鶏だとか。一般的なブロイラーに対し、茜鶏は飼育日数が70日前後と長く(ブロイラーは約50日)、開放的な鶏舎でストレスを受けることなく平飼いしているため健康そのもの。抗生物質や抗菌剤は与えず、とうもろこしや米などの植物性飼料のみで育てているため、臭みもなく、きめ細かな肉質と味の濃さが特徴だ。

ささみのサビ焼き

津田さんによれば「脂が綺麗な鶏ですね。だからなのか、手羽先やぼんじり、皮など脂の強い部分がおいしいですよ」とのこと。ちなみにおまかせでは、いずれもささみのサビ焼きからスタート。鳥わさ感覚でほんのりレア気味に焼かれたささみは、ふっくらとしてハリがあり、淡いながらも旨味の余韻は長い。その後、10本コースは、定番のハツやつくね、ぼんじり、かしわと続き、セセリやハラミ、食道などの希少部位がその時々で登場し、手羽先でフィニッシュ!という流れが一通り。

かしわ

焼きは「鳥よし」系の修業先同様近火で焼くものの、火力は幾分弱め。強火でこまめに返すというよりも、肉汁を逃さぬ程度にじっくりと中火で焼きあげている。弾力のある歯応えのかしわや軟骨入りのつくねはタレで提供。醤油、みりん、ザラメをあわせて作るタレは、甘さも控えめに鶏肉の旨味を引き立てている。

つくね
「そぼろ丼」

そのタレが大活躍する逸品が、〆の「そぼろ丼」1,200円だ。まず、たっぷりのった鶏そぼろとご飯とのバランスが絶妙。ともすれば、白飯だけが残りがちな丼ものだが、同店のそぼろ丼は最後までそぼろがなくなることなくご飯と共に楽しめる。しかも、そのそぼろ自体、タレの味がよく馴染んでしみじみと旨いのだ。作り置きはせず、注文の都度、そぼろを一から作る手間暇ももちろんおいしさの所以だろう。だが、それだけではない。

お米はあきたこまち。一品メニューの「卵黄のタレ漬け」をトッピングしてもおいしい。「卵かけご飯」550円もある

コツをうかがえば「火にかけながら、手を休めることなくとにかくよく混ぜること」だとか。激しく撹拌することで、タレとひき肉からにじみ出る脂とが乳化すればこそのうまさと言えよう。

日本酒は、グラス600円~、1合800円~

コクのあるスープで大団円。飲んで食べても1万円でお釣りが来る手頃さも、食後感を引き立てるに違いない。ちなみにアルコールは一通りそろっているが、おすすめは日本酒。「長珍」など珍しい酒も用意されている。

※価格はすべて税込

撮影:佐藤潮

取材:森脇慶子

文:森脇慶子、食べログマガジン編集部