料理、空間、おいしいお酒。トータルでもてなす

荒木町の路地裏にこの11月にオープンした、「荒木町 たつや」。神楽坂の名店「石かわ」で腕を磨き、飯田橋「蓮」で料理長を務めた石山竜也さんが店主を務める新店です。

 

カウンター8席の凛とした空間で、ひとり腕を振るう石山さん。料理は7500円〜のおまかせコースを基本に、21時以降はアラカルトも用意。

 

この日のお椀は山形のズワイガニで作ったしんじょう。鰹と昆布、蟹の甲羅でとった出汁に、生姜をぎゅっとひと搾り。甲殻の旨みとほのかな甘みがふわりと広がる逸品です。

 

お造りは淡路島で獲れた天然鯛とイカ、浜名湖産の生海苔に茗荷を添えて。

 

デザートは和栗と柿に、ラム酒のゼリーを添えて。粗く潰した栗を豆乳でのばし、砂糖は使わず塩を少量加えることで、こっくりとした甘さを引き出しています。山中塗の器で提供されます。

 

コースに登場する料理はどれも、やさしく滋味深いものばかり。「素材のおいしさをシンプルに提供したい」と、丁寧な仕事でその力を最大限に引き出していく。食材と真摯に向き合い、全てを無駄なく使い切ることで、調味料に頼らずとも豊かな旨みが生まれるそう。

 

 

和食に合うワインを提案。ワイン農家に自ら出向き、ブドウの栽培まで手伝うことも

日本産を中心にしたワインの品揃えも特筆ものです。「日本のワインの魅力、おいしさが知られていないのが歯がゆくて。ワインは和食とも合う。その幅広い可能性を提案していきたいです」と石山さん。ワインは店内のセラーに160本、さらに日本酒や焼酎もストック。いずれも産地へ出向き、生産者と直接会って話を聞き、ひとつひとつ味を確かめたものを仕入れているそう。なかでも山梨勝沼のワイナリーには月に2〜3度足を運んでは、この6年間に渡って栽培を手伝ってきたといいます。

 

お椀は勝沼産のワイン『甲州 百』と、お造りは輪島の酒蔵がつくる日本酒『奥能登の白菊』と合わせて。現地で見聞きしてきた経験を生かし、ひと品ごとにベストな銘柄を提案。単なるマリアージュに留まらず、日本料理との相乗効果で作り手の想いをつなぎます。

 

料理やお酒はもちろん、調度品や器に至るまで石山さんのセンスが。例えばおちょこ。100年もののベルギーのグラスに、70年前に作られたフランスのアンティークグラス、20年前に購入したという切子まで。「お好きなグラスで味わって」と石山さん。

 

料理、空間、接客、トータルでもてなす。それこそが最大の流儀であり心意気でもあります。オープン以来、すでに口コミで予約が殺到する人気ぶり。日本料理の次世代を担う実力店に、さらなる注目が集まりそうです。

 

取材・文:小野寺悦子
撮影:石渡 朋