【噂の新店】日本料理 佐々

広尾駅から徒歩3分という好立地なれど驚くほど閑静な場所の真新しいビルの1階にまたしても魅力的な店が誕生しました。寿司の名店での修業を経て海外へ渡り、名を馳せ凱旋した佐々料理長が究めた“瞬間を楽しむ料理”が衝撃的!

エントランスからのアプローチで一気に料亭気分!

この光景にうっとり

広尾商店街から一本入ると雰囲気は一変、住宅が並ぶ閑静な地となります。その一角にある真新しい建物の垣根に沿って歩いた先にあるエントランスをくぐると、まるで和庭園の中にいるようなアプローチ。

高揚感あふれる

さらに進むと料亭を彷彿とさせる玄関。扉を開けると……。

カウンターは8席

美しい一枚板カウンターが目に飛び込んできます。

佐々悠樹さん

迎えてくれる料理長の佐々(さっさ)悠樹さんは18歳から料理の道へ進み、寿司と日本料理の名店で腕を磨きます。アメリカ・シアトル、上海で経験を積み、上海・華山路に懐石料理「佐々」×寿司「福壽司」×焼き鳩料理「宮鳩」の3ジャンルをワンフロアに集めた店をプロデュース、人気を博したところで2024年6月に帰国。半年の準備期間を経て「日本料理 佐々(さっさ)」をオープンしました。

感動を超える一皿に出会う!

年々減少している天然昆布

本日は供される32,000円(税・サービス料別)のおまかせコースをご紹介します。「佐々」の“顔”は北海道道南地方の川汲浜(かっくみはま)で獲れる「真昆布」。日本料理は昆布が最も大切だと考える佐々さんは、もし天然昆布が手に入らなくなったら日本料理を辞めると言い切るほど。

「胡麻豆腐 海胆 昆布水」

だからこそ、はじめの一皿の献立名は「昆布」としました。煎りたて、搾りたて、練りたての胡麻と昆布水と葛だけで“作りたて”にこだわった胡麻豆腐の上には北海道昆布森産の昆布を食べて育った鮮度抜群の天然海胆をのせ、最高の昆布を水出しして寒天で固めた昆布水ジュレをトッピングしています。この器の中に入っているすべての食材が昆布でつながり、昆布の味を堪能できるこのシグネチャーディッシュが佐々さんの意図する料理の世界観を表現します。

「河豚厚造 キャビア」

「先付」は焼き河豚とキャビア。酢橘を搾り醤油と合わせた“即興ポン酢”に漬けた焼き河豚と河豚の白子、そして昆布締めにした中国黒竜江省のキャビアを混ぜていただきます。焼き河豚は歯応えがあり、ねっとりとした白子とキャビアのプチッとした食感の妙が見事!

「蝦夷鮑炒土鍋飯」

「御凌ぎ」は北海道利尻の昆布漁師から直送された蝦夷鮑と米を炒めて出汁をたっぷり吸わせた和風リゾット。仕上げに加える鮑の肝がコクを、鮑の煮汁が味に深みを与えます。

「迷い鰹 鯛」

「御造」は船上で締めた氷見の迷い鰹と淡路市岩屋港で獲れた鯛。6kg超えの鰹は鮪の中トロ並みのやわらかさに加えてねっとり感も。皮目だけを湯煎し、身と同等のやわらかさに仕上げた鯛は弾き返されるような食感も持ち合わせ、鮮度の高さが感じ取れます。ツマにした大根はオリーブオイルと酢橘で味をつけてサラダ感覚に。

「白甘鯛」

「煮物椀」の椀種は和歌山寄りの港で獲れた淡路の白甘鯛で、身の繊維が細かくしっとりとしています。白眉は出汁。天然真昆布と枕崎の一本釣りの鰹で作った鰹節から水出しした“昆布鰹節水”を水の代わりに使い、沸騰したところに昆布、さらに鰹節を入れた出汁は、口にすると身体中の細胞が覚醒するかのよう。なんと美味なる出汁なのでしょう。どんな賞賛の言葉さえも値しないほど感動的な味わいです。

淡路の河豚

続いては「揚物」。こんな状態の河豚、見たことがありますか? 漁師が非可食部分だけを除き佐々さんの元に届けた河豚は唇も皮もついた状態。

「河豚唐揚」

そこから食べやすい大きさに切り、揚げる直前に10秒ほど醤油漬けした河豚は、口にした瞬間しっかり味がしみているように感じますが、中は河豚本来のうまみを味わえます。「山椒を少しつけるとさらにおいしいです」と佐々さん。「とおとうみ(皮と身の間にあるゼラチン質を多く含んだ皮膜)」をつけたまま揚げるので、トゥルトゥルだったり、プリンプリンだったりと食感のコンビネーションも楽しい! 「料理は香りと言われていますが、僕は食感をより大切にしています」と言う佐々さんならではの唐揚げです。

メインディッシュは炊き立てご飯! 数十秒ごとの味の変化に目を見張る!

本日の米は「ササニシキ」

ご飯は2種類の米を炊きます。昔は主流だった「ササニシキ」は現在ほぼ手に入らなくなってしまったそうで、こちらも3カ月限定。「とにかく軽いので〆ご飯にいい」と佐々さん。

米は前日に浸水させます

湯気が立っている間は新米の香りとやわらかさを感じ、湯気がおさまると粒が立ちコシが出て、噛み応えと粘りも強くなります。わずか数十秒ごとにこれだけ表情が変わるとは!

留椀 香の物 熊時雨煮

その炊き立てご飯が主役の「御食事」は熊の時雨煮と香の物をお供に、最高の昆布出汁の味噌汁で喉を潤します。

お供は季節によって変わります

この時雨煮も作りたて。ご飯のお供がおいしすぎてついついお代わりをしてしまいますが、佐々さんは「本日は良い猪が入ったのでコシヒカリで猪丼、その後には鯛雑炊」と食いしん坊にはたまらなくうれしいサプライズを用意しています。「良い炊き方をすると最初は米に3本線が入って割れているのですが、冷めると米がぐ〜っと締まって表面がツルッとします。食べてもらった『煮えばな』は6分の蒸らし時間、おにぎりにするならパッと炊いて蒸らし時間を延ばす、仕上がりは沸騰時間と蒸らし時間が大切だと考えます。これは寿司屋で学んだことです。寿司はシャリとタネを究めた料理。寿司と同じように日本料理で米も魚も野菜もすべてを究めたい」と意気込みを語ります。

「サトウキビアイス 洋梨」

「水菓子」はできたてのアイスとフルーツ。「塩、砂糖などの調味料も天然にこだわっています。これは種子島産の賞味糖をキャラメリゼして、アルコールを飛ばしたラムとでアイスクリームにしています」と甘みも苦みもほどよいのは天然食材由来だから。できたてはなめらかで口溶けが良いので「今すぐ食べて!」と佐々さん。

目の前の食材にまっすぐ向きあう

こちらをオープンするにあたり、せっかく上海で成功したのだから上海で提供していた料理を中心にしたら?とアドバイスしてくれた人もいたけれど、海外で経験したからこそ、もう一度、日本の食材で自身の日本料理を表現したいと思い、地元が兵庫県西宮という利を生かし、瀬戸内の魚をメインにしたコース料理に。魚屋の3代目である同級生は獲った魚を1日活け越しし翌朝に締めて空輸。昼には鮮度抜群の魚が店に到着します。

風情のある看板

佐々さんの料理はまさにフランス料理で言う、作り置きせずに出来立ての瞬間の味と香りを引き出す「ア・ラ・ミニッツ」。魚を捌くのも調味料を作るのも下味をつけるのも、メニューすら当日届いた食材を見て決めるのです。だからよく「今すぐ食べてください!」の声が飛びますが、佐々さんの“瞬間を楽しむ料理”は経験したことのない感動的な食体験を与えてくれます。

日本料理 佐々のお料理を動画でも!

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文:高橋綾子 撮影:木村雅章