鴨の出汁でとったスープを「食べる」
メインの前の一皿は、鴨を丸々味わい尽くすための序章となっている。
まずは、鴨のガラからとったコンソメスープ。スープとして飲むだけではもったいないと、クレープを浸し、鴨のうまみをクレープに染み込ませている。
クレープは、ラプサン・スーチョンという薫香のある中国の紅茶と牛乳と小麦粉を混ぜて焼いていて、スープの味を邪魔しないのにスープには負けていない。
クレープと上にのせた鴨のササミ、スープを共に頬張れば、クレープからもじゅわりとスープが染み出し「スープを食べる」ことができてしまう。
鴨のすべてが詰まっている一皿
メインは鴨のロース。そこに、鴨の首の皮でつくったソーセージが添えられる。もちろん、ソーセージの中身も鴨の端肉や内臓などだ。枝で串焼きにしているのは、ハツやもも肉、砂肝などをソテーして、焼き鳥風に仕上げたもの。さらに、鴨の背脂をトレビスというキク科の野菜で巻き、赤ワインビネガーでコンポートしたものが並ぶ。まさに、この一皿をいただくことで、鴨のすべてを味わい尽くすことになるのだ。
そして、何より驚いたのが、鴨の舌触り。滑らかな肉としか表現できないしっとりした舌触りで、鴨らしい弾力がありながらもやわらかく、するりと食べることができてしまった。
滑らかで滋味あふれる味わいをぐっと引き締めてくれるのが、鴨の一番出汁からつくったソースだ。香味野菜とともに火を入れ、野菜に少し焼き目を付けて煮詰めていくことで、キャラメルのような香ばしさとわずかな苦みをまとったソースになる。この苦みが味に変化を生み、一つの皿の中で様々な味を楽しむことができるようになっている。
清藤シェフの料理には、所々に密やかにアクセントのような苦みが添えられることがあり、その絶妙なバランスがシェフらしい味とも言える。
食とレストランの新しい形を目指して
清藤シェフが鴨を丸ごと味わい尽くすように料理する理由は、この銀の鴨のポテンシャルが高いからという以外にもある。
それは、料理人として食に関わっていくにあたり、切り離すことのできないフードロスの問題だ。フードロスをなくすための取り組みはいくつかあるが、まずは食材をロスすることなく使いきるため、鴨は血の一滴、骨の髄までうまみに変えて味わえるよう、工夫を重ねている。
この鴨料理の完成度の高さが、まさにコースの食後感をフレンチに導いている。コースの最初は、季節によっては赤貝や鮎などの和食に活躍する食材を使っているにもかかわらず、コース終盤に登場する鴨料理によって、フレンチとしての満足感を得ることができるのだ。
押上駅から徒歩8分ほどの住宅街にひっそりと立つ
これまで店舗を移動することでできなかった仕込みや調理などが可能になった今、清藤シェフの技術とアイデアがさらに広がっている。「食の実験室」というキャッチコピーが付けられているように、新しい挑戦が続いていく。
※価格は税・サービス料込。