より高いサービスと革新的な料理を目指して

枯朽内観
店名の「枯朽」は、古いもの、古い技術が呼吸を始めて、息を吹き返していく様を表現している。

「枯朽」のオーナーシェフ清藤洸希さんは、大阪のフレンチレストランや渋谷のビストロなどを経て独立後、数年間は出張シェフやレシピ提供などをしながら都内を中心に場所を借りて期間限定、日にち限定の形でレストランをオープンさせる業態でファンをつかんできた。

SNSでレストラン開店の告知をすると、すぐに予約が埋まるほどだったが、より高いクオリティで料理を提供するには間借りの状態では限界がある。そこで押上の住宅街の一角にある倉庫を改装し、2022年8月、ついに枯朽をオープンさせた。

そんな清藤シェフが表現していく料理とは、どのようなものなのか。期待が高まる。

フレンチ出身、アジア料理も得意なシェフが生み出すフュージョン料理

枯朽内観
店内はカウンター席のみ。調理する姿を目の前で楽しめる。

同店のメニューは、9品22,000円のおまかせコース一つのみ。この金額でアルコールまたはノンアルコールのペアリングのドリンクがつくため、決して高すぎることはない。むしろ、料理のレベルや素材を考えれば、コストパフォーマンスは高いと言えるだろう。

コースは仕入れに合わせて、その日ごとに変化していくため毎回同じ流れではないが、基本はコースの最初に軽くいただく先付けからスタートし、アミューズとして3種のフィンガーフードが登場。2種の前菜と魚料理、メインの肉料理、デザートへと続く。前菜のうちの一つがスープに変わることもある。

クラシカルなフレンチの出身のため基本は古典に則っているが、そこにインドやネパール料理、和食が好きだという清藤シェフならではの感性が織り込まれたメニューが展開していく。

和食の食材がフレンチと融合

枯朽 料理
一つ目の前菜は華やかに盛り付けた赤貝をサラダ仕立てにしたもの。

和食やアジアンテイストな感性によるフレンチとはどんなものなのか。

例えば、この日の前菜に使用した魚介は赤貝だった。「赤貝を一番おいしく食べるなら、やはり刺身」というのはシェフ自身の言葉。しかしそれだと刺身のサラダになってしまう。そこで貝殻の器にポルト酒のパンナコッタとトマトジュレを敷き、生と軽く炙った2種の赤貝を添えた。そして、肝はコンフィに。和食のイメージが強い赤貝が見事、フレンチとして成り立っていた。

枯朽 料理
赤貝の下にあるポルト酒のパンナコッタとトマトのジュレが絶妙な味を出している。

この赤貝に合わせるペアリングのドリンクがおもしろい。赤貝特有の風味からインスピレーションを得たドリンクは、シャルトリューズというハーブのお酒をベースにして、ナツメなどの生薬を入れてジンジャーエールで割ったもの。さっぱりした飲み口ながら、ハーブの香りが鼻腔を楽しませてくれる。

赤貝にはハーブが添えられているので、ドリンクとのバランスも良い。そしてその薬のようなイメージをより楽しむため、ドリンクは薬瓶に似せたフタ付きの瓶に入れられ、客が自分で振って混ぜて飲むようになっていた。シェフならではの遊び心だ。

見事な銀の鴨を丸1羽楽しむ

枯朽 料理
青森県産の銀の鴨は、店内でシェフ自らがさばき、下ごしらえをしていく。

次なる料理の紹介の前に、同店のコースのメインを紹介しておきたい。次の料理にも、メインの食材が使われるからだ。

メインとなるのは青森産のブランド鴨「銀の鴨」。フランス原産バルバリー種の鴨で、生産者が30年近くをかけてブランド化させたものだ。野性味ある風味が活かされた鴨は、ジビエのような味わいが感じられる。身がしっかりと締まっていて脂も甘い。

2種の前菜が食べ終わるころに焼き上がる鴨は、目の前でカットされる。

枯朽では丸のまま調理するため、コースの最初に鴨をカウンターで客に見せ、そこからさらに油をかけてじっくりと火入れをしていく。高温の油を何度も回しかけて表面から熱を加えるため、鴨の皮だけがパリッと焼き上がり、身にはじっくりと火が入る。こうすることで、オーブンで出し入れをくり返す調理法と同じような効果があるうえ、皮はまるで中華料理の北京ダックのように香ばしく仕上がるのだそうだ。

皮をおいしく食べてもらいたい。そう考えた時に最初に浮かんだのが北京ダックだったが、身も最高の状態で食べてもらうには、どうするか。その結果が、この手間暇かけた調理法だったと言う。