メニューはランチとディナー、ともにコースのみ

「L’ami du vin Eno N」として西麻布にオープン。

フレンチ、イタリアンの有名店、人気店が混在する西麻布に、2022年9月5日にオープンした「L’ami du vin Eno N」(ラミ デュ ヴァン エノ エヌ)。その店でシェフを務める榎本実さんは、食通たちの間では言わずと知れた名シェフでフランス料理に精通し、特にジビエ料理を得意としている。以前は神宮前にあった「L’ami du vin Eno」でオーナーシェフとして活躍していた。

新店舗名の最後に“N”がついた理由を聞くと、フランス語のnouvelle vague(ヌーベルバーグ)などの意味が込められているらしい。

ヌーベルバーグとは「新しい波」という意味がある。そしてこの店は人との縁がつながって誕生した経緯がある。だから榎本さんは、西麻布でも新しい挑戦をしたいと思っている。

壁に飾られている絵は、かつて経営していた神宮前店からのもの。これを見て「懐かしい」と喜ぶゲストも多い。

料理の構成も神宮前とは少し違う。以前はプリフィクスでゲストが料理を選ぶスタイルだったが、この店ではランチ、ディナーともにコースで提供。また1つのポーションを小ぶりにして、その分、品数を増やしている。

昼のランチコースは8品で8,000円。そして夜のディナーコースは12品で16,500円。10月からしばらくの間は、昼6,500円(5品)、夜11,000円(8品)、13,200円(9品)のリーズナブルなコースも用意している。完全予約制で、基本は前日までの予約が必要だが、当日でも席が用意できれば受付可能とのこと。今回は、この店のランチコース「オートンヌDE」を食してみた。

そして榎本シェフと言えばジビエ料理だが、取材時はまだ少し時期が早く、メニューには入っていなかった。10月からは「ジビエの晩餐会」16,500円が登場する。ファンならずとも楽しみだ。

榎本シェフがテーブルで注いでくれる最初の出汁

「駆けつけ一杯」は、フランスと日本のうまみが凝縮された出汁。

席に着くと、食前酒よりも前に運ばれるのが日本酒の片口に入った「50℃ 仏 和のコラボ」という名前のスープ。この中には牛すねの出汁フォン・ブランと、鶏の出汁フォン・ド・ヴォライユ、さらに昆布出汁、鰹出汁、鯖節で取った出汁が溶け合っている。具材もトッピングもないシンプルで温かいスープを体に流し込むと、眠っていた胃が心地よく目覚め、これから始まる食の宴の合図となる。

次々に運ばれる個性豊かなアミューズたち

左からオリーブリュック、パテ ドゥ カンパーニュ、リエット。

最初に提供される「アミューズ ブッシュ」は、白い円盤形のユニークなお皿の上にオリーブリュック、パテ ドゥ カンパーニュ、リエットの3種類が盛られている。

南フランスからオリーブを仕入れ、下処理から仕上げまでシェフが手作業で丹念に作るオリーブは白ワインと合わせたい。パテ ドゥ カンパーニュは、豚肉のパテの中にピスタチオが入っていて、コリッとした食感も楽しめる。フランスの伝統保存食として有名なリエットは、小さなパンを覆うように盛られていて、ワインとの相性も抜群だ。

それぞれが一口サイズで、あまりのおいしさに「もう少し、食べたい」となるところだが、これは次の料理への序章だ。次なる皿を待とう。

カラフルで見た目も美しい鮮魚のアミューズ。

ガラスの皿に盛られた、メイチダイとフルーツトマト。その上にセルバチコ、菊の花をあしらい、柑橘系フルーツのカラマンシーとビネガーを合わせたドレッシングでいただくアミューズ。見た目も爽やかで、口に運ぶと溢れる清涼感の中にフルーツトマトの甘さが引き立つ。

この日は台風の影響で能登島からの魚の入荷がなかったため、豊洲で仕入れたメイチダイを使用したが、入荷がある日は能登島の魚を使う。能登島在住のシェフの知り合いが、鮮度のいい魚を直送してくれるのだそうだ。

右上に添えられた白いかとディルは、提供されるときはスープに浮いている。(写真は撮影用に別添え)

最後のアミューズは「ポロ葱 ジャガイモ 白いか」の冷製スープ。ポロ葱とジャガイモをペーストにした冷たいスープの上に、軽く炙った白いかをトッピングし、エキストラバージンオリーブオイルを仕上げにタラリと流して提供される。柔らかくて甘い白いかは、スプーンですくって召し上がれ。

3品続くアミューズは一つのポーションが小さく、味、食感ともに変化があり「クラシックなフランス料理をゲストに食べてもらいたい」というシェフの思いが込められている。

前菜はスッポンを使ったガランティーヌ

様々な具材を秋茄子で巻いてまとめた「ガランティーヌ」。

見た目にもインパクトがある前菜の「ガランティーヌ」。詰め物にはスッポン、鴨のレバー、食感にアクセントをつけるため、豚ののどなどが入っている。それら様々な具材を、寿司に使う「巻きす」を使い秋茄子で巻いて完成させた一皿だ。緑のパセリオイルと合わせて食すことで、さらに豊かな味わいとなる。

ちなみにスッポンはシェフが自らさばいたものを使用。シェフは以前、赤坂にあった「成川亭」で修行していたことがあり、当時、スッポン、穴子などをさばいていたそうだ。そのためここの店でも、スッポンや穴子を使う料理がコースでよく提供される。

オマールエビと野菜のソースが決め手の魚料理

オマールエビと野菜のソースは、あっさりしている。

本日の魚料理は、キンメダイのポワレ。パリパリの皮と、ふっくらした白身が絶妙の焼き具合になっている。それに合わせるのは、オマールエビと野菜から出汁をとり、ハンドミキサーでホイップしたソース。エビと野菜の出汁が溶け合うことで、まろやかなソースに仕上がっている。

シェフ曰く「僕は出汁を10種類以上とっています」。その言葉の通り、この店の料理は、出汁が決め手と言ってもいいだろう。すべて、シェフが手間ひまかけて一つ一つ丁寧にうまみを抽出している。もちろんこの料理も例外ではない。エビと野菜の出汁を合わせたソースはまろやかになり、淡白な白身と合わせることでお互いの良さを引き出している。

席は全部で18席。奥のスペースは厨房を見ながら食事ができる。