以前からそこにあって、店構えが周囲の風景に溶け込んでいる…… そのような飲食店が、皆さんのまちにも存在するのではないでしょうか。広島市中区堀川町、胡子神社の通り向かいに立つ「シャモニー モンブラン」は、まさにそんな一軒です。ピカピカのネオンに囲まれた昭和風の看板、昔懐かしい食品サンプルの陳列など、レトロな佇まいが老若男女問わず支持されています。

〈広島人のソウルフード・ローカル飯〉

昭和30年、初代・大﨑光男(おおさき みつお)さんと麻枝(あさえ)さん夫妻が、喫茶店ブームに乗って開業。コーヒーやトーストといったシンプルなメニューからスタートし、東京に修業に出ていた2代目の浩志(ひろし)さんの時に、ランチやデザートなどより多彩なラインアップに。現在は浩志さんの娘である二彌惠(ふみえ)さんと夫のホール・アンドリューさんが昔ながらの味を大切にしつつ、店を切り盛り。広島の繁華街にあるローカルな食事スポットとして、広く認知されています。

教えてくれたのは

浅井ゆかり
大分県出身、広島市在住。3児の子育ての傍ら育児雑誌で始めたレポーターがきっかけでライターに転身し約10年。タウン情報誌をメインに、県や市町の広報誌、フリーペーパー、Webサイト、書籍などさまざまな媒体で活動する。関わった人が明るい気持ちになれる取材&記事制作がモットー。得意分野はグルメ、観光、地域関連。

えびす通りを代表する飲食店と言えば「シャモニーモンブラン」

中央通りにクロスして東西にのびている、えびす通り商店街

広島市中区、胡子町と堀川町にまたがってのびる「えびす通り商店街」。約420年の歴史を誇るこの通りは、商人の神様として祀られている胡子神社の鎮座を機に開かれた市(いち)が発祥と言われています。例年11月に開催される「胡子大祭(えびす講)」は、冬の訪れを告げる風物詩。広島熊手の店が並び、中央通りは歩行者天国となって夜神楽上演や和太鼓共演が催されます。

ずらりと並ぶ手書きの黒板メニューも味わい深い

そんな県民にとって親しみのある胡子神社すぐの場所に立つのが、レストラン&喫茶の「シャモニーモンブラン」です。昭和30年に創業し、3代にわたってこの地で営んできました。リーズナブルなモーニング、バリエーション豊富なランチ、ボリュームたっぷりのデザートと、充実のメニューを展開。近年では「ノスタルジックな雰囲気がエモい」と、若い世代にも人気。「広島パルコ」が開館25周年を記念して制作した、トレンドファッションを提案するルックブックの撮影地にもセレクトされています。

経済成長のさなかに広島市中心部へ。喫茶店ブームを受けて開業

話を聞かせてくれた、3代目の大﨑二彌惠さん

現在夫と共に店を担う3代目の大﨑二彌惠さんは「戦後、経済成長していく時代において、私の祖父母が一旗揚げようと、能美島(のうみしま)からこちらに出てきたと聞いています。当初は衣料品店を営んでいたそうです」と話してくれました。

店内に飾られている創業当時の写真

その後、喫茶店ブームが訪れ、時流に乗るかたちで喫茶店へとチェンジ。初代が山好きだったこともあり「モンブラン」と名付けたのだそう。「“シャモニー”は後付けなんですよ。モンブランの近くにはシャモニー村という村があり、そこを通らないと山へ行けないんですって。人も店も長く続くようにとの願いを込めて、店名をロングバージョンにしたようです」

喫茶店からレストランへ。メニューを増やし客のニーズに寄り添う

ステンドグラスやシャンデリアは開業時からのもの。中2階と2階が飲食スペース

はじめはコーヒーやトースト類を提供するシンプルな喫茶店でしたが、2代目の浩志さんが修行に出ていた東京から戻り、メニューの幅をぐんと広げることに。「東京のフルーツパーラーなどを見て、デザートを増やしたいと思ったみたいですね。あとは、歌舞伎座で出される幕の内弁当。こちらをヒントに、短い時間でさっと食べられて彩りもきれいな、仕切りのある箱におかずを詰めたタイムランチ(780円)が登場しました」

表に並ぶ食品サンプルはメニュー選びの参考に

今も提供しているタイムランチは、当時の背景にピタリとマッチ。店からすぐのところにある「広島三越」が建設中だったこともあり、忙しい作業員たちが「早く食べられて、うまい」と多く訪れるようになったとか。多数存在する喫茶店とは、この頃から一線を画すようになったそうです。

客がゆっくりと過ごせるよう、新聞8紙と雑誌や漫画をそろえる

工事現場の作業員たちだけでなく、オフィスに勤務する人たち、歓楽街で働くホストやホステスたち……。店はいつでも、誰にでも、癒やしと寛ぎを提供する場として在り続けてきました。近隣に住む常連さんが日々のルーティンとして訪れ、決まった時間に決まったメニューを頼むのも、普段の光景。「皆が知り合いというわけじゃないけれど、何となく見知った顔が集まって、あぁあの人元気にしとんじゃねって互いに思ってくれたらいいですよね」と、大﨑さん。