お任せコースのなかでも特に田中さんがオススメする3品をご紹介!

魚の魅力を丸ごと凝縮してカラッと揚げた「春巻き」

秋刀魚の春巻き

夏は鮎、秋は秋刀魚を使った春巻きが店の名物のひとつ。3〜4時間じっくりコンフィして骨やワタまで柔らかくした素材を使用し、味付けは塩のみ。最小限にカットした皮で空気を含ませつつ軽く一巻きし、低温の油で揚げて具材の芯まで温めてから、一気に高温で仕上げる。お好みで高知産のスダチを搾れば、より日本人の心に染みる味わいに。香りや旨みだけでなく、ほろ苦さまで包み込まれている。パリッとした皮と、柔らかい身の対比も印象的。素材の魅力が凝縮されていて、焼き魚で食べるよりも秋刀魚らしさを感じた。

季節の味をじっくりと蒸し上げて白湯に浸透させた「スープ料理」

栗、白菜、干し貝柱のスープ煮込み
 

田中知之さん

9月末に私が食べたコースの白眉。細部まで一切の抜かりがない完成度の高い料理です。

店のスープ料理は金華ハムの出汁の旨みを活かしたものが定番だが、旬の素材を活かした今回の煮込み料理は、鶏ガラを強火で長時間煮込んだ白湯がベース。そこに白菜と干し貝柱を加えてセイロで蒸し上げ、奥行きのある味わいに仕上げている。

鮮やかな黄色いスープは斬新にも感じるが、正確には「扒栗子白菜」という山東省に古くから伝わる郷土料理だ。茨城産の和栗を使用することで、本場ともまた違う上品な味わいとなっている。ホクホクとした和栗のおいしさもさることながら、それ以上に甘さのある白菜が印象的。干し貝柱と白湯の旨みもバランス良く、すべての要素が渾然一体となっている。

優しい味付けの「海鮮料理」は古酒とのペアリングが最適

冬の定番という寒鰆の揚げ物。お酒は達磨正宗 五年古酒

魚偏に春と書く鰆(さわら)だが、もっとも脂がのる季節は春ではなく産卵期前の12〜2月。その卵を衣代わりに身にまとわせて、低温で揚げた贅沢な料理がこちら。スープは鶏挽き肉の旨みを低温で丁寧に抽出した清湯。そこに海老の卵を加えて餡かけにしている。

塩のみの味付けながら、旨みは複雑かつ濃密。調味料や油を多用する一般的な中華料理とは異なり、紹興酒よりも自然派ワインや日本酒の古酒との相性が高いという。

 

田中知之

前菜盛り合わせから、一品一品の完成度と味わいに打ちのめされること必至。ワインや日本酒とペアリングを頼むのも良いかと。

季節限定の上海蟹コースやランチメニューもハイクオリティ

長谷川自然牧場の自然熟成豚と上海蟹の肉団子

上海蟹の肉団子は、上海蟹コース11,000円のメイン料理。こちらは鶏ガラと豚背骨のオーソドックスな中華出汁に、豚と蟹のエキスを浸透させているそう。ポイントは田中シェフが「過去最高の豚肉」と絶賛する自然熟成豚。バラ肉を包丁で細かく切り分け、丹念にほぐした上海蟹の身と合わせて、プリッと弾力のある食感を演出している。

なお、コース一人分で使用する上海蟹は約2杯半と非常に豪勢。上海蟹のスープ、上海蟹の春巻き、上海蟹の姿蒸し、上海蟹豆腐などで、その魅力を余すところなく堪能できるはずだ。

黒毛和牛挽肉と自家製麻辣油の麻婆豆腐1,300円。ご飯、スープ、小菜が付く
 

田中知之さん

まだ昼は行ったことがないが、火、水、木曜日のみランチをやっていて、ほぼ町中華プライスで絶品ランチがあるらしい。

ランチは自家製麻辣油を使用した担々麺や麻婆豆腐が定番。コース料理とは異なり、豆板醤や豆豉といった調味料をしっかりと利かせた本場仕込みの味わいだ。豊かな風味はそのままに、できるだけ辛さを抑えたマイルドな仕上がり。もちろん、お好みで辛めのオーダーもできる。ディナーコースの〆として追加で楽しむ常連も多いそう。

中国4大料理の技術やレシピを熟知する田中シェフ。あえて装飾的な趣向を凝らすようなことはせず、引き算で素材の持ち味を活かす素晴らしいセンスの持ち主だ。誰もがおいしいと感じるミニマルかつスタイリッシュな料理の数々。FPMとして田中さんが手掛ける楽曲の印象にも近い。「一流は一流を知る」という言葉の通り、完成度の高さを追求した先にあるものは、料理も音楽も通じているのかもしれない。

※価格はすべて税込。

※本記事は取材日(2021年10月31日)時点の情報をもとに作成しています。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

撮影:佐藤潮

文:佐藤潮、食べログマガジン編集部