〈食べログ3.5以下のうまい店〉
グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はフードジャーナリストの外川ゆいさんが日本で一番好きというタイ料理店を紹介する。
教えてくれた人
外川ゆい
フードジャーナリスト。つくり手のストーリーや思いを伝えることを信条に、レストラン、ホテル、スイーツ、お酒など、食にまつわる記事を執筆する。雑誌やwebでの取材のほか、予約サイト、HP、リーフレットなど。出産を経て食育への関心も高まり、食いしん坊な3歳児との日々の食卓を楽しんでいる。
旅行気分が味わえる空間とフレンドリーな接客が魅力
「おいしい店は食べログ3.5以上」のような通説があるが、食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下。口コミが少なかったりオープンから時間が経っていなかったりすると「本当はおいしいのに3.5に満たない」ことは十分あり得る。点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。今回ご紹介する「ソムタムダー 虎ノ門店」は3.40(2024年11月現在)。はたしてその実力は?
タイの北東部に位置するイサーン地方の郷土料理を提供する「ソムタムダー」は、2012年4月にタイ・バンコクに1号店を開業。その後、この味をさらに世界へ伝えたいという思いのもと、2店舗目の「ソムタムダー ニューヨーク」を 2014年8月にオープン。妥協のない本物のイサーンの味はニューヨーカーを魅了し、わずか1年後には一つ星を獲得する快挙を達成した。そして、2017年に代々木に「ソムタムダー 代々木店」として東京へ初上陸。2020年には国内2店舗目となる「ソムタムダー 虎ノ門店」をオープンした。現在、世界4カ国6店舗を展開する。
「ソムタムダー 虎ノ門店」が位置するのは、虎ノ門ヒルズ内にある名店ひしめく「虎ノ門横丁」。店内の壁はイサーン伝統の布を使用したり、ランプシェードには漁に使う「魚籠(びく)」を使用したりと、イサーン地方の文化や暮らしを感じられるような空間になっている。訪れるだけでパワーチャージできそうな鮮やかな色調が印象的だ。ゆったりと寛げるテーブル席のほか、シェフが調理する臨場感が伝わってくる厨房に面したカウンター席、さらに横丁の通り側にある立ち飲みスペースを備えるので、多彩なシーンで重宝するだろう。
外川
コンパクトな空間ながら、シチュエーションに応じて選べる3種類の客席があるので「ちょっと一杯」が気軽にしやすいところもお気に入り。混雑する前のオープン直後の17時台がねらい目です!
腕を振るうのは、この道40年というベテランの料理人、ティンさん。イサーン生まれで、12歳から料理の道へと進み、2008年に来日し、故郷の味を作り続けている。厨房ではタイ語のやり取りが飛び交っているので、より一層エキゾチックな雰囲気に。イサーン地方は、タイ料理のなかでも特に発酵調味料を多用するため、発酵の食文化が浸透している日本人の口にも自然と馴染みやすいという。
できたての「ソムタム」は甘・辛・酸・塩のバランスが絶妙
店名にもなっているタイ料理の定番である青パパイヤサラダ「ソムタム」は、なんと5種類をラインアップ。日本のタイ料理レストランでは1~2種類が多いので、5種類もメニューに並んでいて驚かされるが、代々木にある「ソムタムダー 代々木店」ではなんと、さらに多い8種類を用意。メニューの品数からも妥協しない本物への忠実さがうかがえる。
ちなみに、店名の「ダー」は、イサーン地方で広く使われている方言で「おいしいね」「楽しいね」など共感を誘う語尾の“~ね”の意味。イサーン地方の人々が持つあたたかいおもてなしの気持ちと、親しみの気持ちを込めて名付けられた。
塩漬け卵入りのソムタム「タムタイカイケム」は、オーダーごとに専用の調理器具である木製のクロックを使って、ポクポクというリズミカルな音を立てながら作られている。青パパイヤの食感をほどよく残すよう叩きすぎないのがポイントだ。ココナッツシュガーの「甘」、タイ産唐辛子の「辛」、ライムなどの「酸」、そして「塩」をバランスよく感じることができる。本場の味わいにタイ人のリピーターも多い人気メニューだ。使用する愛らしい器は、タイの家庭らしいデザインのものを現地から取り寄せている。
外川
出来立ての「タムタイカイケム」の香りや食感は感動的! 塩漬け卵を崩しながら味わうことで、塩味とまろやかさが徐々に増していくので、味わいの変化も楽しめる逸品です。