〈食べログ3.5以下のうまい店〉
グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、年間500種類ものドーナツを食べ歩く、ドーナツ探求家・溝呂木一美さんに、西東京市にあるハワイ!? なドーナツ店を教えてもらった。
教えてくれた人
溝呂木一美(みぞろぎひとみ)
ドーナツ探求家・イラストレーター・デザイナー・手芸愛好家。国内外で年間500種類以上のドーナツを食べ、自身のブログや各種SNS、テレビやラジオ、雑誌、Webメディア等でも情報を発信。著書に『私のてきとうなお菓子作り』(ワニブックス)、『ドーナツのしあわせ』(イースト・プレス)、『ドーナツの旅』(グラフィック社)。いろいろ制作ユニット「スタジオ・ソラリス」所属。
保谷にハワイの風を連れてきたドーナツ店
巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。
「保谷」と聞いて、何を思い浮かべるか。馴染みのない人は「ほや」と読むかもしれないが「ほうや」と読む。保谷駅のあたりはかつて保谷市だったのだが、2001年に隣接する田無市と合併し、西東京市になった。西東京市の公式サイトに「観光」の文字が見当たらないことからもわかるように、観光地ではなく住宅が多いベッドタウンとなっている。
そんな保谷駅の南口に、食べログ3.13(2024年11月現在)のドーナツ専門店「LOCO」がある。子育てに一段落した夫婦が、2023年3月にオープンさせたお店で「お客様に喜ばれることをしよう」と、温かい気持ちでドーナツを作っている。
「LOCO」のドーナツは「ハワイ生まれ」。ハワイのドーナツというと「マラサダ」を思い出す人もいるだろうが、同店のドーナツはマラサダではない。オーナー夫妻の物語があるドーナツだ。オーナー夫妻はハワイに滞在していた時、出産、子育てをして、ハワイのローカルスイーツ店を食べ歩いていたと言う。そこで出会ったのが、現地のパティシエが作るとびきりおいしいケーキ生地のドーナツだった。
「そのドーナツを食べた時の息子のうれしそうな顔が忘れられないんです」と、これまたうれしそうに、懐かしそうに語るオーナー。そのドーナツの味に魅了されたことと、まだ小さかった息子さんとの思い出が「LOCO」を作る原動力となったのだ。
現地のパティシエにレシピを学んだものの、気候も材料も異なる日本でその味を再現するのは容易なことではなかったとか。幾度となく試作をくり返し、揚げては食べ、揚げては食べの日々を経て、ようやくオープンに漕ぎ着けた。
溝呂木さん
店内に流れるゆったりした雰囲気は、せかせかしないのんびりした保谷の空気? いやいや、ここに漂うのは「ハワイのゆるやかな風」です。近所に住んでいたら「ちょっとドーナツ食べに行こう」と、ふらっと立ち寄る“お気に入りの場所”になることでしょう。
一番人気はヘルシードーナツ!?
同店のショーケースには、いろいろな味の手作りドーナツが並ぶ。シンプルな味付けのものからチョコレートで楽しく飾ったものまで30種類近くあり、迷うお客さんも多いとか。どれを買うか迷ったら、まずはお店で一番人気の「バターミルクシュガー」テイクアウト216円/イートイン220円を食べてみよう。
あまり聞き慣れない「バターミルク」という素材は、牛乳からバターを作る時に残る液体のこと。バターの製造工程で、牛乳に含まれる脂肪分がバターになるため副産物として「バターミルク」が残る。バターミルクは脂肪分が少ないのに、タンパク質やカルシウム、ビタミンなどを豊富に含んでいるのだとか。
そんなバターミルクをパウダー状にし、たっぷりとまとわせた「バターミルクシュガー」は、バターのようなミルキーな風味とコクを感じ、ほどよい甘さ。カラッと揚がっていて、中はほわっほわでやわらかなドーナツにピッタリのフレーバーだ。
同店のドーナツには、生地にもバターミルクを混ぜ込んでいる。香りよくコクがあり、やわらかでしっとりした食感。きめ細かで、ソフトな口当たりが魅力だ。
溝呂木さん
バターミルクパウダーをお菓子作りに用いると、生地に豊かな味わいが加わり、軽い仕上がりになります。パンケーキのレシピでバターミルクパウダーを使っているのをよく見かけますが、オーナーいわく、ハワイではポピュラーな食材だそうですよ。