入門に最適な日本料理の名店をピックアップ

グルメジャンルの中でも格式がある日本料理は、それだけハードルも高いと言えるでしょう。とはいえ、緊張せずにリラックスして楽しめるお店や、比較的リーズナブルなお店も存在します。そんな穴場とも言える名店7軒を、伝説の番組「料理の鉄人」のブレーンを務めた川井潤さんに教えてもらいました。

教えてくれる人

川井 潤
料理の鉄人ブレーン(1993年~99年)。(株)博報堂DYメディアパートナーズを退職後、現在は食品メーカー、新聞社、IT関連企業、テレビ制作会社等のアドバイザーを務める。ここ数年は、地域や食のため、料理人の地位向上のために、日本のみならず海外でも活動中。食べログフォロワー数No.1レビュアー(2020年12月現在)。

味も雰囲気も超一流ながら緊張せずに楽しめる4軒

本稿でご紹介する店のテーマは二つ。「味も雰囲気も超一流ながら緊張せずに楽しめる4軒」と「ランチでお得に会席を楽しめる日本料理店」です。

まずは、予約が難しい名店ながらも緊張することなく楽しめるお店を「食べログ 日本料理 百名店 2021」選出店から3軒と、選出外ではあるものの、ぜひおすすめしたい1軒を紹介します。

ホスピタリティに心打たれる「銀座 しのはら」(銀座)

川井さんが最初に挙げてくれたのは、料理のおいしさはもちろんのこと、店主のサービス精神にも心打たれるという「銀座 しのはら」。「食べログ 日本料理 TOKYO 百名店 2021」にも選出されています。

「もともとは、滋賀で名を馳せていた名店。日本中の食通が足しげく訪問していたのですが、2016年に東京の日本料理大激戦区である銀座に移転しました。当時すぐに訪れ『これからが楽しみだなぁ』なんて思っていたら、あっという間に銀座屈指の人気に。それだけ、また訪れたくなる理由があるんです」(川井さん/以下同)

日本料理のハードルを高くしている要素の一つが、料理の奥にある伝統文化や食材との関連性。食通でなければ難しいような知識を、やさしく面白く話してくれるホスピタリティも同店の魅力とか。

川井 潤
八寸はバラエティに富んでいて、川井さんはこれが出てくるのが楽しみなのだそう   出典:川井 潤さん

「名物と言えるのが八寸(コース中盤で提供される、八寸=約24cm四方の器に山海の恵みを盛りつける一皿)です。食材の使い方はもちろん、盛り付けにも季節感あふれるストーリーがあって、いわばバリエーション豊かな食の小宇宙。予約は基本的に毎月25日から受け付けていますが、すぐ埋まってしまうのでお早めに」

大将の人柄も魅力「日本料理 晴山」(三田)

次は東京・三田の桜田通り脇にある「日本料理 晴山(せいざん)」。岐阜・柳ヶ瀬の至宝「日本料理 たか田八祥(はっしょう)」で修業を積んだ店主・山本晴彦氏が腕を振るう人気店で、やはり「食べログ 日本料理 TOKYO 百名店 2021」に選ばれています。

「こちらも東京屈指の人気と実力を誇る日本料理店ですが、背筋が伸びるような緊張感はなく、肩ひじ張らずに楽しめます。ご主人の物腰がやわらかく、やさしい笑顔で対応してくれるからでしょうね。僕自身ずっと行きたくて、あいさつがてらにやっと来られたことを告げると『ようやくお会いできましたね』と言っていただき、すごくリラックスできました」

川井 潤
ハマグリだしの稲庭うどんにキャビアをのせたもの   出典:川井 潤さん

基本的には正統派の日本料理ながら、遊び心も見え隠れ。食事を飽きさせず、楽しんでもらいたいという思いが伝わるところも好印象とか。

「たとえば、くちこ(なまこの卵巣)を使って春巻きにしてみたり、ハマグリだしの稲庭うどんにキャビアを乗せたり。かと思えば、清流でしか獲れないきわめて希少な郡上八幡産のアマゴを出してくれたり。素材の活かし方を知り尽くしていて、その上で研究熱心なんでしょうね。味にももてなしの心にも、満足と感動しかありません。人気なので次は早くて来年の春ですが、また行きたいです」

コストパフォーマンスも最高「御料理 光安」(二条)

次は関西から。「食べログ 日本料理 WEST 百名店 2021」に選ばれている、京都・二条の「御料理 光安」です。味わいはもちろんのこと、柔和なホスピタリティが魅力の一つになっているとか。

「こちらは1日最大2組6名まで。1組で6名入った日はその1組のみですし、そもそも1回転(2巡目がない。たとえば17~19時で1組目、20~21時で2組目とはならないということ)のお店です。というのも、大将と奥様の2人で営んでいるお店だから。丹精込めてもてなすには、1日6人が限界ということなんですね。ある意味贅沢ですし、行けばその真意がはっきりと伝わります」

川井 潤
からすみと根付きのセリの入った炊き込みご飯   出典:川井 潤さん

1日6名のみで、料理も感動的。この満足度であれば1人5万円してもおかしくないところ、2万円程度で味わえる点も入門には最適と川井さん。

料理は侘び寂びを感じる滋味深さがあって、質実剛健。ゴージャス食材のオンパレードではないのですが、この店の場合はむしろそれが素晴らしい。大将と奥様のやわらかな物腰と穏やかでやさしい性格があらわれているような、丁寧さを感じるおいしさです。店内の設えにも味わいがありますし、あたたかい気持ちになれる名店です」

遊び心あふれる超実力派「傳」(外苑前)

本テーマのラストは、東京・外苑前の「傳(でん)」。「食べログ 日本料理 百名店 2021」にこそ入っていないものの「The Tabelog Award 2021」の受賞店であり、2021年の「アジアのベストレストラン50」では日本最高位の3位に。日本を代表する超実力派です。

「海外でも有名なので、インバウンド層にも大人気。そのためコロナ禍の今は日本人が多く、予約も比較的取りやすいとは思います。こちらの特徴の一つがエンターテインメント性。店主の長谷川在佑(はせが わざいゆう)氏はとにかく楽しませてくれる料理人で、遊び心にあふれています」

川井 潤
「傳」の定番「傳タッキーフライドチキン」   出典:川井 潤さん

時にトリッキーなプレゼンテーションを交えつつ、提供されるのは紛れもない日本料理。伝統を大切にしながらも、枠にとらわれないサプライズ感満載の美食が繰り出されます。

「有名な料理といえば『傳タッキーフライドチキン』。有名チェーンを彷彿とさせるパッケージに入っているのは手羽先のフライドチキン。その中に、べったら漬けだったり、行者にんにくに餅米だったりと和の食材が入っています。

型破りなのですが、型を知り尽くしているからこその崩し方とおいしさ。日本料理の奥深さや面白さ、可能性を実感させてくれるお店です。値段もおまかせコースで17,000円(税、サービス料別)からですから良心的。居心地がよく、絶品料理と笑顔たっぷりの会話で、楽しく過ごせますよ」