日本では、いちごの旬は品種により異なるものの、11月〜5月。中でも1月〜3月は多くの品種が旬を迎え、それらを使ったスイーツも店頭を飾ります。そこで今回は、いちごスイーツを和菓子・洋菓子に分けて取り上げていきます。

 

いちご大福特集となった「和菓子編」に続く洋菓子編では、いちごスイーツが日本で愛され続ける理由について迫りつつ、いちごを使った洋菓子のおすすめ店も紹介します!

古代ローマ時代から栽培されていた! とっても深い人類といちごの歴史

野生のいちごは北半球に自生し、紀元前4,000年位の遺跡からも見つかっており、古代ローマ時代には既に何種類かを栽培していたといわれますから、人類といちごの関係はかなり古くからあったことになります。

 

日本においても平安時代の古代法典「延喜式」にはいちごの記載があり、野生のいちごが食ベられていたことが分かります。もっとも現在、私たちが知っている品種は歴史的に新しいもので、18世紀にオランダで南アフリカ原産のチリ種と北アメリカ原産のバージニア種を交配して生まれたものがルーツだとされています。

写真:gettyimages

これが、日本には江戸時代末期(1830~1840年頃)にオランダから長崎に伝えられ、当時は「オランダイチゴ」と呼ばれました。しかし、赤色が血を連想させるとしてあまり好まれませんでした。明治時代になると栽培が始まりますが、一般市民に広がり、産業として栽培がなされるのは1945年以降です。

 

終戦後にアメリカの品種「ダナー」が導入され、いちご栽培が全国的に普及します。昭和40年代〜50年代(1965年〜1975年)、いちごに牛乳をかけ、スプーンの裏でいちごを押し潰して食べる、いわゆる「いちごミルク」が流行します。

 

その後、品種改良が盛んに行われ、「西のとよのか、東の女峰」と呼ばれる2大スター品種が誕生。この2大スター品種を交配し、さらに「栃の峰」をかけ合わせたのが日本一の生産量を誇るとされる栃木県の「とちおとめ」です。これに対抗する品種として作られたのが福岡県の「あまおう」と、品種改良は果てしなく続きます。

 

それにしても、なぜ日本人はここまでいちごが好きなのでしょうか? ビタミンCなどの美容に良い成分が多いという「栄養学的な理由」もあるようですが、甘酸っぱくて酸味と甘みのバランスが良いという「味覚的な理由」、赤くて葉の緑とのコントラストが映える、切ると断面がハートなど見た目や形が可愛いといった「ビジュアル的な理由」が大きいようです。

洋菓子の本場フランスではフランボワーズの方が人気?

海外にも、もちろんいちごはあります。ただ日本のいちごの旬が11月〜5月なのに対して、ヨーロッパでいちごの旬とされているのは地域によっても異なりますが、4月〜8月頃。つまりいちごが日本では、冬の到来を告げるフルーツであるのに対して、ヨーロッパでは夏の到来を告げるフルーツなのです。

フランスの市場で売られているいちご/写真:gettyimages

洋菓子の本場とされるフランス人もいちごは好きで食べますが、当然品種は異なります。フランスでは「ガリゲット(GARIGUETTE)」という、ほっそりとした小粒の品種が好まれます。もうひとつ好まれるのが、甘みも酸味もしっかりとした野いちごの「マラデボワ(Mara de Bois)」ですが、こちらはガリゲットに比べると流通量が少量です。

 

前述のとおり、日本には多種多様ないちごのスイーツがありますが、フランスで見かけるいちごスイーツの種類はそれほど多くありません。旬の時期にしか作らないということもありますが、ぱっと見でいちごを使っていると分かるスイーツしか作らないのです。

フランボワーズのクレープ/写真gettyimages

フランスでは、フランボワーズ(ラズベリー)の方が出回っている期間が長く、値段も安価なので、基本的に赤いベリー系のクリームやババロワといったものは、フランボワーズで作られるのが一般的です。フランス人は、スイーツでピンク色、赤色を見ると、日本人のようにいちごではなく、フランボワーズを連想してしまうので、見た目ですぐにいちごと分かるスイーツしか作らないのです。

ウィンブルドン選手権名物も! 海外で人気のいちごスイーツとは?

テニスの4大大会のひとつである「ウィンブルドン選手権」で販売されることで有名なのは「ストロベリー&クリーム」! こちらは、いちごに生クリームをかけたシンプルなもの。1877年に販売したところ人気となり、以来ずっと販売されているロングセラー商品です。

「ストロベリー&クリーム」の再現

イギリスでいちごといえば、やはり「ショートケーキ」です。ショートケーキといっても、日本のようにスポンジ生地ではなく、スコーン生地とショートブレッド生地を掛け合わせたようなサクサクした生地で作られます。

イギリス版「ショートケーキ」の再現

もちろん、フランス菓子では「フレジエ」。こちらはスポンジ生地を使い、日本のショートケーキに似ていますが、クリームが異なり、日本のショートケーキのように生クリームではなくカスタードクリームにバタークリームを合わせた「クレーム・ムースリーヌ」を使うのが特徴です。

スイーツ専門家が厳選! いちごを使ったおいしい洋菓子ならこの3つ

「フレンチ パウンド ハウス 大和郷本店」の苺のショートケーキ

1986年オープンのパティスリー。ヌーベルパティスリー(フランスで起った新しい菓子の潮流)に憧れ、業界に入った江口シェフのお店。当初はムース系ケーキを主力としていましたが、幼稚園の送り迎えのお母さんからのリクエストで裏メニューとして「苺のショートケーキ」を作ったところ注文が殺到し、いつしか看板メニューになってしまったそうです。

ショートケーキは、「ブラン」「ルージュ」の2種類があります。「ブラン」は、シンプルなショートケーキで小さな子供も食べられるようにリキュールは使用せず、スポンジにいちごの果汁を軽く含ませたものです。

mana_cat
「苺のショートケーキ・ブラン」   出典:mana_catさん

一方の「ルージュ」は、リキュールを使い、生クリームにいちご果汁入りのメレンゲを加え、ムースリーヌのようなふんわりとしたクリームに仕上げられています。

「苺のショートケーキ・ルージュ」

どちらもいちごは「とちおとめ」を使用し、生クリームは47%、スポンジはふんわり感を出すため米粉が使われています。よく見るとブランとルージュではクリームの絞りが異なり、前者は丸口金、後者は星口金で絞られています。

 

生クリームに負けて、いちごの風味が感じられないショートケーキも多い中、こちらのものは、どちらもいちごの香りと味わいがしっかりと楽しめる逸品です!

 

「パティスリー パクタージュ」のフレジエ

齋藤由季シェフは、日本のパティスリーで修行後、渡仏。フランス南部モンペリエの2つ星レストランや美食の町といわれるリヨンの老舗パティスリー・ショコラトリーで研鑽を積み、帰国後はかつて東京・銀座にあった「パティスリー ミツワ ギンザ」、自由が丘「パティスリー パリ セヴェイユ」などを経て、南品川「レ サンク エピス」のシェフパティシエールに。2013年に独立し、「パティスリー パクタージュ」をオープン。齋藤シェフのご主人、久保雅彦氏もパティシエで、2人で運営されています。

八坂牛太
「フレジエ」   出典:八坂牛太さん

こちらのフレジエは、フランス菓子の伝統にのっとり、クレーム・ムースリーヌを使って作られたものですが、バター多めの配合で空気を含ませないように乳化させているので、ひんやりした状態で食べるとクリームはやや硬めで、いちごの味わいが引き立つ感じに。

 

常温にしっかりと戻すとクリームはなめらかでミルキーな味わいとなり、いちごとの一体感が増し、いちごミルクのような味わいを楽しめます。上下に使われているのは、香りのよいピスタチオのジョコンド生地。緑がかった生地と鮮やかないちごの赤のコントラストもキレイです。フランスと同じく、いちごのおいしい季節の限定商品となっています(今年は2月中旬から5月中旬までの販売予定)。

 

「フルーツパーラーゴトー」の4種のいちごのパフェ

K-BIGSTONE
出典:K-BIGSTONEさん

フルーツパーラーゴトーは、昭和21年(1946年)創業。昭和40年(1965年)頃からフルーツパーラーを併設。現在は2代目の後藤浩一さんとお母様で営まれています。店内は、コンクリートの打ちっぱなしの壁に画家の樋上公実子さんの手によるフルーツパフェの絵が掛けられています(「フルーツパフェ逍遥」の作品群)。こちらで、今の時季に楽しみたいのは、なんと言っても「4種のいちごのパフェ」!

「4種のいちごのパフェ」

旬のいちごの下には、自家製の「いちごアイス」と「いちごのコンフィチュール」という、いちごづくし。この日のいちごは、「ひのしずく」「紅つやか」「あまおう」「とちおとめ」の4種類。複数のいちごの食べ比べができて、その上、アイスクリーム、コンフィチュールといった異なる形態も楽しめるのは、パフェならでは。

「フルーツサンド(ハーフ)」

胃袋に余裕のある方は、是非フルーツサンド(写真はハーフ)もお試しを!

 

 

写真・文:猫井登