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〈自然派ワインに恋して〉
シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。
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岡本のぞみ
ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。
愛媛の豊かな食材を自然派ワインとともに

神保町にある「シャガット」は、薄田貴志さんと宜子さん夫妻が腕を振るうレストラン。貴志さんが愛媛県出身であることから、愛媛の食材を主役にしたビストロとして2016年にオープンした。愛媛の食材というと、みかんや鯛が思い浮かぶが、実は海・里・山の恵みが豊かな地域。瀬戸内海だけでなく宇和海の海の幸、みかんを食べたイノシシ、愛媛県が育種した「ひめの凜」という新しいお米など注目度が高い食材が豊富なのだ。それをイタリアン出身の貴志さん、フレンチ出身の宜子さんの二人が調理し、素材の力を活かした一皿として提供している。

レストランのもう1つのテーマとなっているのが、ヴァンナチュール(自然派ワイン)。薄田さん夫妻はともにフレンチとイタリアンの料理人だったため、ワインには触れてきたが、通常のワインはしっくり来なかったそう。しかし、自然派ワインに出会って、その素直な味わいにはまったという。

「私たちが作る料理は素材を活かした素朴なもの。二人でレストランをオープンしたいと思ったときに、ブドウの味がそのまま出たような自然派ワインと合わせたい思ったのは、自然な流れでした」と宜子さん。アラカルトは素材を活かしたボリュームたっぷりの料理が中心で、コース(5,500円、2名〜)は前菜や魚料理、肉料理など5〜6皿が少しずつ食べられるようになっている。
猪肉パテ・ド・カンパーニュ×ロゼスパークリング

前菜のおすすめはボリュームたっぷりの「大三島イノシシのパテ・ド・カンパーニュ」。大三島はしまなみ海道が通る愛媛県最北の島。「大三島で捕れるイノシシはみかんを食べているせいか、爽やかな香りがして、力強いうまみがあります。素材が良いので、シンプルな味付けにしています」と宜子さん。なるほど肉にくさみはなく、濃い赤身にしっかりとしたうま味がのって、マスタードの酸味と合わせるとどんどん食べ進められるおいしさだった。

イノシシのパテ・ド・カンパーニュに合わせたいのは、フランスのオーヴェルニュで造られたロゼスパークリング。「かつおだしのような味わいのある落ち着いたロゼワインです。軽めの泡だちのペティアンなので、乾杯からパスタまで幅広く合わせられます」と宜子さん。シャガットでは幅広く素材の良さを引き出すおおらかな自然派ワインを用意。食事になじむおいしさが心地よい組み合わせだった。
金ごまのタヤリン×柑橘風味の白ワイン

シャガットはパスタのメイン食材も愛媛産。国内自給率わずか0.01%という「金ごま」は、希少なだけでなく豊かな香りと深い風味が魅力。愛媛県産の卵を練り込んだイタリア・ピエモンテ州の伝統パスタ・タヤリンの上に、チーズをかけるイメージで金ごまがたっぷりとのせられている。貴志さんが直前に煎ってすった金ごまは、運ばれる前から香ばしさが漂い食欲をそそる。細いパスタによく絡んだ金ごまは、種というより木の実のようでクセになる味わい。「無性に食べたくなった」と予約するお客さんもいるそう。

金ごまのタヤリンに合わせたい宜子さんのおすすめは、フランス・ロワール地方のシュナン・ブラン。「レモンというより、豊かな柑橘系の香りがある白ワインです。落ち着いたシュナン・ブランなので、ごまとよく合います」。リッチなごまのタヤリンの味わいを豊かな果実味とエキス感で包み込む、満足度の高いマリアージュだった。
あか牛ロースト×ジューシー赤ワイン

シャガットではメインの肉ももちろん愛媛産を用意。「媛っこ地鶏」「大三島イノシシ」などもあるが、牛肉のおすすめは「愛媛あか牛モモ肉ロースト」。高知系のあか牛を宇和島のはなが和牛の牧場で、国産飼料で再肥育。さらに熟成させることでうまみを高めたものが取り寄せられている。それを貴志さんが火入れし休ませてを繰り返し、うまみを凝縮して提供している。

あか牛のローストはイタリアの赤ワインで。「力強いブドウの果実味がある赤ワインですが、タンニンがまろやかで余韻はスッと消えていく味わいです。そのため、お肉やつけあわせの野菜とも合わせて、ゆるりと楽しんでもらえます」と宜子さん。うまみが強くゆっくり噛み締めたい肉にちょうどいい組み合わせだった。
宜子さんの「私が恋した自然派ワイン」

宜子さんの恋したワインは、日本ワインの良さに気付かされた一本。
「自然派ワインを飲み始めた頃は、フランス産のものを中心に飲んでいました。10年くらい前、初めて日本のワインも飲んでみたのが、北海道のドメーヌ・タカヒコのナナツモリ。これを飲んで“日本のワインもすごい!”と気づかされ、視野が広がりました。日本のワインを仕入れるきっかけになった一本で、最初にいいワインに出会わせてもらったと今でも思っています。
生産者の曽我貴彦さんにもお会いする機会があり、試行錯誤して造ったワインというのを知ってますます好きになりました。飲んでみたい人には提供しているので、ぜひ声をかけてください」
料理人が選ぶ、食事に寄り添うワイン

シャガットでは、宜子さんと貴志さんが選んだ、フランスやイタリアなどのヨーロッパのワイン、そして日本ワインが提供されている。「料理人の私たちが選んでいるのは、直感で料理に合うと思ったワイン。ブドウの味をそのまま出したようなシンプルに造られた一本を用意しています」と宜子さん。グラスワイン6〜7種類(1,000〜1,600円)、ボトルワイン50〜60種類(5,000〜12,000円)がラインアップされている。
素材が活かされたボリュームたっぷりの料理と自然派ワイン

シャガットの料理はボリュームたっぷりだが、素材の良さが活かされているためか、パクパクと食べ進めることができる。自然派ワインにはもちろんぴったりで、元気な食材を味わいたいときに思い出したい一軒。店があるのは人気の飲食店が集う、神保町の路地裏。10席ほどの隠れ家なので、予約して訪れるのがおすすめだ。
※価格はすべて税込