日本では、いちごの旬は品種により異なるものの、11月〜5月。中でも1月〜3月は多くの品種が旬を迎え、それらを使ったスイーツも店頭を飾ります。そこで、今回はいちごスイーツを、和菓子・洋菓子に分けて取り上げていきます。まずは和菓子編から!

いちごの和菓子ってどんな種類があるの?

いちごスイーツと言えば、ショートケーキ、いちごタルト……と思い浮かぶのは洋菓子がほとんど。そもそも、いちごを使った和菓子には、どのようなものがあるのでしょうか? というわけで、早速、いくつかのデパ地下を探索!

 

結果、予想外に多いことにビックリ! 特に全国の銘菓を集めたコーナーに行くと、いわゆるご当地スイーツにもいちごバージョンが数多くあるのに驚かされます。どこまでを和菓子と考えるかは難しいところもありますが、ざっと目にとまったものを挙げてみると次のようになります。

写真左手前から時計回りに、「いちご三笠山」「旬のおとし文【苺】」「いちごカステラ」「あまおう苺みるく鶴乃子」「苺ブッセ」「いちごレモンケーキ」「いちご摘み」

【東京・文明堂】「いちご三笠山」「いちごカステラ」

【東京・清月堂】「旬のおとし文【苺】」(まんじゅう)

【京都・亀屋良長】「いちご摘み」(羊羹)

【福岡 如水庵】「苺ブッセ」

【福岡 石村萬盛堂】「あまおう苺みるく鶴乃子」

【長崎 茂木一まる香本家】「いちごレモンケーキ」

 

そして、いちごの和菓子で、この時期、圧倒的存在感を放っていたのが「いちご大福」! デパ地下の全国の銘菓売り場では、東京のものだけでなく、なんと地方のいちご大福までラインアップに加わるという力の入れようです。それだけ需要があるということなのでしょう。

日本人のヘルシー志向がきっかけ? いちご大福誕生秘話

絶大な人気と需要を誇るいちご大福ですが、一体いつ頃、どのような背景から誕生したものなのでしょうか? 調べていくと比較的新しく、昭和後期に生まれたもので、元祖とされるお店が複数あることが分かります。

 

そのひとつとされる「大角玉屋」さんによれば、いちご大福が誕生したのは昭和60年(1985年)のことだそう。誕生の経緯については、“きっかけはバブルといわれた昭和60年正月、大角玉屋3代目社長大角和平が新聞の電通の今年の流行みたいなコラムで「洋菓子・ケーキの時代がそろそろ終わり何かのきっかけがあれば和菓子の時代が来るだろう」という記事を読んだことでした。”と公式サイトに記されており、和菓子の時代の到来に向けて新しいお菓子を試行錯誤の末、産みだしたということなのでしょう。ちなみに正式な商品名は「いちご豆大福」となっています。

「和菓子処 大角玉屋」のいちご豆大福各種

もうひとつ元祖と目されている「一不二」さんについて調べてみましょう。こちらのお店は残念ながら、2018年6月17日に閉店していますが、実用新案登録を取得されているとの記録があったので、そちらを辿っていきます。特許庁のサイトで検索すると、出願日1986年10月25日、一不二さんの店主と思しき方と、もうお一方の氏名が考案者として記されています。明細を見ていくと「考案の名称」は「大福餅」となっているものの、「請求の範囲」には「苺の酸味に応じて糖度が調整された餡で苺をくるんだ餡玉を薄い餅皮で包んだ大福餅」と記されており、まさしく、いちご大福であることがわかります。

 

考案の経緯については、「近時、食生活の改善という見地から甘味及び塩味を摂取しすぎないようにすることが提唱され、同時に自然食品、健康食品と称される食品類が盛んに食せられるようになり、和菓子にも自然食品的な製品の提案が望まれるようになった」と記されています。

 

日本では、1970年代後半から健康ブームが起こり、1980年代は健康に関する書籍も多数出版されました。そのような中、劣勢となったお菓子業界の状況を打開すべく、ヘルシーなイメージのあるフレッシュフルーツを和菓子にも取り入れたということなのでしょう。

 

こういった記録を見てくると、いちご大福は、健康志向の高まりなど、時代や人々の意識の変化に必死に対応しようとして考案された商品であることが読み取れます。

なぜいちご大福は根強い人気を集めるのか?

撮影:食べログマガジン編集部

特許庁の出願データを見ていくと、「シロップ(チョコ、コーヒーなど)内蔵大福」「キウィ大福」「あんみつ大福」「焼きいも大福」「ゼリー大福」……果ては「納豆大福」「三色カレー大福」に至るまで、大福に関して、さまざまな特許が出願されていることがわかります。にもかかわらず、いちご大福が突出して根強い人気があるのは、なぜなのでしょうか?

 

当初は、あんこに生のいちごを合わせるという斬新性が要因のひとつだったのでしょうが、さまざまなフルーツ大福が考案される中、やはり、「あんこ+いちご」の組み合わせが、最も相性が良いということなのでしょう。あんこの「甘さ」といちごの「甘酸っぱさ」、あんこの「濃厚さ」といちごの「フレッシュ感」、あんこの「柔らかな食感」といちごの「フレッシュな歯ごたえ」……もちろん、近時は、漆黒のあんこの中央に鮮やか深紅のいちごの断面がSNS映えするというビジュアルも見過ごせません。

意外と豊富! いちご大福のバリエーションにも注目

一口に「いちご大福」と言っても、さまざまなバリエーションがあります。「皮」「あんこ」「いちご」に加え、「形状」を変え、多種多様なものが産み出されています。中でもバリエーションが多いのは、なんといっても「あんこ」の部分です。

 

関東で一般的なものとしては、「つぶあん」と「こしあん」ですが、関西では「しろあん」も多く見られ「関西風いちご大福」と呼ばれることもあります。また近時は、いちごの赤とのコントラストで緑の「抹茶あん」やいちごミルクからの発想で「ミルクあん」なども登場しています。

スイーツ専門家がおすすめ! とっておきのいちご大福3選

日本で初めていちご豆大福を作った元祖「和菓子処 大角玉屋」

yume04
出典:yume04さん

創業は大正元年の老舗和菓子店で、日本で初めて「元祖いちご豆大福」を製造・販売。こちらの「いちご豆大福」には「つぶあん」「こしあん」「特選」の3種があります。

写真左から、「こしあん」「特選」「つぶあん」

3種とも、いちご「豆」大福となっています。特選は、すべてに最高級品を使っているとのことで、いちごも通常のものに比べて大ぶり。皮もしっかりめで、あんこもたっぷり。食べ応えがあり、男性的な感じがするいちご大福です。

写真左から、「特選」「こしあん」「つぶあん」

薄皮&こしあんが特徴的な老舗和菓子店の味わい「翠江堂(すいこどう)」

ぽちのかいぬし
出典:ぽちのかいぬしさん

昭和21年(1946年)創業の老舗和菓子店。こちらの「いちご大福」は「こしあん」の1種類のみ。夏場を除き通年販売されています。こちらの皮は薄く、いちごの色が透けて見えるほど。

こしあんは、あっさりとした味わいで大粒のいちごの甘さを引き立てています。何より驚かされるのはいちごのジューシーさと甘み。全体的には、繊細で女性的な感じのいちご大福ですが、食べ応えは十分にあります。

大きすぎて包めない! あまおう丸ごと1個のせました「共楽堂」

東京以外のお店もひとつ。こちらはデパ地下の売場で見つけたものです。共楽堂は、広島県三原市にある昭和8年創業の老舗和菓子店。こちらのいちご大福は「大いちご大福」。福岡県産あまおうの特大サイズを大福の上にのせたものです。いちごが大きすぎて包めないのだとか。大福の皮はしっとり、もちもち。中は甘さ控えめのこしあんです。

 

最初は、これは「いちご大福」ではなく「いちご+大福」なのでは? とも思いましたが、いちごと大福を同時に口に入れると、それぞれの味わいをしっかりと感じることができて、このような形状も「アリ」だなと思いました。(通信販売もされています)

 

 

いちごがおいしいこの時期に、皆さんもお好みのいちご大福を探してみませんか。

 

写真・文:猫井登