お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度おいしいこの連載。第17回は、高級住宅地としても学生の街としても知られる、小田急線・成城学園前駅周辺のスイーツスポットを紹介します。

【猫井登のスイーツ探訪17・前編】〜小田急線・成城学園前駅周辺でスイーツ巡り〜

 

食べログマガジン編集部

今回は、高級住宅街として知られる成城学園前エリアのスイーツショップ巡りということで、ちょっと緊張しています。

 

猫井先生

たしかに、日本有数の高級住宅街ではありますが、成城学園をはじめ、幼稚園から大学まで学校も多くあるので、学生の街でもありますね。そのためか、高級ながらも親しみやすさが感じられるお店が多いですね。まずは、この地域を代表する有名店に行きましょう!

【1軒め】「成城アルプス」

 

食べログマガジン編集部

さすが、高級感あふれる重厚な店構えですね!

 

猫井先生

入ると左手にショーケースがずらりと並び、1F奥にもサロンがありますが、せっかく来たなら2Fのサロンがおすすめです。

 

食べログマガジン編集部

落ち着いた雰囲気で素敵です。

 

猫井先生

こちらでは、ケーキの見本を持って来てくれるので、実物を見てから選ぶことができるんですよ。

 

食べログマガジン編集部

うわ〜、目移りしちゃいそうです!

 

猫井先生

一番楽しい時間ですよね。食べているときよりワクワクしてしまうかも(笑)。

 

食べログマガジン編集部

悩みに悩みましたが……冬らしいデコレーションが可愛い「フロマージュフレ」を選んでみました。こちらはどういったケーキなんですか?

「フロマージュフレ」
「フロマージュフレ」   写真:お店から
 

猫井先生

「フロマージュフレ」は、フロマージュブランという優しい酸味のあるフレッシュチーズにホワイトチョコレートを合わせた爽やかなレアチーズケーキですね。中にはオレンジとフロマージュブランのクリームが入れられ、これを厚めのアーモンドスポンジがどっしりと支えているという構造ですね。

 

食べログマガジン編集部

たしかに、甘すぎず、爽やかな味わいです。これは女子が好きかも! 先生のケーキはどんなお味ですか?

「ミレイユ」
「ミレイユ」   写真:お店から
 

猫井先生

こちらは「ミレイユ」といって、ブルーベリーとカシスのムース、濃厚な生クリームの組み合わせのケーキです。酸味があるので、見かけほど重い味わいではありません。ほのかにラベンダーの香りが広がるエレガントなプチガトーですね。

 

食べログマガジン編集部

エレガント! 成城っぽい響きですね。こちらのお店っていつ頃からあるんですか?

 

猫井先生

1965年創業ですから、今年で55年ですね。今は2代目の太田秀樹シェフが社長兼シェフパティシエをされています。今日はプチガトーをいただきましたが、こちらのお店の「モカロール」は有名ですよ。

「モカロール」
「モカロール」   写真:お店から
 

食べログマガジン編集部

モカロール、 以前猫井先生に教えてもらってマガジンでも紹介しました!

過去に紹介した記事はこちら:〈マガジンこぼれ話〉見事な“巻き”!成城アルプスの美し過ぎる名物ロールケーキ

 

猫井先生

それは話が早いですね(笑)。では今回はもう少し専門的なお話をしましょう。モカロールは、コーヒー味の生地でコーヒー味のバタークリームを巻いたロールケーキなのですが、生地が薄いので巻き回数が多く、非常に美しい渦巻き模様を描くロールケーキです。最近の周りだけに生地を巻く、いわゆる「ひと巻きロール」とは対照的ですね。薄い生地は、焼き加減を見極めるのも難しく、これだけ密に巻くのは、まさに熟練の職人の技ですね。

 

食べログマガジン編集部

たしかに最近見かけるロールケーキとは違いますね。なんか風格があるというか……。

 

猫井先生

このロールケーキの原点は、太田シェフのお父様が修行された名店「エス・ワイル」にあるそうですよ。

 

食べログマガジン編集部

「エス・ワイル」とは? 初めて聞きました。

「モカロール」/撮影:食べログマガジン編集部
 

猫井先生

日本の洋菓子の歴史においては、とても重要なお店です。1927年、現在もある横浜の老舗ホテル「ニューグランド」がオープンします。その時の初代総料理長がサリー・ワイル氏というスイス人シェフで、本場ヨーロッパのレシピを数多く伝えるとともに多くの弟子を育て、日本の西洋料理、西洋菓子の発展に多大なる貢献をした人物として知られています。その弟子の一人、大谷長吉さんが1951年に開いたのが「エス・ワイル」です。残念ながら2011年に閉店しましたが、1970年当時は「本格西洋菓子を修行するならエス・ワイル」といわれたほどで、新百合ヶ丘「リリエンベルグ」の横溝春雄さんなど、現在も第一線で活躍される有名シェフもこちらで修行されていますよ。

 

食べログマガジン編集部

へぇ〜! すごいお店だったんですね。

 

猫井先生

その「エス・ワイル」の看板商品が「ルーロー・モカ」でして、成城アルプスのモカロールは、その正当なDNAを受け継いでいるわけです。

 

食べログマガジン編集部

そんな深い話を聞いてしまったらモカロールも食べたくなっちゃいました(笑)。

 

猫井先生

お土産にもぴったりですし、オンライン購入もできるので、地方に住んでいる方も買えるのがうれしいですね!

 

食べログマガジン編集部

次はどちらのお店へ?

 

猫井先生

成城アルプスの向かいにある和菓子屋さんへ行きましょう!

【2軒め】「あんや」

 

食べログマガジン編集部

おしゃれな雰囲気のお店ですね。

 

猫井先生

今、成城学園前で人気の、現代的な要素を取り入れたモダンな和菓子屋ですね。和菓子は、店内の厨房で伝統的な手法で作られています。奥には茶房もあり、店内でお菓子を楽しむことができますよ。抹茶や煎茶と一緒におまんじゅうなどを楽しんでもいいでしょうし、あんみつなどもあります。夏場は、かき氷も人気ですね。個人的は、こちらのお菓子の詰め合わせをよくお土産に使っています。

 

食べログマガジン編集部

お土産に和菓子をいただくとうれしいものですよね。先生のおすすめはありますか?

gomatani
「かのこ餅」   出典:gomataniさん
 

猫井先生

私はこちらのもちっとした食感のお菓子が気に入っているので、「かのこ餅」と「こめ粉サンド」の詰め合わせをよく買っていきますね。

chocosara
「こめ粉サンド」   出典:chocosaraさん
 

猫井先生

「かのこ餅」は、もち粉を使ったどら焼き風の生地に、つぶあんを挟んだものですね。「こめ粉サンド」は、米粉を使ったスポンジに求肥とこしあんを挟んだものです。

 

食べログマガジン編集部

手頃なサイズなのにきちんと高級感もあって、手土産にぴったりですね!

 

猫井先生

和菓子と言えば、穴場的なお店を見つけたのでご紹介しますね。

【3軒め】「平太郎 成城学園前駅店」

 

食べログマガジン編集部

成城にたい焼き屋さんとは、意外ですね!

 

猫井先生

この界隈で学生がたい焼きを食べながら歩いているのを見かけて、なんとなく道を辿って行ったら、こちらのお店を発見しました(笑)。愛知県岡崎市に本店があるチェーン店のようですが、日本経済新聞の「NIKKEIプラス1何でもランキング」で4位に入るなど、人気のたい焼き屋さんですね。

一老太
出典:一老太さん
 

食べログマガジン編集部

たい焼きは値段もサイズもお手軽ですし、学生の多い街で流行るのも納得がいきますね! 後編はどんなお店を回る予定ですか?

 

猫井先生

後編では、フルーツスイーツ専門店のパフェや和菓子、洋菓子。それから2020年のスイーツ予想もしちゃおうかな、と思っています。

 

食べログマガジン編集部

今年のスイーツ予測! 楽しみです。

 

写真・文:猫井登