〈今夜の自腹飯〉

自腹で味わうならうまくなければいけない。自腹で訪ねるなら値ごろ感がなければいけない。そんな食いしん坊におすすめしたいのが、おまかせではなくお好みで天ぷらを味わえる店。京都の食を知り尽くした大人が集う「小粋な天ぷら店」を中井シノブさんにご紹介いただいた。

教えてくれる人

中井シノブ
京都在住ライター。京都を中心に関西の飲食店を取材紹介する。取材店は1.5万軒以上。趣味は外飯、外酒、猫とまったり。「あまから手帖」でコラム記事を連載中。

天ぷらと一品料理で、静かな祇園をゆったり過ごす

突き出しの後に出される天ぷらは4品。甘みのある車エビは定番

京都にも天ぷら店は増えているが、そのほとんどがおまかせコース店。天ぷらをたくさん食べたいときはそれもいいけれど、「天ぷらは数品でいいか」と思う日には、なかなか足を向けられない。天ぷら数品とおばんざいで「軽めに」というときも、好きな天ぷらを「何度もお代わりしたい」というときも、訪ねられるのがこの店だ。

カウンターの中には女将と若女将、料理長。3人で、行き届いたおもてなし

石畳の通りで知られる祇園白川南通や巽橋など名所からもすぐ。京都の中でもひときわ情緒ある新門前通にあって、静かに食事を味わえる天ぷら割烹。暖簾をくぐって格子戸を開けると、すっと伸びる美しい木のカウンター。奥には坪庭が見え、すっと心が和らぐ。ゆったりと寛げるカウンター席は、酸いも甘いもかみ分けた大人の客でにぎわっている。

左から若女将のいっちゃん、女将の山田あきさん、料理長のだいちゃん

女将の山田あきさんは、祇園南座前で長らく小料理屋を営んでいたが、「好みの天ぷらを好きな数だけ食べられる店があれば」と、2023年3月に一念発起して現在の場所で「ぎをん川柳」を開いた。京都の割烹で腕を磨いた料理長のだいちゃんとソムリエ資格を持つ若女将のいっちゃんが脇を固め、抜群の連携で客をもてなす。

天ぷら4品と一品料理ではじめ、その後は好みのネタを揚げてもらう

突き出しの「えびいものポテサラ」は日本酒も進む味わい

まず用意されるのは、天ぷら4種とお造り、おばんざいとご飯の軽いコース。カウンターに座ると定番の車海老をカラッと揚げてくれ、後は好みを聞きながら、野菜の天ぷらを3種。天ぷらはこれで十分という時は、この後は、うに、とろ、いかを山葵と醤油で和え、焼きのりで巻いて食べる店の名物「うとい」や季節野菜のおひたしでゆっくりお酒を味わうのもいい。

魚介類は1品500~1,000円くらい

もう少し、季節の食材を天ぷらでというならば、キアラやホタテ、伝助穴子、アンコウ、キス、シシャモなど日替わりで10種ほどを用意する魚介類から、食べたいものを選んで揚げてもらう。中には、一通り全部と言う人もいれば、車海老をお代わりと言う人もいる。そのあたりのフレキシブルさが、おまかせコースとは違う使いやすさだ。天ぷらの合間には、おばんざいなど箸休めを味わいながら、じっくり飲む。

季節の野菜もおよそ10品。500円~

「野菜を揚げてほしい」とリクエストすると、大皿に盛った小蕪やマコモダケ、カボチャ、レンコンなど、今日おいしい野菜を薦めてくれる。春にはタケノコ、秋には松茸、冬にはえび芋や堀川ごぼうといった、その時季だけの野菜も並ぶ。分量も相談にのってくれるから、ほかの料理との兼ね合いも考えて注文したい。