〈これが推し麺!〉
ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。
今回は、食べロググルメ著名人・浜田岳文さんがおすすめする、移転したてのそばの名店をご紹介。
教えてくれる人
浜田岳文
1974年兵庫県生まれ。米国イェール大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。外資系投資銀行・投資ファンドに約10年間勤務後、独立。エンタテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、フードテック関連スタートアップへの出資も行っている。今までに世界約125カ国・地域を踏破し、「OAD Top Restaurants」レビュアーランキングにて4年連続世界第1位にランクイン。地方のレストランに光を当てる「The Japan Times Destination Restaurants」の創設に携わり、選考委員を務めている。
ファンが多いそばの名店が移転オープン
西麻布で名をはせた「蕎麦おさめ」がこの4月に新たに移転オープンした。目白駅から少し歩いた場所にある新店は、店主・納剣児さんが理想とした古民家を舞台にすることとなった。
静かな住宅街の一角にありながらも、大通りから1本入ってすぐという便利な立地。砂利道に踏み石を敷いた路地のアプローチも期待を盛り上げてくれる。堂々とした玄関を入ると土間があり、都内にあるとは思えない趣ある異空間が広がっていた。
築100年という古民家を改装した店内は、廊下の向こうに坪庭を見晴らす落ち着いた空間だ。元は茶道の先生のお宅だった建物だけに、離れにはお茶室があり、そこを改装して個室が造られている。いちから手を入れたという端正な坪庭は、つくばいや灯篭が配置され、眺めていると都会にいることを忘れさせてくれる。
浜田さん
4月28日に目白に移転したばかりですが、築100年弱の古民家を改装したそう。新店舗では昼営業も開始し、使い勝手がよくなりました。設えや雰囲気も含めて更にパワーアップしているかと思うので、近々伺いたいと思っています。
店主のそばへの探究心と愛の深さに感銘を受ける
店主の納さんは、3軒ほどそばの名店で修業したそば職人。修業中の20代の頃に、在来種のそばと出会いそのおいしさに衝撃を受けたという。在来種とはその土地ごとに長く栽培されてきたそばの品種で、栽培種とは一線を画す風味を持っている。
「こんなにおいしいそばがあることをそれまでは知りませんでした。その後は徐々に在来種を育てる農家さんなどを紹介してもらい、畑にも行けるようになりました」という。
浜田さん
出汁の旨味を感じる玉子焼きやお通しにしんなどのつまみも良いですが、なんと言っても主役のそばが出色。在来種のそば粉を使った十割そばを、せいろ、粗挽き、玄挽きで楽しめますが、中でも個人的に玄挽きそばがイチオシです。
浜田さんイチオシの「玄挽きそば」に詰められたこだわりを紐解く
在来種のそばにこだわる納さんが、もっとも力を入れているのが「玄挽きそば」。そばの殻ごとひいた玄挽きは、いわば全粒紛のようなもので、田舎そばのようにざらりとした食感を楽しむそばが多い。
しかしこの店の玄挽きはガラリと違う。玄そばの甘みや香りはしっかりと残しつつもそば粉のひき方を調整することで、しなやかな喉越も兼ね備えているのだ。
玄そばは石臼でゆっくり、ゆっくり時間をかけてひく。こうすることで玄そばの野趣は残しつつ、雑味を出さず、喉越も良くなるという。
茹で加減もその日の気温、湿度などによって微妙に変えている。茹でて熱を加えることでそばの甘さや香りを最大限に引き出すのだ。
浜田さん
そばと名乗っていてもそばの香りが弱いものが世の中の大多数を占める中、同店のそば、特に玄挽きそばは鼻を近づけなくてもそば本来の香りが漂ってくるくらい、風味が豊かで力強い。それでいて、十割とは思えないくらいにもちもちとした食感が強い。その上、田舎そば的な太く野趣溢れるそばとは異なり、細くて端正なので、喉越しの良さも楽しめます。田舎そばの香り高さと更科そばの上品さを兼ね備えているのが稀有だと思います。