なんだか最近目にする機会が増えた気がする……そんな、“今まさにキテる”フードを紹介する不定期連載。今回は、コンビニチェーンにもついに登場するなど、目にする機会がグッと増えている注目の肉料理「プルドポーク」について、ハンバーガー探求家の松原好秀さんに教えてもらいました!

【今これがキテる!】~プルドポーク編~

本題に入る前に……まずは、BBQの話をしよう

プルドポークの話の前に、まず「BBQ(バーベキュー)」の話をします。と言っても、河原やキャンプ場でやる「焼肉」のことではありません。米国南部の伝統的な肉料理のことです。テキサス、ミズーリ、テネシー、ノースカロライナ、サウスカロライナなど主に米国南部諸州で盛んな肉の丸焼き料理、これが米国の“barbecue”です。

 

丸焼きと言っても直火で炙るのではありません。「火を通す」と言う方が正しいでしょうか。密閉された空間で肉の塊に熱を加えます。それも低温で長時間(low and slow)。じっくりと火を入れることで脂が落ち、コラーゲンが分解されて、ジューシーなやわらか~い肉が出来上がります。

東京・麻布十番にあった「WHITE SMOKE」で人気のあった“ビーフ”のショートリブ ※プルドポークではありません

そんな米国南部伝統の肉料理を初めて私に教えてくれたのが、東京・麻布十番にあった「WHITE SMOKE」という店でした。オーナーのCraig Whiteさんはテキサス出身の“Texan”です。テキサスには「スモークハウス」と呼ばれるバーベキュー専門店が無数にあります。スモークとは肉を「燻製する」という意味。燻製に使う「ピット(pit)」という、“窯”のようなものが各店にあり、自慢のバーベキューを提供しています。

クレイグさん設計のスモークピット。「WHITE SMOKE」は2011年オープン、3年ほど営業の後、現在は「コストコ」でソーセージやベイビーバックリブなどの販売のみ行なっている

「ホワイトスモーク」では、クレイグさん自ら設計した巨大な金属製のピットで、それはそれはおいしいスモーク肉を作っていました。残念ながら今は店はありませんが、在京の米国人の間では「ホワイトスモークを超えるスモークハウスは日本にない」といまだに言われ続けるほど、伝説の店になっています。

 

そのクレイグさんによると、テキサスは「ビーフ」をよく食べる州ですが、州の真中のオースティン辺りを境に、東に行くほど豚もよく食べるようになるそうです。なお、「ホワイトスモーク」にはプルドポークは普段はなく、パーティーなどのときだけ出していました。

ハンバーガー探求家が出合った初めての本格派プルドポークとは?

そこでいよいよ本題。私が初めて本格的なプルドポークと出合ったのは、日本生まれの米国人、Jon Levinさんの店で、当時は高円寺に店舗を構えていた「Fatz’s」でした。

吉祥寺「Fatz’s The San Franciscan」のプルドポーク/写真提供:ハインツ日本株式会社

ジョンさんのお母さんは、プルドポークの本場中の本場、ノースカロライナの出身です。そこで、その母方の家の味に則った、オーセンティックなプルドポークを同店で提供しています。作り方は、US産の豚肩ロースにドライラブ(肉の表面にスパイスなどを擦り込むこと)をして一晩寝かせ、翌日スモーカーに入れて12時間ほど燻製。長野県産の楢の木を使って燻しています。出来上がった肉に包丁など不要。フォークを突き立てれば簡単に裂けて(pull)ほぐれてしまうというのが、「プルドポーク」という名前の由来です。

 

私の記憶では「ホワイトスモーク」がオープンした2011年ごろから、本格的な米国のバーベキュー料理を食べさせる店が都内に増え始め、ハンバーガー専門店でもプルドポークを見かけるようになりました。今年4月にはケチャップでお馴染みのハインツ日本株式会社が飲食店向けに業務用のプルドポークを発売。コンビニチェーンの「ナチュラルローソン」でもついに今夏から、プルドポークサンドを売り出すまでに至っています。

 

そして、大手企業もそんな動きを見せる、まさにそのタイミングで、京都・大阪・兵庫・岡山の2府2県、計12店のハンバーガー専門店が参加する「関西プルポ戦争」なるプルドポークのスタンプラリーが、9月1日から10月31日まで、まさにこの秋、絶賛開催中です。ということで、プルドポークが気軽に食べられる店を東西5店ご紹介します!

【東京・吉祥寺】「Fatz’s The San Franciscan」

「プルドポークサンド」1,250円。夜はスモークしたポテトサラダとハッシュパピー(コーンミールで作ったドーナツのようなもの)が付いたセットで1,400円

「プルドポークはノースカロライナのもの」と言って譲らぬジョンさんのお店です。昨年、高円寺から移転しました。上の写真のように、コールスローと一緒にパンに挟んで食べるのが代表的なプルドポークの食べ方です。かかるソースはBBQソース。「ファッツ」のソースは、トマトケチャップにモラセス(糖蜜)、ブラウンシュガー、アップルジュースなどを加えた「メンフィススウィート」と呼ばれるスタイルの甘~いソースで、とにかく甘いです。

「プルドポーク」400円。リンゴ酢を味付けしたビネガーソースと、砂糖で甘くしたマスタードソース付き

そこで、ぜひ食べて欲しいのは、肉だけで出てくる小皿料理の「プルドポーク」。何もソースがかかっていないため地味に感じる味付けですが、それだけに、いつまででもずーっと食べ続けていられます。12時間かけてじっくりと引き出された肉の旨味、もうそれだけで十分おいしいのですが、添えられた2種類のソースがまた美味! 酢の方はノースカロライナ東部のスタイル、マスタードの方はサウスカロライナのBBQソースのスタイルです。

【東京・四ツ谷】「CRUZ BURGERS & CRAFT BEERS」

こちらの店主・野本さんは、テキサススタイルのプルドポークを目指しています。豚はスペイン産。パプリカパウダーやブラウンシュガーを表面にまんべんなくまぶし、糖化させて肉の外側を固めて、中がグズグズにやわらかくなったところへ、クラフトビールを隠し味に加えた自家製のBBQソース。

「BBQプルドポーク」734円。ソフトなフラワートルティーヤ4枚付き。プルドポークの量は120g。クラフトビールのつまみにピッタリ!

バンズで挟んだ「サンド」もメニューにありますが、リンゴ酢に漬けたコールスローとともにトルティーヤで巻いて食べる「BBQプルドポーク」もおすすめ。ソフトなトルティーヤに包まれると、何とも言えぬ「ちょうどいい甘味」が醸し出されて美味!

【兵庫・神戸】「DAKOTA RUSTIC TABLE」

「ダコタ ラスティック テーブル」は神戸と言っても山奥の、農家の納屋を改装したお店です。店主の北垣さんは今回の「関西プルポ戦争」の発案者でもあります。北垣さんが以前勤めていた「エスケール」という店で、不定期で出していたプルドポークに関西のバーガー各店が影響を受け、それぞれに作り出したのがプルポ戦争の始まりとのこと。

「キック・アス プルドポークバーガー」1,500円。「バーガー」と付いていますが、ビーフパティは入ってません

US産の豚肩ロースにドライラブをして一晩以上寝かせた後、桜のウッドで10時間以上スモークしたプルポが130g。繊維のしっかり感じられるポークで、シャキッとしたコールスローと相性好し。

チポトレ(燻製にした唐辛子を原材料とする香辛料)を使ったビネガーを加えたBBQソースの甘さは、ほどほど。途中でライムを搾ると甘味が立っておいしくなります。添えられたハラペーニョは香川県産の生。ガシッとしたバンズに挟まれた、ガシッとした食べ口のサンドです。

「DAKOTA RUSTIC TABLE」のスモーカー

【兵庫・西脇】「BURGER CRAZY」

こちら「バーガークレイジー」も、兵庫県の内陸のお店ですが、店主の上田さんは東京・日本橋の名店「BROZERS’」で働いていた職人です。その古巣仕込みの「積み」の技術を遺憾なく発揮した一品が、ビーフ120gパティの上にプルポ85gをのせた、こちらは文字通りの「バーガー」です。

「限定プルドポークバーガー」1,500円。上田さんのプルポ歴は2年。ドライラブの際にディジョンマスタードを一緒にすり込んでいる

カナダ産豚肩ロースの塊4~5kgをスチームコンベクションオーブンで加熱すること10~12時間。上に赤キャベツのコールスロー。内部にハラペーニョとパイナップル。後半、ライムを搾るとパインの味が一気に引き立ち、甘味全開。よく焼けてちょっとホロ苦いバンズに肉の脂が染みて、独特の味わいを発揮する迫力の一品です。

【大阪・阿波座】「BURGERLION」

最後はちょっと変わり種を。「関西プルポ戦争」の12店をずっと回っていたのでは、さすがに「飽きてくるだろう」と、大阪・阿波座「バーガリオン」のオーナー西村さんは、韓国風の味付けにプルドポークをアレンジしました。

「AC/DCバーガー」1,157円。メニュー名は、人気漫画&アニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の登場人物より。「バーガー」と付いていますが、ビーフパティは入っていません

同店のプルポは「スロークッカー」という調理器を使っています。一度焼いた豚肩ロースをスロークッカーで一晩煮込み、再び鉄板で焼いている上からコチュジャンとプルコギのタレを合わせたソースを絡め、さらにニラと白髪ネギ、ナムルっぽく味付けした角切りトマト、隠し味に味付け海苔をサンド。「ネギと味噌」は無敵の相性なので、角煮のようにやわらかくなった豚肉と合わないワケがありません。違う料理としての才能も感じるアイデア作です。

まずは、ソースを付けずそのままの味を楽しんで!

ビーフパティを挟んでいるなら「バーガー」でOKですが、パンの間にプルドポークしか挟んでいないなら、それは「サンド」と、きちんと呼び分けてほしいなというのがひとつ。それと、何もソースをかけない、じんわり地味ぃ~な旨味のプルドポークをぜひ味わっていただきたい――というのが私から皆さんへのご提案です。食べるのをやめられないくらい、本当においしいですから!

 

※価格は9月取材時点の税抜価格です。10月1日以降の価格についてはお店の方にご確認ください

教えてくれた人

松原好秀

ハンバーガー探求家、評論家。2014年に『ザ・バーガーマップ東京』(幹書房)出版。ウェブ・雑誌の連載のほか、テレビ・ラジオの出演も多数。2017年夏には映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』の公開記念キャンペーンの企画協力も担当した。

 

写真・文:松原好秀