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〈おいしい歴史を訪ねて〉
歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。
第15回 房総を暴走してくるりと回れば、美味あふれる久留里の里。なんちゃって
房総半島のへそあたりになんと城下町があった。東京から高速バスで1時間足らずで君津駅に到着する。ちょっと電車で戻って木更津駅まで行って久留里線に乗車する。ローカル線の旅の醍醐味。車窓から見えるのは、田園と里山の風景だ。
久留里城へ到着。
室町時代には真里谷氏の居城として、また、戦国時代には里見氏の居城として知られる、房総半島の代表的な城郭だ。現在は、綺麗な展望台として模擬天守が建てられている。桜の季節は大賑わいだったらしい。
名水の里が生み出した、絶品★日本酒
吉崎酒造
久留里(くるり)は、房総半島の中央部、小櫃川の中流に位置し、江戸時代の久留里藩の城下町として、また近年は名水の里としても知られており、平成の名水百選に選定された。あちこち掘られた上総(かずさ)掘りの井戸(堀りは明治後半から400mぐらい深く掘る技法を確立した)から「久留里の水」が地下水脈からこんこんと湧き出している。あまり深いと鉄分などが多くなるので、浅い井戸とハイブリッドで使われている。
おいしい水があるということは、うまい酒があるということだ。久留里の街にはなんとそれぞれ個性的な6軒もの酒蔵がある。今回はその内のひとつ、吉崎酒造にお邪魔した。
寛永元年創業といわれる千葉県最古の蔵、上総の名水で造られる清酒「吉壽(きちじゅ)」は大好評で多くのファンがいる。
僕はしぼりたての純米吟醸酒をいただいた。とくによい酒米を選出して蒸気で蒸してとっておきの酒を生んでいる。新鮮な風味と淡麗であるがうっすらとコクがあるので、とても飲みやすい。間違いなく水のおかげだろう。
JR東日本が主催するイベント「駅からハイキング」の企画に参加。500円で専用のお猪口を受け取り、酒蔵を巡ってお酒を飲むことができる。(※取材は3月)
名水が生んだ銘酒は、旅の土産としても。
上総の名水「久留里の水」と厳選した酒米で造られる清酒「吉寿」、大吟醸「月華」は飲む者を唸らせる。淡麗でありながら、お米の旨味が閉じ込められた感じがした。