〈「食」で社会貢献〉
2030年までの国際目標「SDGs」(=Sustainable Development Goals〈持続可能な開発目標〉の略)など、より良い世界を目指す取り組みに関心が高まっている昨今。何をすればいいのかわからない……という人は、まず身近な「食」から意識してみては? この連載では「食」を通じての社会貢献など、みんなが笑顔になれる取り組みをしているお店や施設をご紹介。
「人は自然の一部であり、自然に生かされている」。そう実感できるサステナブルファーム&パークが「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」。広々とした場内では、牛や山羊など動物たちがのんびり過ごし、畑ではオーガニック野菜がすこやかに育つ。飼育する動物のふんなどは堆肥にして「農」の土づくりに還元し、水は巡る。命が循環していく実感を、おいしさや楽しさと共に経験させてくれる場所。後編では「KURKKU FIELDS」の「食べる」魅力をご紹介。
教えてくれる人
船井香緒里
福井県小浜市出身、大阪在住。塗箸製造メーカー2代目の父と、老舗鯖専門店が実家の母を両親に持つ、酒と酒場をこよなく愛するヘベレケ・ライター。「あまから手帖」「dancyu」「BRUTUS」などでの食にまつわる執筆をはじめ、「dancyu.jp」で連載「大阪呑める食堂」を担当。食の取り寄せサイトや、飲食店舗などのキュレーションもおこなう。「Kaorin@フードライターのヘベレケ日記」で日々の食ネタ発信中。
“命のてざわり”を感じる食体験
「KURKKU FIELDS」の中心にあるのは、やはり「食」。訪れた人がまず足を運ぶ「DINING(ダイニング)」で、ピッツァや農園野菜たっぷりのパスタを味わえば、その魅力にたちまち引き込まれてしまう。
「KURKKU FIELDSの心臓部が、このDININGです」と、微笑むのは総料理長の山名新貴さん。DININGのメニュー監修はもちろん、丘の上にあるカウンター8席だけのレストラン「perus(ペルース)」のシェフを務める。「DININGには多様なメニューがあります。いずれの料理も、農場の営みと豊かさを感じていただけるはずです」
「DINING」に集まった「素材の物語」は、食材そのものの個性を活かしたシンプルな料理として、食べた人たちの心の奥深くに響く。
たとえば「水牛モッツァレッラチーズのマルゲリータ」に使う水牛モッツァレッラは、水牛飼育も担うチーズ職人・竹島英俊さんが朝3時から乳を搾り手作りする。また、トマトもバジルも、ピッツァ生地に用いる小麦の一部も敷地内のオーガニックファームでとれたもの。そのピッツァを頬張れば、水牛モッツァレッラの清々しくミルキーな旨みと、トマトのピュアな凝縮感、噛むほどに広がる生地の素朴な味わいが見事に調和。
農場からテーブルへとつながるおいしさのバトンを、じっくり感じることができるのだ。
スイーツにも農場の恵みがギュッと詰まっている。牛の餌やりから搾乳までを行う酪農スタッフが運営する「MILK STAND」。名物のソフトクリームは、場内で放牧飼育するブラウンスイス牛のミルクを100%使用。脂肪分が高く、コクと甘みがあるのに、後味はすっきり。フレッシュなミルクをそのまま飲んだような、清らかな味わいだ。
指で押すと、跳ね返すような質感が際立つシフォンケーキは、丘の上に立つスイーツの店「CHIFFON(シフォン)」で作られている。味の要は、ブラウンスイス牛のミルク、そして広々とした鶏舎の中で産まれる新鮮な卵だ。まさに、シンプルの極み……。
その卵が育まれるのは、ちょっとした運動場のような鶏舎!「通常の平飼いの2倍の広さはありますね」とは、養鶏担当の松村洸太さん。人懐っこい鶏たちがのびのびと走り回っている。松村さん、目指すべき卵の味わいは? 「コクに頼らない、自然なおいしさです」ときっぱり。
鶏の飼料には、もみつきの玄米や、米ぬか、敷地内の雑草などを使用。さらに「どれだけ地域に根ざすことができるか」も大切にしているため、近隣の町・大多喜町の豆腐屋さんから届くおからも加え、自家製発酵飼料にして鶏たちに与えている。食べる飼料により殻や黄身の色味は変わるが、産みたての卵の黄身は、とてもナチュラルなイエロー。その卵をたっぷり用いたシフォンケーキをカットすると……。
もっちりふんわり弾むような弾力! 頬張れば、驚くほどの軽やかさで、噛めばじんわりと卵やミルクの風味が優しく語りかけてくる。パンのように朝食にもパクパクといけそうなくらい、食べ進む味わいなのだ。
卵の殻は、畑の肥料にもなる。また、産卵の役目を終えた鶏は、鶏肉になり「DINING」で提供することも。視界に飛び込む「KURKKU FIELDS」の風景と共に、この場所だからこその食の循環を、体感できる。