未来へつながる、新しいレストランの形「perus」
最後に紹介するのが、わざわざ行く価値のあるカウンター8席だけの特等席「perus(ペルース)」。大地の恵みに敬意を払い、循環を考え、地球と人間の共生に思いを巡らせる「KURKKU FIELDS」の集大成ともいえるレストラン。
「perus」で使う食材は、魚介類と調味料、アルコールドリンク以外はほぼ全て、「KURKKU FIELDS」で育まれたもの。「農場の食材、さらには千葉の地元食材の魅力を、生産者さんの思いと共にクリエイティブに、できる限りわかりやすく表現したいですね」と山名シェフは微笑む。
かつて東京や大阪のレストランで経験を積んできた山名シェフ。都会のレストランとの違いは多くあれど「僕はこの場所で、野菜、養鶏、酪農、食の職人をはじめ、その道のプロたちに囲まれて料理づくりに打ち込むことができます。必然的に料理へのアプローチが、ポジティブに変わりました」と話す。
コースの始まりに登場する「白い宝石」は、水牛モッツァレッラをトマトのエキスに浮かべたスペシャリテ。チーズ職人の竹島さんからは「モッツァレッラは液体の中につけておかないと傷みやすいから」とのアドバイスがあり、トマトと昆布水のエキスからなるスープにそっと入れて客の前へ。
その水牛モッツァレッラは鮮度の良さが圧倒的! 心地よい弾力に続き、水牛ミルクの清々しく甘い香りに包まれる。また、トマトの旨みを抽出したスープ、バジルオイルと共に味わえば、口の中ではカプレーゼが完成。心が洗われるような名作だ。
「優しさに包まれたなら」という名のパスタも、「KURKKU FIELDS」の世界観を見事に表現した一皿。特大のラビオリにスッとナイフを入れると、産みたての卵(卵黄)のエキスが溢れ出る! ラビオリは噛むほどに味わい深く、まろやかな黄身の清々しい風味が共鳴。親鶏の骨からとっただしをベースにしたソース、セージバターソースが奏でる、味わいの立体感も楽しい。
「小麦を感じられるパスタを」と、登場した手打ちパスタにも物語がある。「イマフン」の全粒粉と、場内で収穫した全粒粉などを配合。さらに小麦を自家製粉する際に出る、小麦ふすまも捨てずに使うのだ。
小麦色をしたパスタには、水牛のチーズを作る際に出るホエーやバターなどからなるソースを絡めて。さらに、南房総の沿岸部で水揚げされるキビレなどの未利用魚の卵巣を塩漬けにした、自家製カラスミ風を削りかけ、富津の海苔と花山椒を添えた。
噛むほどに、小麦の質朴な味わいがじわりじわりと押し寄せる。続いて、卵巣塩漬けの優しい塩味と、滋味深いソースの味わいが広がった。
自然と共生し、生産者の思いと素材に寄り添う「perus」での貴重な食体験。コース料理のペアリングを一手に引き受ける、小高光さんと、山名シェフとのタッグも体感してほしい。
小高さんが仕込んでいたのは、花や蕾のシロップ漬けや塩漬け。「この瓶は、杏仁のような香りを醸す、上溝桜(うわみずざくら)。シロップ漬けにして1年発酵させます」と小高さん。春に芽吹く蕾をシロップにしたり塩漬けにしたり。さらには蜂蜜と共に発酵させたり。場内で芽吹く蕾や花も、大切に丁寧に、ドリンクや料理のエッセンスとして活用していた。
取材でお世話になった「KURKKU FIELDS」で働くスタッフたち。農業、酪農、養鶏、パン、シフォン、シャルキュトリー、レストランほか各部門のスタッフたちは皆「チーム」としての絆を持ち、互いに見事な連携プレーを行っている。
「KURKKU FIELDS」は365日“いのちのてざわり”を感じられる場所。この地に身を委ねると、自然界の循環に思いを馳せることができる。そして「食べる」という行為が、自然環境を破壊するのではない。今よりもさらに豊かな自然環境を育むことにつながれば……そんな大切な何かを、私たちに教えてくれるのだ。
※価格はすべて税込