肉ブームの火付け役の一翼を担った、名店の味が復活

ここ10数年続く肉ブーム(それも牛肉!)。その口火を切ったのは焼肉。牛一頭買いや希少部位の特化に始まる焼肉店の台頭が火付け役だと私は考えている。そしてその先駆けともなった名店は、なぜか世田谷は駒沢〜用賀周辺に集中していた。「ら・ぼうふ」、「焼肉芝浦」、そして今は祐天寺に移転した「三宿トラジ」などなど。そしてその一翼を担っていたのが「コソット」だ。

 

込山夫妻の温かなおもてなしと上質な肉に加え、価格も良心的となれば、“こそっとオープンした”にもかかわらず、瞬く間に予約の取れない人気店となったのも宜なるかな、だろう。そして、そのレジェンド店を作り上げた込山夫妻の新たな挑戦の場が、ここ「誇味山」。今年の1月11日に産声を上げたばかりの注目店だ。

木のぬくもりを感じられる店内

 

「4年前、しばらく飲食業を休むことになったのですが、いざ焼肉を離れると、思いのほか焼肉が恋しくて(笑)。実はかなり焼肉好きだったことを改めて知らされました」
そう照れ笑いする込山さん。心機一転、西麻布に構えた店は、レンガ造りの外観もお洒落なら、店内も小粋。ところどころに木の温かみを加味したインテリアは、焼肉店というよりも、ちょっぴりレトロな洋食店といった風情を醸し出している。

 

特等席は、込山さんとの会話を楽しみつつ肉を焼いて貰えるカウンター席!と思いきや、個室もなかなか捨てがたい。それというのも、カウンターのすぐ裏手が個室になっており、個室の窓を開ければ、カウンターに立つ込山さんの姿は目の前。込山さんも後ろをむけばすぐ個室ゆえ、その窓越しに個室客の肉も焼ける……、という構造になっている。そう、まるで車窓からカウンター席を望む感じなのだ。

個室の窓を開けると、カウンター席につながっている

ご主人の込山秀規さん

 

このようにほぼ全ての席に込山さんの目が行き届くような造りにしたのには訳がある。この店、和食の割烹よろしくメニューというものがない。全ては、ご主人におまかせのコースオンリー。しかも、基本、肉は全て込山さんが焼いてくれるのだ。
(時に奥さまがヘルプに入ることもありますが)

店の味は、塩よりタレ?

A5の処女牛を一頭飼い

 

牛は、コソット時代と同様、一頭買い。込山さん自ら芝浦まで出向き、その目で納得したものだけを購入。「A5の処女牛と決めている」そうだが、銘柄には特にこだわらず、その時々で最も良いものを仕入れているそうで、取材日は岩手県産黒毛和牛。コースでは、途中、ナムルやキムチ、サラダなどを挟みつつ、全12~ 13種の部位が次々に登場。それぞれの部位に合わせ、味付けを一つ一つ変える芸の細かさだ。

ヒレ

 

みすじ

 

中でも特筆すべきはタレ使いの巧みさ。昨今の高級焼肉は、肉質の良さを謳いたいがゆえに、ともすれば塩味重視になる傾向が顕著。もちろん、それはそれで美味いのだが、焼肉通が最後に行き着くのは、やはり“タレ”ということになるようで、

「肉質ももちろんですが、最終的に店の味と言えるのはタレにあると思うんです」
とは込山さん。ここでは、基本のもみダレと味噌ダレをベースにフレキシブルにブレンド。その時々の肉質や部位、出す順番、そして客の好みや飲む酒に応じて微妙に配合を変えて調合している。例えば、“サーロイン”はもみダレのみなのに対し、“みすじ”の場合はそのもみダレに味噌ダレを合わせ、更ににんにく、コチジャンを少量加えたやや辛口のタレを合わせるといった按配だ。また、うわみすじは山葵醤油、赤身の強いクリ(肩から前脚上部)は、塩ダレで塊焼きと味付けや食感にも変化をつけ、最後の一枚まで飽きることなく楽しませてくれる。

うわみすじ

 

クリ

 

締めには、込山さん渾身のつけ麺をぜひ。牛すじスープにスネ肉やネックでとったブイヨン、魚介とんこつの3種をブレンドしたつけ汁は、クセになる味。最後にスープで割ってもらえば、ちょっとしたユッケジャンスープの出来上がりだ。

つけ麺

 

また、見逃せないのは、深夜2時までの深夜営業。
「夜10時以降なら、コースでなくとも大丈夫。お腹に合わせて焼肉数枚としめのご飯ものでもかまいませんよ」

とは嬉しい一言。深夜なら、牛丼やチャーハンなどコースにないメニューも作ってくれるとか。深夜食堂としても重宝しそうだ。おまかせコース税込13,000円〜15,000円。

取材・文/森脇慶子

撮影/飯貝拓司