斬新さと調和を併せ持つ料理の数々

江戸時代の古伊万里、大正時代の瀬戸焼や織部焼、令和の有田焼など、ユーゴさんがコレクションしている食器の色やデザインと料理との融合も考えられた美しい盛り付けも大きな魅力

料理は、10〜15品のコース38,500円、ランチコース27,500円で提供。
懐石料理をベースにしつつ、フランス料理で親しんできたハーブやスパイスを巧みに取り入れ、繊細で豊かな唯一無二の味わいを作り上げている。

素材は海も山もある鎌倉の地の恵みを活かし、レンバイ(鎌倉市農協連即売所)で買い付ける鎌倉野菜や、横須賀・長井漁港の仲買人・長谷川大樹さんから仕入れる新鮮な魚介などを中心に、生産者の顔が見える旬のものを使用。
メニュー内容や品数はその日の仕入れ状況や、客一人ひとりに合わせて決めている。シェフと女将が一品一品丁寧に説明しながら提供し、会話も楽しみながら時間を気にせず堪能してもらうため、1組が3時間半〜4時間ほど滞在することもしばしばだという。

「真蛸のお造り」

さっと湯引きした真蛸の刺身を、ビーツと生姜、レモン果汁をあわせた爽やかな味わいのゼリーや、海苔の佃煮といただくお造り。アクセントとして添えられた蛸の吸盤のコリコリした食感も楽しい。
付け合わせは、フェンネルとアニスシード、ネギ、赤タマネギのサラダ。タマネギやネギの辛みや甘みに加え、アニスシードの甘みや清涼感、フェンネルの苦みなども加わり、主張しすぎないが意外性のある味わいだ。
「伝統的な和食では、お刺身に梅肉や出汁ポン酢のゼリーを合わせることがありますが、私のフランス料理の経験やインスピレーションから、ビーツや柑橘、ハーブやスパイスなどを取り入れています。馴染みのある和食なのに初めて出会う新鮮さがあり、それでいて違和感のない味わいを楽しんでいただけたらうれしいですね」(ユーゴさん)

「真鯵の棒寿司」。鮮やかな青色が美しい皿は「カマチ陶舗」の有田焼

横須賀・長井漁港で揚がった新鮮な真鯵を、大葉、木の芽、甘酢新生姜を混ぜたシャリとともに、しっとりやわらかな龍皮昆布(真昆布を蒸して甘酢などで味付けした加工昆布)で巻いた棒寿司。上に添えたレモンピールも爽やかなアクセントに。
海を思わせる青い皿との色彩のコントラストは、まるでアート作品のような美しさだ。
京都の伝統的な棒寿司は、保存食の一つとして魚を酢で締めたり強く塩を利かせたりするが、魚の旨みをそのまま楽しめるよう、生のまま使用。その分、シャリに大葉や木の芽などの香りや塩味を付け、シャリがソースのような役割を果たすように合わせているという。

ガリの代わりにサラダかぼちゃ・コリンキーを薄くスライスして甘酢漬けにし、実山椒とともに添えてある
「銀鱈の青梅味噌焼き」。絵皿は大正時代の九谷焼

銀鱈は、敷地内でとれた青梅と自家製味噌を合わせた特製の青梅味噌を塗って、香ばしく焼き上げている。銀鱈にしっかり脂がのっているため、酸味のある爽やかなペーストとよく合う。

付け合わせは、焼いた白ピーマンと茄子、つるむらさき。白ピーマンには、味噌ベースにベルガモット、マスタードシード、カモミールのはちみつを合わせたコンディマンを添えている。焼き茄子には煎りたての黒胡麻を丁寧にすり上げて仕立てたペーストを合わせている。

火鉢の炭火でゆっくり火を入れることで身はふわふわに、皮目は魚自体の脂でパリッと香ばしく焼き上がる
席の脇に火鉢を置き、ユーゴさんが魚を焼く様子を目前で見られる。皮目が焼けるパチパチという音や、漂ってくる香ばしい香りなど、魚が焼けるまでの時間も癒やしのひとときに

他にはない空間と味わいで心のチャージを

帰り際には、和食や日本のイベントにちなんだ月替わりのお土産も用意。この日は手漉き和紙で仕立てた梶の葉の七夕飾り。自宅に帰った後も思い出として残せるのがうれしい

非日常感あふれる空間で、一期一会の懐石料理を味わえる「心与」。
「都会ではこういう場所はなかなかないですよね。私自身も、自然と向き合うことでリラックスでき、新たな料理のインスピレーションが湧いています。日々のストレスなどをすべて忘れて、お客様に楽しく過ごしていただくことが私たちの一番の願いです」とユーゴさん。
ふと心を潤したくなった時は、北鎌倉へ足を延ばしてみては?

※価格はすべて税込・サービス料別

文:當間優子、食べログマガジン編集部 撮影:ジェイムス・オザワ