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〈秘密の自腹寿司〉
高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直されはじめたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。
粋な大将の熟練の技と会話を楽しむ、まっとうな銀座の江戸前寿司

高級寿司の価格が数万円に跳ね上がることも珍しくない昨今。そんな今の時代において、銀座の一等地で極上の寿司を「まっとうな価格」で味わえることが、どれほどすごいことか。その奇跡を体現しているのが、銀座7丁目に店を構える「鮨 おちあい」だ。

山本さん
東銀座でランチにお寿司を食べたいなと思っていた時に、ハードルが高すぎず良さそうだなと思い伺いました。銀座のビルの2階、入口が防火扉という隠れ家感のあるロケーションも素敵だと思います。

2007年にオープンし、まもなく20年を迎える同店を切り盛りするのは、大将の落合晋也さん。江戸前寿司の金字塔と称される名門「銀座 久兵衛」で研鑽を積んだ実力派だ。名門出身とはいえ、店内に堅苦しさは一切ない。板場に立つ大将とのざっくばらんな会話は粋で楽しく、カウンターには自然と笑みがこぼれる心地よい空気が流れている。
マグロや小肌、穴子も含めてランチコースは10貫4,950円~!


山本さん
ランチでリーズナブルながら、丁寧な仕事がされた握りがとても気に入りました。銀座だと5,000円程度で食べられること自体希少ですし、ネタごとの仕事の精度を考えると、銀座でなくてもこの価格帯なら最高レベルのコストパフォーマンスといえるクオリティだと思います。
夜はおまかせコース20,000円〜と本格的な江戸前の世界が展開されるが、昼の営業でもその質に妥協はない。「当日仕入れた魚はその日のうちに売り切る」という落合さんのポリシーが、鮮度の維持とまっとうな価格を両立させているのだ。ランチは10貫約4,950円、13貫7,700円と銀座の一等地ではかなりリーズナブルな設定。とりわけ13貫コースは巻物とお椀が付く充実の構成で、生の本マグロや小肌、ウニ、穴子といった夜の高級ネタも惜しみなく組み込まれている。
寿司の土台となるシャリは、茨城県産のコシヒカリとミルキークイーンの新米をブレンドし、ガス釜で炊き上げる。シャリ酢は、酒粕を原料とする横井醸造の赤酢や米酢など約3種類をブレンドしたもの。

そこに合わせるのは、大将自らが毎日豊洲へ足を運び、長年培った仲卸との信頼関係のもとで直接仕入れる新鮮なネタの数々。マグロ、エビ、アナゴなど、ネタごとに決まった仲卸ルートを使用している。飛び込みでは決して良品を得られない市場において、長年足を運び、人間関係を築き上げてきた結果が、毎日の確かな仕入れに直結しているのだ。

ガリは新ショウガをスライスし、シャリとは配合を分けた米酢に砂糖と塩を加えた甘酢で即漬けにした自家製。ワサビは季節によって水分量が変わるので、春夏は水っぽさを抑えるために粗めにおろし、ネタによって鮫皮と金属のおろし器を使い分けるという徹底ぶりだ。
東京湾産の小肌や白身魚を使った、江戸前の手仕事が光るネタの数々

江戸前の技が光る小肌は、皮がやわらかく小ぶりで見栄えの良い江戸前(東京湾産)にこだわり、塩で17〜18分、酢で6〜7分という短時間で締める。歯切れがよく、噛むほどにシャリの酸と小肌の酸と脂が混ざり合った芳醇なうまみが広がり、そのおいしい余韻が長く続く。

夏の白身魚として登場するクロムツも、外洋のものではなく、脂ののりが良くしっとりとした舌触りが特徴の東京湾産を使う。生の白身や貝類にはスダチを利かせ、火入れや煮物系には柚子皮を削って香り付けをする。

赤貝は「刃打ち」という切り方を施す。これにより貝の繊維が切れ、キュッとした心地よい歯切れの良さが生まれる。平貝の貝柱も、静岡産の塩とスダチをふり、昆布のような貝特有のミネラル感のある味わいに。

ヤリイカにも落合さんの技術と思想が宿る。スミイカなどのコウイカ系と違ってヤリイカは身が硬いため、隠し包丁を入れただけでは噛み切ることはできても、口の中でほどけていくような食感を出すのは難しい。そこで短冊切りにしてまとめることで、シャリと混ざり合いほどける食感を生み出している。

必要な手仕事は施す落合さんだが、根本にあるのは素材の味を最大限引き出すという考え方だ。北海道産のシマエビは、甘さと香りの良さを味わうため生のままで、少量の醤油をつけ、スダチを搾るのみ。これにより、エビの香りと共に、ねっとりとした極上の甘さを存分に引き立たせている。
塩とタレで! 外はカリッと、中はふんわりの極上食感の穴子


山本さん
穴子がタレ塩両方出てくるのがうれしかったです。どちらがいいですか、と聞かれたらハーフ&ハーフとお願いしたりも昔はしていたんですが、最近タレか塩か、聞かれることも少ないですね。
そして、多くのゲストを魅了するのが穴子だ。13貫コースでは、タレ(煮詰め)と塩の2種類のバリエーションで食べ比べが叶う。穴子はまずふんわりと煮た後、オーブンで香ばしく焼き上げる。タレは、頭や骨から出るコラーゲンを利用し、煮汁をつぎ足しながら自然なとろみを引き出したもので、醤油は煮詰める最終工程で初めて加えられる。水あめなどで人工的なとろみをつけることはせず、酒やみりんを煮切って塗りやすい粘度に整えている。

ふっくらとした身と、香ばしく焼かれた皮目のコントラストが見事な穴子。素材の輪郭を際立たせる「塩」と、甘みや塩気が控えめで、穴子のうまみを深く受け止める「タレ」。甲乙つけがたい2つの魅力を、一度に食べ比べさせてくれる大将の粋な計らいに心が躍る。

その日のマグロの仕入れに余裕がある時だけ、最後の巻物としてネギトロが登場する。合わせるのは一般的なネギではなく、アサツキ。これにより熊本県産の海苔の風味、マグロのうまみを上品に引き立てる。

コースの終盤を彩る玉子焼は、気泡が一切ないプリンのようになめらかな口当たりだ。すり身にした芝海老を玉子8個に対して100gとたっぷり配合し、砂糖、みりん、酒、水で水分量を緻密に設計。フライパンを使用し、約80℃という低温で火からの距離を管理しながら約1時間かけて均一に加熱している。締めくくりには、出汁がよく出たカニの味噌汁や、網走湖産のシジミのお椀などが供される。

山本さん
蟹の味噌汁が、出汁がよく出ていてお寿司との相性もばっちりで、贅沢でおいしいなと思いました。
ソムリエの資格も持つ大将に、日本酒やワインもお任せあれ

落合さんは寿司職人でありながら「日本ソムリエ協会認定ソムリエ」の資格を有している。飲料のメニュー表はあえて置かず、好みを口頭でヒアリングして提案するスタイルで、店舗には約20銘柄ものワインがストックされているという。ワインだけでなく、日本酒や焼酎、ハイボールなども幅広く揃え、グラスの価格帯は銀座でありながら1,000円~とかなり良心的だ。
名店の系譜を受け継ぎつつ、独自の進化を続ける落合さんの珠玉の握り。本当は誰にも教えず秘密にしておきたいが、食を愛する人にはつい自慢したくなる。そんな悩ましいジレンマを抱かせる、銀座のとっておきの一軒だ。



