2026年8月

朝「リトル小岩井」(東京・大手町)

よしぞう1103
外観   出典:よしぞう1103さん

朝スパである。朝一番で焼きスパである。7:00〜はテイクアウトのみ、10:30〜は店内飲食可能の大手町の「リトル小岩井」にやってきた。

独特の焼きスパは、ナポリタン、ジャポネ、イタリアン、アラビアータ、塩ベジタブル、醤油バジリコ、タラコ、キーマカレー、きのこバターと用意されている。

人気は、ナポリタンに、香ばしいニンニク醤油風味に引かれるジャポネ、塩味ベースに大葉の香りを利かせた醤油バジリコだが、今朝は「イタリアン」を選んだ。

「イタリアン」670円

「イタリアン」。世界中に「イタリアン」と名乗るものは数多くあるが、これほどイタリアとかけ離れているものはない。そういう意味で、とても立派なのである。

朝なので、「油少なめ」でお願いした。ふわふわのスパゲッティーに、うまみが強い塩味とサラダ油がたっぷりとからまって、イタリアじゃないのにイタリアでっせと煽られる。可愛いサイズの海老と、玉葱、ベーコン、ピーマン、マッシュルームという布陣が、ほどよく絡まっている。胡椒をかけ、次にタバスコをかけ、最後に粉チーズをかけて、味の変化を楽しむのがいい。

異論もあろうがマッキー流は、別盛り(酢キャベツの別盛り)を追加して、混ぜちゃう。普通酢キャベツは、油っこさのリフレッシャーとして食べるが、混ぜちゃう。
麺の上にかけると冷めるので、麺の下に入れてしばし温めてから、混ぜて食べる。

ハハ。どうだ。誰もやっていないぞ。
やるわけないか。

試してみたらわかが「イタリアン」のやるせなさが増幅して、無常さえ感じられるのであった。

ちなみに店名の「リトル小岩井」におけるリトルとは、以前この場所で小岩井農場が直営していた店を、現オーナーが受け継いだ関係で、元の店へのリスペクトを込めて「リトル」をつけたらしい。

そんな愛ある由来を思い出しながら食べる朝スパは、実にすがすがしい。

昼「焼肉 アポロン 神田駿河台」(東京・新御茶ノ水)

外観
外観   写真:お店から

牛肉が食べたい! おなかいっぱい食べたい!

そう思ったらもう、気分はお茶の水に飛んでいる。「焼肉アポロン」の昼定食「黒毛和牛焼肉定食」2,980円へ、まっしぐらである。

昼ごはんとしては、ちと高いと思う方もいるだろう。だがこれほど費用対効果の高い肉定食は滅多にないと、断言したい。

運ばれた瞬間に狂喜する。皿の上には、厚切りの肉が4種類鎮座しているではないか。これで気分が上がらない人とは、お友達になれないと思うほどの肉盛りなのであった。

「黒毛和牛焼肉定食」2,980円

ある日は、肩ロース、カイノミ、ウチモモ、ミスジといった布陣である。「さあ早く焼く食べろ」と、艶やかな断面を見せて、誘ってくる。我々が肉屋で購入しても、3,000円は余裕で超えるであろう質と量だ。

恐ろしく安い。しかもカイノミやミスジなんて、一般的な肉屋ではなかなか購入できないもんね。

濃厚なうまみの赤身肉

さあどれから攻めるかな。きめ細かくて柔らかい、赤身肉の濃厚なうまみがある、ウチモモから始めよう。口の中で脂がふわりと溶けゆくミスジを食べて、次にきれいにサシが入った脂の甘みと肉のコクが味わえる、肩ロースといこう。

最後は、個人的に最も好きな部位であるカイノミだな。ヒレ肉の柔らかさと赤身肉特有の香りを併せ持ち、深い味わいと肉汁に富む部位で締めくくる。

もちろんかたわらには、ご飯である。肉を熱々ご飯にのせて、一緒に食べる。くるりと巻いて食べる。肉を食べて直ちに、タレがうっすら染みたご飯を掻きこむ。

ご飯が進む!

ああたまらない。

自分のペースで焼いて、ご飯にのせてひたすら食べる。そうしたいので、一人で行く。肉を欲していた心を躍らせ、ひたすら食う喜びを体に満たす。体は上気し、鼻穴は膨らみ、顔は緩み、やがて大いなる安寧を迎える。昼なのに、ついビールを頼みたくなるが、今日はグッと我慢をした。

牛肉とご飯の蜜月を、とっぷりと楽しんだ。

夜「ORIGINe」(東京・竹橋)

外観
外観   写真:お店から

夫婦で営む、小さなフランス料理店である。吉田夫妻は、今年2月大阪より移転してきた。

「ナスタチウムと大葉のアイス、泉州の鱧、きゅうり、水茄子」

この月のアミューズは「ナスタチウムと大葉のアイス、泉州の鱧、きゅうり、水茄子」である。爽やかな香りをまとわせた鱧が、口の中に涼風を吹き込ませる。

「紫ウニコンソメジュレ」

続いて「紫ウニコンソメジュレ」が出された。よく見かける料理だが、丹念に取られたコンソメの澄んだ滋味が、質の高いウニの甘みを後押ししている。

「とうもろこしのフラン」

「とうもろこしのフラン」も、この季節よく出される料理である。だが他と違い、濃密である。聞けば、肉のジュを少し入れているのだという。その味わいが、上に配されたリードヴォーと相まって、深い味わいを出しているのだった。

「渡り蟹のサラダ」

続いては「渡り蟹のサラダ」が運ばれた。

枝豆やイトウリと合わせたカニのサラダの横には、蟹のコンソメとラビオリが控える。ラビオリの皮がいい。作りたてなので、甲殻類のうまみが凝縮したきれいなスープの中で、すうっと溶けていく。そこへサマートリュフの香りが、艶を出す。このエレガントな仕立てのスープに、カニの身を味わうサラダが対をなす。

新鮮な甘みと味わいが深いスープという、ワタリガニが持つ両面の魅力を合わせた皿に、充足のため息をついた。

「鰻とフォアグラのプレッセ、燻製鰻とフォアグラのテリーヌ」

最後の前菜は「鰻とフォアグラのプレッセ、燻製鰻とフォアグラのテリーヌ」である。ブルーベリー、山椒、杏のピューレ、ブロンズフェンネル、マリーゴールド、オクラのサブジが添えられる。

儚く妖艶に消えゆくフォアグラの甘い香りに燻製鰻の野生感が響く。果物の甘酸味やハーブの香りが混じり、響き合い、優美な余韻へと導く。フレンチのエスプリを感じさせる前菜であった。

「八幡浜マナガツオ」

魚料理は「八幡浜マナガツオ」が用意された。

付け合わせは、根セロリのピュレと青リンゴ、トマティーヨ、フレンチ・カレーパウダーのヴァドゥーヴァン、トマトベースのスパイスである。しとやかで品がありながら中身はしたたかな味わいを持つ、マナガツオという魚を見事に生かしきった料理である。適切な加熱、ガルニの妙があり、八幡浜が生み出す力が心に染み渡った。

「伊勢の鮑」

続いての魚料理は「伊勢の鮑」である。ココナッツの泡、鮑の肝リゾット、オルティ(イラクサ)のソース、豚ミミのコロッケ、オルティの青い香り、ココナッツの甘やかな香りが鮑が秘めたうまみを引き上げる。赤ワインが恋しくなる料理であった。

「愛知のうずら」

続いての肉料理は、間にフォアグラを挟んだ「愛知のうずら」である。ダークチェリー、うずらのジュのソースが添えられる。キュイソンに対する確かな腕を感じた。

また生地が好きなフランス人を彷彿とさせる、柔らかい肉の時には優しく火入れするパイ生地の焼き具合も素晴らしい。フランス料理を食べているという興奮が、体の内から湧き上がってくる料理である。

「パニプリパパド」

アヴァンデセールは「パニプリが好きなので作りました」という「パニプリパパド」が運ばれた。インドのストリートフードで、小麦粉の生地を小さな球状にし、中が空洞になるよう丸くカリカリに揚げた料理である。食べた瞬間に叫ぶ。「これは冷コーだあ」と。甘みをつけたミルクのムースとコーヒーゼリーを使った、大阪的アイスコーヒーのパパドなのであった。

「メロンのスフレグラッセ」

続いては「メロンのスフレグラッセ」で、メロンのスープやジュレ、貴腐ワインのジェリーとミントのデセールで爽やかに締めくくる。

マダムが選ぶワインのセレクトもよく、また料理の説明にも愛が溢れ、温かい気持ちを運んでくる、フランス料理店である。

教えてくれた人

マッキー牧元
株式会社味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチ、エスニック、スイーツに居酒屋まで、年間600回外食をし、料理評論、紀行、雑誌寄稿、ラジオ・テレビ出演。とんかつブームの火付け役とも言える「東京とんかつ会議」のメンバー。テレビ、雑誌などでもとんかつ関連の企画に多数出演。

※価格は税込です。

文・写真:マッキー牧元